4-4:これじゃない

 クローゼットから久しぶりに出した白いシフォンのワンピースは、着てみるとかなり窮屈になっていた。

「さすがにもう、無理かも。肩まわりとか、ぱつぱつ」

 そのワンピースは、莉麻と朱莉が小学四年生のときに、ピアノの発表会で着るために買ってもらったものだった。真っ白な、パフスリーブのワンピース。生地がたっぷり使ってあって、くるりとまわると、裾がふんわり広がる。

「身長、あんまり伸びてないと思うんだけどなあ」

 莉麻も朱莉も、同年代の女の子たちの中では、かなり背が低い方だ。背の順で並んだら、いちばん前か、その次くらい。だから、小学生のときに買ってもらったワンピースだって、着られると思ったのに。

「じゃあ、今日何着て写真撮る?」

「うーん、黄色いギンガムチェックのワンピースは?」

「先月着たばっかりだよ」

 朱莉はクローゼットの中にずらりと並んでいる洋服を眺めた。どれも、二着ずつある。どっちがどっちのものとか、そういうのは、特に決まっていない。だって、同じだから。分ける必要なんて、ずっとなかった。

「ねえ、朱莉。早く決めて、撮ろうよ。宿題したい」

「ええ、莉麻せっかちすぎ」

「朱莉もあるって言ってたじゃん、数学の宿題」

「そうだけど……」

 朱莉はクローゼットの中から、今日の気分に合いそうな服を、何着か手に取った。パステルブルーのブラウス、ペールピンクのワンピース、ミントグリーンのフレアスカート。どれも可愛いけれど、「これだ」と思える一着がない。

 莉麻も同じだったみたいで、ずっと首をかしげていた。

「なんかどれもぴんとこないし、写真、今度にしよ」

 そう言うと莉麻は、ふたつ並んでいる学習机の一方の引き出しから、ノートと教科書を取り出した。そして、塾に行くときに使っているトートバッグに、それらを入れた。

「莉麻、宿題するんじゃないの?」

「うん、するよ。だから準備してる」

「どこか行くの?」

「図書館」

 そんな予定は聞いていない。

 今日は莉麻も朱莉も予定のない日曜日で、だから、ふたりでゆっくり写真を撮るつもりだった。写真を撮り終わったら、リビングで並んで宿題をして、ママが昨日焼いていたフルーツケーキをおやつに食べようと思っていた。

「ねえ、莉麻。図書館に行くなんて聞いてないよ」

「そうだっけ?」

「まって、朱莉も準備するから」

「ごめん、約束してるから、もう行かなきゃ」

 そう言って、莉麻はお部屋を出ていった。


 ――約束?

 ――約束って、誰と?

 ――そんなの、朱莉、聞いてない。


 朱莉は呆然と、その場に立ち尽くしてしまった。足元には、たくさんの「これじゃない」洋服が散乱していた。

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