理想の全肯定メイドと現代ダンジョン攻略〜どんな時も甘やかしてくれる完璧で究極のメイドが、頼れる相棒として共に戦い、全てを無条件に褒めてくれる。甘やかされ、認められながら、やがて最強に至るハクスラ生活〜

☆ほしい

第1話 お目覚めでしょうか、ご主人様

 ――ああ、もう限界だ。


 そう思った瞬間、俺はデスクに突っ伏して気を失った。はっと目を覚ましたときには、真っ白な空間が広がっていた。


(ここは……?)


 声を発しても、周囲に音が響くことはなく、ただ意識の中だけに自分の言葉が反響する。まるで無音の世界。その静寂に少し戸惑いつつも、何だか身も心も軽い。先ほどまでの疲労や苦痛は嘘のようだ。


「――お疲れさまでした。あなたの人生は、ここで終わりです」


 すうっと光のような存在が近づいてくる。その声は穏やかで冷淡さは感じないが、どこか距離を置いた響きを伴っていた。


(終わり……つまり俺は死んだのか?)


 そう自問すると、記憶が次々と蘇る。徹夜続きの仕事、上司の怒号、頭痛を抱えながらの無限残業……。ついに倒れてしまったんだ。


(不思議と悲しくはない。むしろ、楽になれたような気さえする)


 俺は安心に似た気持ちを抱きながら、目の前の光を見つめた。すると、その光の存在は説明を始める。


「この先、あなたの魂は次のステージへ進む資格があります。新たな世界で、再び命を持って生きることが許されます」


(次の世界……転生? まるでファンタジーみたいだ)


 すると光は静かに続けた。


「はい。あなたには“特典”として、ひとつだけ希望を叶える力があります。身体能力や魔法、特殊なスキルなど――何でも構いません」


 俺はそれを聞いて一瞬ワクワクしたが、すぐに過去の苦い思い出が頭をよぎる。結局、人並み外れた力やスキルを手にしたところで、また孤独になり、頑張りすぎて潰れてしまうかもしれない。

 そんな不安が胸を締めつける。俺は眉を寄せながら、はっきりと言葉を絞り出した。


(俺が本当に欲しいのは“認めてくれる存在”だ。ずっと孤独だったから……)


 そう思ったとき、言葉が自然に浮かんだ。


「――俺を、全肯定してくれる存在が欲しい」


 これが俺の、心からの望み。魔法だのチートだのよりも、誰かに褒めてもらいたい。救われたい、癒されたい。

 光はまばゆい輝きを一瞬増し、


「全肯定……いいでしょう。具体的に、どのような姿をご希望ですか?」


 と問う。すると俺の中で、あるイメージが生まれた。それはメイド服の女性。清楚でありながら従順で、かつ包容力と優しさに満ち溢れた存在。


「……メイド、がいい。俺を支えてくれるメイド」


「かしこまりました。では、あなたには“全肯定のメイド”を与えましょう。どんなときも味方し、あなたを導き、甘やかし、共に生きる存在として」


 光がそう宣言すると同時に、真っ白な空間が一気に輝きに満ち溢れた。

 このとき俺は確かに感じた。孤独だった胸の奥に、じんわりと温かい希望のようなものが満ちていくのを。


「では、新たな世界での幸運を祈っています――」


 その声を最後に、意識が遠のく。次に目を開けたとき、俺の“第二の人生”が始まるのだろう。

 そして俺は、新しい世界へ旅立つのだった。


***


 どこからか吹き抜ける心地よい風。瞼を開くと見えたのは、青い空と広大な草原。雲はゆったりと流れ、空気は透き通っている。


(……ここが、新しい世界?)


 起き上がると、確かに体が軽い。見渡すかぎりファンタジック……というよりは、近代的な建物も遠くに見える。どうやら完全に“中世ファンタジー”というわけではないらしい。空には大型ドローンのような機械が飛んでいるのがチラリと見えた。


「お目覚めでしょうか、ご主人様」


 優しい女性の声が耳に届く。振り返ると、そこには完璧なメイド服をまとった一人の女性が立っていた。漆黒の長髪をシニヨンにまとめ、白いエプロンが清潔感を漂わせている。


(……この人が、俺を全肯定してくれるメイド?)


 俺はしばし、言葉を失う。彼女は柔和な笑みを浮かべ、軽く一礼してから口を開いた。


「初めまして。私はアメリアと申します。ご主人様のあらゆるご要望にお応えし、どんなときもおそばで支え、肯定させていただきます」


 アメリア……。その声は優しく、まるで柔らかな羽毛に包まれるよう。彼女の存在そのものが安心感を与えてくれる。


「ありがとう……なんていうか、本当に来てくれたんだな」


 思わず率直な感想がこぼれる。するとアメリアは、まるで母が子を安心させるように穏やかな口調で言った。


「こちらこそ、お呼びいただきありがとうございます。ご主人様がどんな決断をなさろうとも、私は全力でサポートいたします。安心して、何でもお任せくださいませ」


 その言葉だけで肩の力がすっと抜ける。俺は安堵のため息をつきながら、周囲を見回した。


(そういえば、ここはどこだ? 現代の名残があるけど、遠くにはダンジョンの入り口みたいな物が見える。どういう世界観なんだ……)


 疑問だらけだが、まずはアメリアに話を聞こうと思った。その前に、フッとある違和感が胸をよぎる。


(体、軽いな……やっぱり転生で多少はスペックアップしてるのか?)


 立ち上がると、以前の疲れた自分が嘘みたいに生き生きとしている。腕や脚の力がみなぎる感覚で、ちょっとした運動もできそうだ。

 アメリアがふわりと近づき、俺にそっと寄り添う。顔を見れば、微笑みを絶やさず何かを待っているようだ。


「ご主人様、まずは状況の把握をなさりたいですよね。私でよろしければ、わかる範囲でお答えいたしますわ」


「助かるよ。正直、何もわからないから」


 俺は素直に彼女に頼ることにした。するとアメリアは軽く頷き、優しい声で説明を始める。


「ここは“ハイランド・グローブ”と呼ばれる大陸の一部です。現代技術と魔力が共存する世界で、人々は日常的に“ダンジョン”へ向かい、モンスターを討伐したり、希少な素材や財宝を得たりして生活を潤しているんです」


「ダンジョン……? やっぱりモンスターがいるってこと?」


「ええ。街の郊外や地下など、各所に不規則に発生します。中には危険度が高いダンジョンもありますが、攻略すれば大きな報酬が得られます。プロの冒険者たちが活躍しているんですよ」


 アメリアの丁寧な口調を聞いていると、なんだか“ゲームの世界”に似た印象を受ける。でも、彼女が言うには紛れもなく“現実”だということだ。

 少しワクワクすると同時に、不安もよぎる。そんな俺の気持ちを察したかのように、アメリアは優しく笑みを浮かべた。


「ご主人様、どうかご安心ください。私がおそばでサポートしますから、どんな困難も乗り越えられますわ。もしご不安なら、最初は簡単なクエストから始めましょう」


「……ありがとう。なんか、本当に心強いよ」


 これまでずっと孤独だった反動か、彼女の言葉だけで胸が温かくなる。まさに俺が求めていた“全肯定”の存在だ。


「ではまず、近くの街“リスタウン”へ行きませんか? ギルドやお店もあって、冒険者登録などの準備ができるはずです」


「……ああ、そうだな。それじゃあ行ってみようか」


 こうして俺は、初めてのダンジョンのある“現代”を体験するため、メイドのアメリアとともに歩み始めた。

 この世界で俺は、疲れ果てた心を癒しながら、少しずつ強くなっていく――そんな気がしてならなかった。


 ――こうして始まる俺のセカンドライフは、戦いと癒しが表裏一体の不思議な冒険になるだろう。

 でも、アメリアと一緒なら大丈夫。何しろ、彼女は“どんな時も全肯定してくれる”俺だけのメイドなのだから。


(俺は、今度こそ幸せになってみせる……!)

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