第5話 力が欲しい! ~富田浩一郎の場合~

 富田浩一郎は憂鬱ゆううつな毎日を送っていた。


 浩一郎は営業だったが、業績は何時も下位で、今日も朝から課長に怒鳴られた。

 やる気がない訳ではない。いつも商談で良いところまで行くのだが、詰めが甘いというか、契約直前で断られてしまうことが多かった。

 身体も小柄で迫力も無い彼は、断り易いのだろう。


 浩一郎は今日も、資料がつまった重たい鞄を抱え、アポの取れた新規顧客の所へと向かっていた。

 顧客の事務所が見つからず、住所を書いた手帳を見ながら裏路地で左右を見渡していた時だった。


「ちょっと」


 横からいきなり声をかけられた。気配が無かったので、思わず浩一郎は声とは反対方向に飛び退いた。そこには易者が座っていた。



「あんた、近いうちに世界を変えるよ」



 うつむき加減に座る恵比寿顔をした男の、地獄から響いてくるような声に恐れをなし、浩一郎はその場から駆け足で過ぎ去った。

(なんなんだ?)


 振り返ってみると、既に易者の姿は無い。

 浩一郎は立ち止まり、易者の言葉を思い出していた。どう考えても自分には関係のない言葉だった。成績は悪くとも、転職する勇気も自信も無い。


 顔を正面に戻す。

 そこには探していた顧客の社名が書かれた看板があった。

「あ、ここだ」

 浩一郎は気持ちとネクタイを締め直し、ドアをくぐった。



◇◇◇◇

 浩一郎は浮かれていた。

 予想以上に顧客との話がとんとん拍子に進み、契約が取れたのだ。

 会社へ帰る途中の表通りを歩きながら、思わず鼻歌が漏れる。


 ふと見ると前方に、ミニスカートを履いた脚の綺麗な女性が歩いていた。

 ウルトラマイクロミニで、あと少しで下着が見えそうだ。

 ひらひらと舞うスカートがもう少し上までまくれてくれないモノかと思いながら、前方を歩く女性の尻を見ていた。


 その途端、スカートの中央がまるで、釣り糸で引っかけたように持ち上がり、純白のパンティが見えた。


「キャッ」

 女性は思わずスカートを押さえる。

 振り返った女性は顔立ちも美しかった。

 その切れ長の瞳が浩一郎を睨む。

 そしてつかつかと浩一郎に歩み寄り、平手打ちを喰らわせた。あまりの衝撃に、浩一郎の体が半回転する。

 女性は何も言わず、ヒールの音を響かせながら去って行った。


(俺がめくった訳ではないのに・・・・・・)

 女性の理不尽な仕打ちに彼は頬を押さえながらも、良いモノを見れた嬉しさに顔を緩ませながら会社へ戻っていった。



◇◇◇◇ 

 会社帰り、浩一郎はパチンコ屋に立ち寄った。

 いつもパチンコをする訳ではないが、今日は契約も取れて課長からも褒められ、頬は痛いがイイ光景が見れたので「運がいい日」な気がした。

 パチンコ台に座り、玉を購入し、ハンドルを回す。チャッカーに玉が入るように調整していると、続けて玉がチャッカーに入った。画面の数字が動き出す。

 画面からチャッカーに視線を移すと、不思議な光景が目に入った。


 打ち出す玉全てがチャッカーに入っていくのだ。

 最初は回りの良い台を選んだのだとばかり思っていたが、打ち出す玉全てがチャッカーに入る光景に、浩一郎は恐ろしささえ感じた。店員に見つかれば、不正を疑われるかもしれない。


 チャッカーに1個玉が入ると数発玉が出てくるので、持ち玉が減ることはない。それどころかどんどん増えていく。そのうち、下皿が一杯になり、浩一郎は箱に玉を流し入れた。

 恐ろしい気がしたが、めるのも忍びない。箱に溜まってゆくこの玉は、換金出来るのだ。

 試しに浩一郎は台の下方にあるチャッカーに意識を向けてみた。その途端、下のチャッカーに玉が吸い込まれていく。


(え?)

 一定間隔で打ち出された玉は、釘に跳ね返りランダムに落下しながら、浩一郎の意識を向けるチャッカーに収束していき、全て飲み込まれていく。

 呆然とチャッカーへ向かう玉の行列を見つめながら、浩一郎はその原因を探っていた。が、思い当たる節が無い。


 そうしている間に、数字が3つ揃い、当たりが来た。

 じゃんじゃん出てくる玉の処理に追われ、浩一郎は原因追及を止めた。

 浩一郎の注意力がとぎれたパチンコ玉は、初めて回収穴にも入るようになった。



◇◇◇◇

 外で食事を済ませてアパートに帰り、テレビを付けっぱなしで横たわったまま、浩一郎は手に持ったパチンコ玉を見つめていた。換金する前に1個、ポケットに仕舞っていたのだ。

 ニュースではK国への経済制裁が発動されたというアナウンサーの声が流れていた。


 仰向けになり、親指と人差し指で挟んだ、銀色に光るパチンコ玉を見つめ続ける。ニュースの声を聞きながら、浩一郎は暫くパチンコ玉を凝視していた。

 ゆっくりと人差し指と親指の力を抜いていく。

 パチンコ玉から指が離れた。


 !?


 驚くべきことに、銀色の鋼球は落下せず空中にとどまった。

 浩一郎は玉を凝視しながら起きあがる。

 確かに玉は宙に固定されていた。

 角度を変えてみても、やはり空中に浮いている。


(右・・・・・・)

 そう考えた途端、玉はゆっくりと浩一郎の眼前を右に動き出した。 

 右手の掌を上に向け、(固定解除)と念ずる。パチンコ玉は右手に落下した。


 浩一郎は半ば放心状態で掌のパチンコ玉を見つめていた。

(これってもしかして・・・・)

 浩一郎の脳裏にある言葉が浮かぶ

(これは「念動力」というやつじゃないか!?)


 念動力サイコキネシス

 思考だけで物体を動かす超能力のことだ。

 パチンコ玉を再度浮かして、空中で自在に操ってみると実感が沸いてきた。

 次はどのくらいの距離に影響するのか試してみようと考えた。


 パチンコ玉をどんどん自分から離していく。

 パチンコ玉は部屋を横切り、部屋の端まで辿り着いた。

 そこには窓がある。

 浩一郎は窓に近寄り、窓を開けた。

 パチンコ玉は部屋の外を出ても直進していく。


 浩一郎は窓を閉めてみた。

 パチンコ玉は直進を止めない。パチンコ台もガラスに仕切られており、その状態でパチンコ玉を操れたのだから、ガラスなどの障害物にこの「力」は影響を受けないようだ。


 浩一郎は窓を開け、パチンコ玉を戻した。

 次はどのくらい重い物を操れるかだ。

 机の上にあるティッシュ箱を指さし、指を上に向ける。

 ティッシュ箱は宙に浮いた。

 右手の指はそのまま、左手を床に置いてある雑誌を指さす。

 指を上に向けると、雑誌は浮き上がった。

 ティッシュと雑誌を宙に浮かせたまま、テーブルを右手で指さす。

 ゆっくりと腕ごと指を動かすと、小さいながらもテーブルが宙に浮いた。

 浩一郎は次々と目に止まる物を浮かせていった。鍋、茶碗、TV・・・・・・。


(まわれ)


 そう念じると、空中に浮いた物体が、ゆっくりと浩一郎を中心に回り始めた。


 浩一郎は楽しくなってきた。

 物を元在った場所に戻し、窓を開け、アパートの下を見る。そこには駐車場があり、数台の車が止まっていた。

 窓の真下に駐車している車に集中する。

 その車がどんどん大きさを増す。いや、浩一郎に近づいているのだ。

 ついに窓の外まで車が浮いて来た。そこで上昇を止める。


「は、はははは・・・!」

 自分は物凄い能力を身につけたのだと実感した。

 車を静かに元に戻すと、ベッドに横になった。

 原因は判らないが、自分は「物体」を自在に操る能力を身につけたらしい。

 この力をどのように使ってやろう。

 そのような考えをめぐらせて、興奮のあまり浩一郎はその日、なかなか寝付けなかった。



◇◇◇◇

 浩一郎は外回りを続けていた。

 念動力という能力を持ったはいいが、何に使えばいいかさっぱり判らず、浩一郎はいつもの日常を続けていた。


 公園の脇を歩いていたときだった。

 遠くから泣き声がする。

 公園の方を見ると、白い服を着た幼い少女が木の下に立ち、目元に両手の甲を当てて泣きじゃくっていた。


 最初は何故泣いているのか判らなかったが、視線を木の上に移すと、少女のちょうど真上に風船が引っかかっている事に気づいた。

 浩一郎が風船に集中すると、風船はゆっくりと降りてきた。

 少女は目の前に風船が浮かんでいるのに気づき、

「風船が私の所に戻ってきてくれたー!」

 とはしゃぎ、風船の紐を掴んで走り去っていった。


 その少女の後ろ姿を見ながら

(こういう良い使い方もあるのだな)

 そう思いながら浩一郎は笑みを浮かべた。


 その時、浩一郎の頭頂部になにかが触れた。

 雨かな? と指を頭頂部に触れさせたが濡れてはいない。空を見上げたが、雲一つ無い晴天だった。


 そのことは気にしないことにして顔を前に戻すと、ランニングをしている人が前から走ってきているのが目に入った。

 フードを頭からかぶり、時々軽いジャブを繰り出す。

(わ~・・・・・・アスリートだ)

 体つきから、常人の倍ほどの筋肉がついているのがジャージ越しでもわかる。

 格闘技をしている人間だと思われた。

 その存在感に感嘆しながら、フードの中の顔を見たいと思った。


 浩一郎は格闘技ファンだった。

 背が低く、何をやっても筋肉が付かない体質なので、自分が格闘技をする事は不可能だと思っているが、観るのは好きだった。よく試合観戦にも行っていた。

 自分が大男を投げ飛ばしたり、殴ってダメージを与えることが出来たらどんなに興奮するだろうといつも思っていた。

 そしてあの試合会場の歓声。

 リングで一度でも賞賛の歓声を受けられたらどんなに素晴らしいだろう。


 格闘ファンだから、ある程度の選手の顔は判る。

 走ってくる人物が自分の知っている人物だったら、サインをもらおうと思っていた。

 しかし、顔を確認することはできず、浩一郎の横を通り過ぎる。

 その時、軽い風圧と熱気のようなものを感じ、浩一郎は感動した。

(やっぱり本物は違うなあ・・・・・・)

 そんなことを考えながら、浩一郎はアスリートを目で追ったまま歩き出した。


 その途端、人にぶつかった。

「あ、すみません・・・・・・」

 妄想の世界に入り込んでいた浩一郎は、気のない謝り方をして、その場を去ろうとした。


「まてや! こらぁ!」


 背後からかけられた怒声に、浩一郎は体を硬直させる。

 恐る恐る振り返ると、そこにはいやに光沢のあるスーツを着て、サングラスをかけた屈強な男が2人、立っていた。


 背の高いごつい男のほうが、サングラスを外し、胸ポケットにしまいながらゆっくりと近づいてきた。思わず鞄を抱きしめ後ずさる。


「なんや、その謝り方わぁ」

 その男は浩一郎の肩を軽く押そうとした。

 恐怖のあまり、浩一郎は思わず手で防御しながら「力」を使った。

 男の右手が パンッ と弾かれる。


(しまった!)

 男は少しきょとんとして、ゆっくりとこめかみに血管を浮き出させた。


「なにさらすんじゃぁ! こらぁ!」

 男は殴りかかってきた。

 浩一郎は顔をそむけながらも、右手で男の拳を受けた。

 男の拳が弾かれる。

 男は益々怒りを露わにして、連打を放ってくる。

 浩一郎は左手で鞄を胸に抱きしめたまま、右手でそれを弾いていった。


 実際には手で受けているわけでは無い。相手の拳に対し「力」をつかっているので、完璧にガードしなくても浩一郎には届かないのだ。


「止めてください!」

 浩一郎は思わず右手を突き出した。

 男の体が宙を飛ぶ。

 男は尻もちをつき、きょとんとした表情を浮かべた。


 その顔が徐々に赤く怒張していく。

「この野郎!」

 男が立ち上がって突進してくる。まるで猛牛のように。

「まて! 五郎!」


 もう一人のスマートな男のほうが、突進する男を言葉一つで静止させた。

 突進を途中でやめた男の横を通り過ぎ、浩一郎に近づく。

「なかなかやるやんけ、自分~」

 浩一郎の前まで来た男はそう言った。

 そして浩一郎の耳元に顔を近づけると、こう言った。


「イイ話があるんやけどな、兄ちゃん・・・・・・」



◇◇◇◇

 浩一郎が連れて行かれたのはビルの地下室だった。

 とある一室に連れて行かれ、裸になれと命じられて言うとおりにすると、ボクサーパンツを履かされ、全身にグリスを塗られる。

 それが済むと、部屋から出され長い廊下を進み、大扉の前に立たされた。


「行くぞ」

 と言われ、考える暇もなく大扉が開かれる。

 扉が開くと同時に大音響の音楽と歓声が包み込んだ。


 足を踏み入れると、眩い光が目を刺激し、スモークの噴出に驚く。

 歩いていくとスモークが無くなり、その先に大勢の観客とリングが見えた。

 そのリングは金網で囲われている。


 天井からは画面がぶら下がり、そこには「オッズ」と書かれている。

 金になる話がある、と言われてここまで付いてきた浩一郎だったが、なんとなく状況が掴めてきた。

 ここは地下格闘技場で、選手の勝ち負けを賭博とばくにしているようだ。

 画面にはレッドとブルーの枠と、数字が書かれている。

 浩一郎は青コーナーからリングに昇らされ、後ろから鍵が掛けられた。

 サングラスをかけた男が浩一郎に話しかける。


「ええか。ここから出られるのは相手の意識を奪った時か、お前の意識が無くなった時や。ただし、ここにはストップをかけるレフェリーはおらん。気を失うと相手から半殺し、いや殺されるぞ……」


 そう言って、サングラスの男はコーナーから降りて行った。

 浩一郎は身震いした。もしかして自分はとんでもない事に巻き込まれているのではないだろうか・・・・・・。


 会場に大歓声が響き渡り、目の前の通路にスモークが噴出した。

 その白煙から現れたのは、筋骨隆々の黒人だった。

 目が血走っている。


 すぐに赤コーナーに入り込み、こちらを見るとにやりと笑った。

 セコンドと可笑しそうに笑い合っている。

 こちらを指さしているところを見ると、浩一郎のことをせせら笑っているのだろう。

 画面のオッズが切り替わっていく。相手の賭け率は限りなく1に近かった。


 それはそうだろう。相手は胸板が浩一郎の倍はあろうかという黒人。浩一郎は背が低く、日に焼けていない肌は真っ白で、肋骨も浮き出ている。脚の太さなんて相手の腕より細い。

 浩一郎は不安になってきた。


 「力」がもし無くなっていたら、自分は殺されるかもしれない───。


 そう思うと、身体が芯から冷えてゆき、脚がガタガタと震えだした。

 それを見た観客は黒人側に賭け、浩一郎のオッズがどんどん上がっていく。

 アナウンスも何もなく、突然ゴングが鳴った。

 観客の怒号と共に、相手の黒人が突進してきた。

 恐怖で顔が青ざめる。

 黒人は一発で倒そうと拳を振り上げた。

 上から打ち下ろされる拳を、浩一郎は両腕でかばった。


 ・・・・・・?

 目を開けると、黒人が不思議そうな顔で立っていた。

 自分には何も衝撃が無かった。


(「力」が使えた!)


 浩一郎は安堵した。

 少し余裕が出てきた。

 黒人が猛ラッシュをかけてくる。

 それを浩一郎は全て弾き返す。

 黒人は倒そうと足首を狙って蹴ってきた。

 それも弾く。

 相手は明らかに動揺していた。こんなひ弱そうな日本人に、どうして自分の攻撃が通用しないのか。そう考えているに違いない。


 浩一郎は動きが止まった黒人にパンチを繰り出した。

 格闘慣れしている相手にとって、それは何でもないパンチに見えた。

 黒人は片手で振り払おうとした。

 その手が押し戻される。

 浩一郎は相手の顔を見ていた。


 黒人はやっと、浩一郎が放った拳がとんでもないパワーを持っていることに気付いたようだ。

 だがもう遅い。


 恐怖にひきつる黒人の顔面を、浩一郎の拳が叩く。

 黒人は宙を舞い、金網に激突した。

 そのまま白目をむき、ずるずるとマットに倒れこむ。

 場内が静まる。

 観客も何が起こったか理解できないのだ。


 だが、興奮している観客たちは、次の瞬間カウントを始めた。

 カウントが進んでいく。

 浩一郎は汗だくだった。

 興奮の汗だ。息も荒い。


「テン!」

 その途端、会場が湧いた。

 誰もが予想しなかった事が起こったのだ。このひ弱そうに見える日本人が、ものすごいパンチ力を持っていることに驚愕している。会場のほとんどがこの賭けに負けただろう。だがそれ以上に観客達は、あの屈強な黒人を倒した男に賞賛の声と拍手を送っていた。


 浩一郎は興奮した。

 そして観客たちが総立ちになるのを見て、初めて笑みを浮かべた。

 自分が欲しかったのはこの羨望の眼差しと、注目だったのだ。

 浩一郎はこれまでにない充実感を味わっていた。



◇◇◇◇

 浩一郎は給料1か月分程のファイトマネーを貰い、次の試合の約束をし、会場を後にした。

 あのサングラスの男は、賭けで相当儲かったはずだ。

 浩一郎は受け取った金額よりも、あの注目の的となった快感を忘れられずにいた。


 次の日から、彼は生き生きと働いた。

 お客が庭の手入れをしろだの、重い棚を移動させろだとか無理難題を言ってきても喜んで引き受けた。何しろ彼には念動力という力があった。草むしりなど1秒もかからず終えてしまえる。

 そのおかげか、気を良くしたお客から契約も取れるようになった。

 彼の世界は一変した。


 一方、夜の世界では、浩一郎はちょっとしたスターになっていた。

 彼は試合に出続け、連戦連勝だった。

 念動力を使っていることがばれないように試合するのには気を使ったが、元々格闘技のマネだけはやっていた彼は、それらしい動きだけは出来た。何より意外にも、浩一郎は動体視力が良かった。ディフェンス能力と、攻撃を受けてもダメージを受けないタフネスさと、一撃のパワー。時には相手を持ち上げる怪力に、細い身体とのギャップも相まって「東洋の白い死神」と呼ばれるようになった。



◇◇◇◇

 その日も試合に勝ち、家でのんびりしながら、メジャーデビューでもしてみようかと思いを巡らせていた。


 そんな時、横たわっている浩一郎の腕に、軽い衝撃が感じられた。

 浩一郎は腕を触ってみて、天井を見上げる。

 雨漏りしている気配もない。

 第一、外は晴れなのだ。


 周りを見渡したが、床に転がっている物もない。

 その時、次の衝撃が来た。

 何か小さくて丸い、鉄球のようなものが触れた感じだ。

 鉄球・・・・・・?


 浩一郎は記憶を辿る。

 鉄球・・・・パチンコ玉・・・・。


 そう。パチンコ玉が当たる感触にそっくりだ。

 そう思いついた途端、次々にパチンコ玉の衝撃が襲ってきた。

 全身至る所に衝撃が来る。

 移動しても衝撃は付いてくる。

 軽い衝撃とはいえ、それは十分に浩一郎を困惑させた。

 次に箱の様なものが当たる感触。

(え・・・・・・?)

 その瞬間に浮かんだこの現象の答えに、浩一郎は思わずぞっとした。

(ティッシュ箱?)


 これは今まで念動力で動かした物体への「作用」が今になって「反作用」として遅れて襲ってきているのではないか?

 そう考えを巡らせる時に雑誌が当たる感触が。

 少し重いこれはテーブル? 続けて鍋、そして茶碗・・・・・・?

 対象物が見えず、何時、どの方向から来るのか分からないので衝撃を避けるすべが無い。


「いて!」


 TVか? やばい。これは流石さすがに痛いぞ?

 次は何を動かした?

 あの日は確か・・・・・・。

 顔面から血の気が引いていく。

 確か・・・・・・車を浮かせたんじゃなかったか!?


 正解! 


 とでも言うように、とてつもない重量が浩一郎の全身を押しつぶした。

 肋骨がポキポキと折れる音がする。

 声も出ない。

 痛みで対処法も思いつかない。

 物体マテリアルでないものに念動力が効くのかもわからない。


(世界が変わるって……あの世ってこと……?)


 車の圧が去って行った。

 浩一郎は半分意識を失いながら、視界に入った固定電話を見つめた。受話器を上げ、119の数字を念動力で押す。

 押し終わったその時、後頭部を思い切り殴られたような衝撃が襲い、浩一郎は気を失った。


「もしもし、もしもし!?」

 電話からは交換手オペレーターの声が響いていた。

 浩一郎の意識が無くなっても、衝撃は容赦なく浩一郎の体を襲っていた。




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【次回】好きな場所に行けたなら ~武山康弘の場合~

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