第22話 秘密会議(後編)

ーーはい、みんなそこで話を最初に戻すよ


 黒板の文字をファン兄が読み上げてくれた。


ーーこの孤児院をどう思ってる?

  明け渡すことになったらどうする? 仕方ない?

  他の孤児院に行ければいい?

  それともこの孤児院が好き?

  これからどうしたい?


 ファン兄が読み終えると、場がシーンとした。


ーー難しいことはいい。これからもここにいたいか、別にどこでもいいのか


「待って、なんでそんなことを聞くの? 明け渡すも渡さないも、私たちじゃどうにもできないよ?」

 アリスが言うと、年長の子たちは同意するとばかりにうなずいた。


ーーそう、わたしたちは子供だよ。できることは少ない。でもひとりひとりができることをやれば大きな力になる。わたしたちは大人じゃない、ひとりじゃできることが少ない子供だから、同じ考えじゃないとうまくいかない。だから聞いてるの。

  どうしたいのか


「ミルカは何かいい案があると言ってるの?」


ーーやってみなければわからない。でも考えていることはある。院をどうにかするにはみんなの助けがいる。みんなが助けてくれるなら、やってもいいと思ってる。

  でも、大人の言う通りにする方がいいと思っていて、他の孤児院に行くとか、その方がいいと思うなら。足並みが揃わないなら、うまくいかないから院を助けようとはしない。わたしたち兄妹だけちゃんと生きていけるように計画をたてる


 みんなの目が大きくなる。

 エバ兄とファン兄も驚いている。

「ミルカ、なんてことを言うんだ? 院ではみんな家族みたいなものだろ? みんなのことを考えて」


ーーだからみんなのことを考えている。

  みんながこの孤児院がいいと言うのなら、足並みが揃うなら、もちろんそう考える

  でも他のところに行きたい子もいるかもしれない

  大人の言うことが何より正しいという子もいるでしょ? そういう考えの子がいたら、わたしの案はうまくいかない。

  その子のためにも、どうしたいかはひとりひとり考えて、答えを出すべき


「エバンス、ミルカのいう通りだよ」

 ハウルが味方をしてくれた。

「でもミルカ。もし他に行きたい子や大人に任せたい子が少数だったら、そう意見することで自分たちが反対したからだって思えて言いづらいかもしれない。

 だったら、ミルカの案にのって院をどうにかしたい人は協力する。他の人は協力もしないけれど、大人に告げ口したりして邪魔をしないってするのはどう?」


ーーわたしはそれでいい


 ハミルはひとりひとりにそれでいいかを聞いた。もし言ってることの意味がわからないのなら、今がきくチャンスだとも。

 いくつか質問が出て、ハウルの言ったことを納得したようだ。それで、ハウルから順にどっち派かを自分で宣言した。

 大人に任せた方がいい派は少数だった。

 男の子はキノ、リーマ、トマ、ホッツの4人、女の子はキキとララの2人が協力はしない、けれど邪魔はしないと約束してくれた。

 案は明日話すとして寝ることにした。瞼が限界だったからだ。


 エバ兄がわたしの頭を撫でて、いつの間にか誰にでもいっぱいのことを話せるようになったねと言った。

 わたしは夢の中で答えていた。

 神さま見習いの時、徹底されたのはホウレンソウ。報告、連絡、相談だ。それから課題が山ほどあって、それを発表することも。わたしは考えが偏りがちだと言われて、下界の子供たちの観察を課題にされたっけ。

 課題を解かれてからも、わたしは人を観察するのがクセになっていた。

 その中には、わたしのように問題を抱えている子も少なくなかった。

 同じように親から愛情を一切与えられずに育つ子もいた。

 でもその子は生きて、生きて、天寿をまっとうした。自分で家族を作って、家族をとても愛した。新しい家族からも愛されていた。

 時々思った。そうやって上手くいった人とわたしは、何が違ったのかなって。

 それは比べること自体間違っているんだろうけど。

 でも、上手くいった人たちは発信をしていたように思う。

 自分で考えて、その思いを誰かに伝えてた。

 わたしは誰かに何かを伝えたことがあったかな? いや、なかったと思う。

 わたしは嫌なことは嫌ってもっと言って良かったんだと思う。

 そうしても何も変わってなかったかもしれない。親に何か言ってたら余計に殴られただろうしね。

 でも学校は好き?と聞いてきた先生に。ベッドで寝る前に手を濡タオルで丁寧に拭いてくれた保健の先生に。ねぇ、ちゃんとご飯食べてる?って聞いてきた、声の大きな、人の粗探しばかりしてると評判の近所のおばあちゃんに。帰ろうとした時に目があったあの子に。もし何か言えてたら、何か変わったのかな?と思う。何も変わらなかったのかもしれないけど。

 グループで課題をこなすとき、意見は言わなくちゃならなかった。わたしは思っていることがなかなか伝わらなかったけど、伝えようと試みた。

 観察で分かったことがあったからだ。伝わらなくて悲しい思いをすることは、誰にでも普通にあること。それでもみんなチャレンジしていること。それが分かった。

 だから面倒だけど、みんなだって何度も言うのも聞くのも嫌だろうけど、なるべくわたしは思ったことに近いことが伝わるまで話した。

 そしたら、ちょっとみんなの見る目が変わった気がした。

 言われたこともある。伝わらなくてもいいやって終わらせられる方が、自分が相手にとってそれだけの存在だって思えて、聞くのが悲しい気持ちになることもあるって。

 今世で、わたしは口がきけなかったけど、父さんも母さんも、兄ちゃんたちも、わたしの気持ちを聞いてくれる。どうしたいかって手伝ってくれようとする。だからわたしもそれに倣うことにする。

 黒板に書いての会話でめんどうだけど。聞かずに、言わずに悲しい思いをするより、言って悲しい思いをした方がいいと思えたから。

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