第27話 意外と冷静なヤツ

 とは言え、しばらくは大きな変化が見られないまま、戦況は推移していった。弾を撃つ大介に対し、ガードを選択させ続けるイジドール。


 と、


「ん。……待てよ、もしかして……」


 不意に独り言を漏らすイジドール。そしておもむろに、飛んできたフランバルを垂直にジャンプして避けた。


(ち。……バレたな)


 これはクレールとのトレーニングですでに判明していることなのだが、幻獣は一度に同じ技をふたつ以上繰り出せないようになっている。つまり、フランバルを避けられた場合、ピスト内にそれが残っている間は次のフランバルを撃てなくなるのだ。


 これは一見、一般的な格闘ゲームと仕様が同じに見えるが、例えばゴーチェが操っていたルーナのように複数の飛び道具を持っていた場合、重複さえしなければ別々の飛び道具を交互に撃つことが可能となるのだ。


 大介が操るサラモンドで言えば、消費1%のフランバルと、消費50%のブレット・デ・キャノンが別種の技であるため、フランバルがピストに残っていても、ブレット・デ・キャノンなら射出できるという構造だ。


(とは言うものの……ブレットなんちゃらは大技だからな。敵さんの幻獣がパワー型であることも考慮に入れたら、そうそう迂闊に使っていけるモンじゃねえ……)


 垂直ジャンプが目に見えて増えだしたイジドールのサラモンドに内心焦りながら、大介は注意深くピスト内を見つめていた。弾の緩急は相変わらず仕掛けているものの、被弾の確率はあからさまに減ってきている。多少のだまし討ちではこの状態は崩せない。


(ちょっと、イチかバチか……やるしかねえか?)


 かすかに目を細める大介。しかし幻獣に取らせている行動は依然、弾撃ちに終始している。イジドールのサラモンドは、撃ち返しをしてこない。見た目に反して幻獣の動きは慎重で賢明だった。


(どこかで1回、跳びが通れば向こうの勝ち……その1回をガムシャラに通しに来ないあたりはさすがだが……)


「慎重すぎるのも、考えものだ……ぜ!」


 語尾を強く発して大介が繰り出したのは、突進技のバグ・デ・シャロウだった。機敏な動きで、一気にこちらの幻獣を敵の懐に入れさせる。


「ハガッ?」


 一言奇声を発したイジドールだったが、反応は素早かった。使役盤を咄嗟に叩き、発生が速いであろう技をサラモンドにさせようとした……


 ……その時!



「ガアアアアアアア!」



 悲鳴を上げたのは、イジドールの方だった。敵の幻獣が出そうとした技の出際を、ブレット・デ・キャノンでカウンターを取ったのだ。見てからどうにか出来るものではない、完全な決め打ちだった。


「よっしゃ! ビンゴ!」


 大技を当てた大介は再び下がる。が、吹っ飛んだ相手の起き上がりが早く、トリカゴの間合いまで下がりきれなかった。中途半端な間合いは飛び道具の出際を単術(=通常技、普通のパンチやキック)でつぶされやすく、また跳ばれたところで対空迎撃が難しかった。


「それなら……!」


 機転を利かせた大介は、再びバグ・デ・シャロウで突っ込む。同じ手は食わんと言わんばかりに、今度はじっとしているイジドールのサラモンド。


 一瞬、2体の幻獣が密着状態になった。そこで大介が行った操作は、光と闇のボタンの同時押しだった。


 小柄な方のサラモンドが、大柄なサラモンドの首元をひっつかみ、軽々と持ち上げる。


「はっ!? おい待て、防御したぞ、今!」


「研究が足りないぞ、魔族クン。これは掴み技。いわば密着限定のガード不能技さ」


 ゲーム上では単に『投げ』と呼ばれるシステムだ。有効範囲が狭い代わりに、相手のガードを無視して決められる崩し技である。こちらの世界の幻獣戦でも使える技術なのだが、何故か誰もこの存在を知らず、クレールも大介のトレモに付き合って始めて知ったといった具合であった。


「さあ、どうする? ガードしてりゃ安泰、てわけでもないぜ?」


「ち! ……たく、ふざけやがって……」


 大幅に体力リードを取った大介。しかし、まだ油断はできない。


 悪態をついた割に、ただじっとしているイジドールのサラモンド。大介はそんな相手に注意を払いつつ、トリカゴの間合いまで戻る。


 理想の展開にも見えたが、彼の心中は穏やかではなかった。


(……妙だな。おとなしすぎる……)


 だいぶイライラしているように見えるのだが、そのくせ幻獣はずっとおとなしいままだ。あまりに何もしないため、神通力がずっと100%のままだ。


「……なあ」


 まさかと思い、大介はイジドールに尋ねる。


「念のために訊くんだけどさあ。旧式と新式で、幻獣の使える技が違うってことは、あるのか?」


「んん? いやあ、どうだろうなあ」


 露骨に嫌らしく笑うイジドール。


 絶対あるだろ。……と思う大介であったが、あまり警戒しすぎて戦いを長引かせるのも良くない。気は進まなかったが、意を決してフランバルを射出させる。


 刹那、


「そこだ!」


 不意にわめくイジドール。使役盤を瞬間的にガチャガチャと触ると、爆発音とともにピスト内すべてが白い光に覆われた。

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