10 疑念と信頼


 想定内の反応だ。即答える。


「マジだ」


 恭四が笑みを消した。前のめりに確認してくる。


「マジかよ……! すげぇ!」


 ……結構、信じるタイプなんだな。こんな……頗る中二病な案件を鵜呑みにするとか「こいつ大丈夫なのか?」と心配になってくる。オレならまず信じねーよ。それとも単に器のデカい奴なのか?



「なるほど? 興味深いね」


 仁が発言した。相変わらず気怠そうな雰囲気を漂わせている。

 奴の首にはヘッドホンが掛かっていて、シャカシャカした音漏れが酷い。


 仁は……紫織の前だとめちゃくちゃ甘い笑顔を振り撒いている癖に、オレらの前では表情を動かすのも疲れるとか思ってそーな顔をしているよな。


「オレでも信じたくないくらいの……突拍子もない話なのに。信じるのか?」


 逆にこっちから尋ねた。

 めずらしく、仁の表情に笑みらしきものが浮かんでいる。


「ああ。世の中には不思議な事象もあるからね」


 過去に不思議な体験でもしたのだろうか? 神妙な物言いだった。



 大きめの溜め息が聞こえて横を見た。


「面白い話だけど」


 三弥は前置きの後に伏せていた眼差しを上げ、オレを見た。真っ直ぐに意見をぶつけてくる。


「それ、何の話? ゲームのストーリーをなぞった中二病の世迷言にしか聞こえないんだけど。作り話だとしても、本当にこの世界が『そう』だとしても。笑えない」


 冷たい一瞥を残し自分の席へ戻って行く後ろ姿を、呆然と眺めていた。三弥の言い分にも納得する部分がある。



「僕も俄かには信じられないと思っていました」


 言われて視線を戻す。


 オレと向かい合う位置の席に座り、成り行きを見ていた賢吾の……様子がおかしい。頻りに眼鏡を押し上げている。


「玻璃さん……今日は休んでいるんですよね?」


「あ……ああ」


 確認され頷いた。


「玻璃さんの好きなゲームは知っています。今日は七月一日ですよね?」


「あ、ああ」


 再び頷いた。賢吾の眼鏡が光ったように見えた。


「エンディングの一つでもある『逃避行ルート』に分岐したのかもしれません。君の言う事が本当に『そう』であるなら、ですよ?」


「……っ! 詳しく教えてくれ!」


 賢吾からゲームについての知識を得た。


 愕然とした。

 紫織は……お兄さんのルートに入った?


 いや、そこよりも。

 問題のある箇所がオレの動悸を強める。


 殺人鬼が彼女を狙っている?


「は? 嘘だろ? ふざけんなよ!」


 思わず声を荒げた。


 教室が水を打ったように静まる。クラスメイトらの視線がオレたちへ集中している気がする。けれど今はそれどころじゃない。賢吾を睨む。


 賢吾もゆっくりと、もう一度……眼鏡を押し上げて睨んでくる。

 慎重な声音だった。


「疑わしい人物は彼女の知人である可能性が高いです。ゲームでは『登場人物』内にいましたから」


 賢吾を見据えて尋ねる。


「……信じていいんだな?」


 教えてもらっておいて失礼な言動だとは思うが。もしも賢吾が殺人鬼だった場合、オレをかく乱する為の嘘を話に混ぜる事も可能だ。時間が残されていない今、確認のしようもない。


「信じた方がいいですよ。後悔したくないのなら。僕も後悔したくないので話しました。玻璃さん……『彼女』には、まだ生きていてもらわないと困りますから」


 強い視線に見透かされている気がした。


『後悔したくないのなら』


 放たれた言葉が胸に刺さっていた。

 過去に二度、紫織を失った。一度目は高校生だった時。二度目は……。


 吐き気がしそうだ。抑える為、それ以上考えないようにした。


 ――何でもいい。紫織を救えるのなら。何でもする。


「賢吾、教えてくれ。紫織を助けるには……オレは何をしたらいい?」


 真剣に頼んだ。賢吾は驚いたのか目を見開いている。フッと笑われた。


「玻璃さんの本当の名前……紫織さんって言うんですね。なるほど」


 眼鏡をクイッと押し上げ、強気な雰囲気の目付きで言及してくる。


「協力しますよ。イベントが起こるのは恐らく明日の朝方……。場所は…………今日の夕方までに調べて伝えます」


「分かった」


 舞台のモデルになった場所だろうか?

 賢吾なら既に知っていそうだと思う。ここで言わないのは多分……近くにいる人物の中に殺人鬼役がいないと断言できないからだろうな。オレも疑われているかもしれない。



 ハッと思い至り、教室から廊下へと出る。他クラスへ入ろうとしている顔見知りの男子生徒に声を掛けた。


「拓馬を呼んでほしいんだけど」


「拓馬? あれ? あいつって……。おーい。今日、拓馬来てるー?」


 男子生徒が教室内へ呼び掛けると、返事が聞こえた。


「いんやー? 休みだってよー?」


「あいつ、今日休みだって」


 まずい。拓馬は以前、屋上で紫織に話していた。「オレは未来から来た」と。もしも……もしも奴が殺人鬼役だったとしたら……? 先を越された?


 紫織が危ない。




 そして――。


 その日の内に「殺人鬼役」が姿を現す。紫織の元へ向かう電車の中で。

 オレはそいつと対峙するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る