(11)

 翌日は、補修が無い久々の休日。

 親には「大型書店に参考書を買いに行く」という名目で、小倉まで遊びに来た。

『ヒーローとは悪を倒す者の事でしょうか?』

 駅構内の宣伝用大型モニターに、そんなセリフが表示されていた。

 日本語だけでなく、英語・中国語(それも2種類)・ハングル……他どこの言語か判んないのがいくつか。

『私達は、新しいヒーローの在り方を提案します』

 続いて画面に出て来たのは……オレンジ色の装甲に白いインナースーツの強化装甲服パワードスーツ

 たしかに「ヒーロー」っぽい外見だが……。

 どうやら、門司に本社が有る企業「高木製作所」の新製品のコマーシャルらしい。

『強化服「水城みずき」次期モデルより人命救助レスキュー特化タイプが登場します』

「ダサいのもここまで来ると、胡散臭いレベルだな……」

 近くから……俺と同じ位の年齢の女の子の声。

 声のする方を見ると……女の子の2人連れ。

 1人は……あれ? こいつ、どっかで見た事が……。

 着てるのは、ヒラヒラした感じ……なのに妙に厚手の生地で出来てる短かいケープ付きのコート。ただし、柄は青い迷彩風。外見だけ説明すると、アニメの萌えキャラが着てそうな感じの服だが、実際は妙にポケットが多かったり、実用的でミリタリーっぽい感じがする「可愛い」「萌え」系じゃなくて「格好いい」系だ。その下は……緑ベースの迷彩模様の……え? 何だ、あの服?

 何て呼ぶのか判んないけど……和服のような……作業着のような……ラーメン屋の店員とかが着てそうな……もしくは時代劇の忍者か何かみたいな……そんな感じの服。

 もう1人は、まぁ、マトモ。モスグリーンの上着に、迷彩模様の帽子。

 でも、良く見ると……2人とも、足には、登山用かハイキング用らしいゴッツめのハーフブーツ。

「そう? 出来がいいとは言えないCMだとは思うけど……」

「もし、『殺人をやっても被害者がド阿呆なら犯人は無罪』なんて無茶苦茶な法律が有ったなら、私は、このCM作った奴を殺すな」

「何、物騒な事を言ってんだよ?」

「あ……あの……」

 その時、別の聞き覚えが有る女の子の声。

 そして、女の子走りで駆け寄って来る……。

「府川さ……」

「この前は、御迷惑かけました」

「えっ?」

 府川さんは……両手を握る……ただし……俺じゃなくて……。

 あ……このクソ女、どこで見掛けたか思い出した……。

 この前の……死亡事故の時だ。

らんさぁ……彼女出来たばっかりで浮気?」

 クソチビ女の連れが、そんな事を言い出す。

 え……彼女? こいつ、ひょっとして……その……。

「何言ってんだ?」

「あ……恋人が……その……やっぱり、そうですよね。こんな素敵な人に……居ない訳が……」

「ちょ……ちょっと待て、何言って……えっと、いや、違う、気を悪くした訳じゃ……」

あん、何やってんの行くよ〜」

 続いて……土屋の声。

「あ……じゃ……ごめんなさい。あの時のお礼は、また改めて……」

「やんなくていい」

 そして、府川さんは、俺に気付きもせずに走って行き……。

「なあ……」

 クソチビ女は、頭をポリポリと掻きながら連れに話し掛ける。

「あの走り方って、何のメリットが有るんだ?」

「さあね……」

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