【ハーレムに加えてほしいと頼まれたけどオレは純愛厨だから君だけいればいい・中】【※多一視点】
6 プロポーズ
教えてもらった。本当の名前を。
玻璃の本当の名は……『紫織』。
彼女が帰った後も、まだ少し気分の悪さが残っていた。
落ち着いてから居間の畳に仰向けに寝転がる。
「あー……」
暫く目を閉じていた。
手に入れた前世の記憶に凹む。
え……? オレ、ふつーに酷くない?
当時はそう思っていなかったけど。こうやって記憶を知ると、彼女がオレに不安を感じている様子なのも納得する。
オレが悪い。オレが…………ヘタレだったから……っ!
高校時代、紫織に告白した。
……いや違う。「告白する前に振られた」が正しいな。
紫織の家で、二人切りで遊ぶ機会があった。小学生の頃から長い片想いをしていた。ここが告げるタイミングと決意し、勇気を振り絞って「オレ、好きな人がいるんだ」と切り出した。
彼女は一瞬、驚いたように目を見開いていた。そして言われた。
「私も」
まさか両想いだった……?
喜び掛けたその時。
「お幸せにね。もう会わないね」
ぎこちない笑顔で、別れを言い渡された。
「え……」
戸惑う。紫織を見つめた。
彼女は何事もなかった風に「ほら、タイチ君の番だよ」とテレビに映るゲームの画面を指差した。
ミニゲームを操作しながら、内心では呆然としていた。
解散して家に帰った後も、ずっと考え続けていた。紫織はオレの好きな子が紫織じゃないと思ったのか? それとも……。
ヘタレなオレは、本人に確認するのをためらった。
月日は流れた。次第に疎遠になりオレは……完全に機会を見失っていた。
二十代の頃。居酒屋で中学時代の同級生と再会した。
あまり喋った事のない奴だったが、顔に見覚えがあった。確か喧嘩が強いと有名だった「拓馬」……?
相手もオレの事を知っていた。二人で飲み直した。
「お前、三年の途中ぐらいから見掛けなかったけど……転校でもしたの?」
ふと……中学当時、疑問に思っていた件を聞いた。
「いや……ちょっとな……」
濁された。言いたくない事柄のようだ。深入りせずに別の話題へ切り替えよう。
もう一つ、聞いてみたい事があった。
「中学の時さ、オレ……凄く好きな子がいて。…………多分、お前と被ってた……と思う」
あの頃の拓馬は、紫織の様子をチラチラ見たり……気にしている素振りだったと記憶している。
拓馬が息を呑んだような気配がした。怖いくらいに開いた目を向けてくる。
「オレのクラスの奴だろ?」
確認する。
拓馬は肯定も否定もせず、顔を横に逸らした。
え……? 意外と初心な奴なのか……?
それとも答えにくいだろう事を質問したから、気分を悪くさせたかもしれない。
思考を巡らせている時、拓馬が話に乗ってきた。
「学年で一番可愛かったのは間違いないな」
ドクンと心臓が音を立てた。
やはり。紫織はモテていた。オレなんて眼中になかったのも頷ける。
動揺する心の内を隠し「ま、そうだな」と相槌を打った。
そして――。
オレは聞いてしまう。
自分の今まで持っていた価値観を、変えようと決意する程の情報を――。
拓馬は穏やかな眼差しで言った。
「逆ハーレムのように男友達の多い女だった」
口ごもる如く間がある。神妙な様相で相談された。
「…………それでもまだ好きなんだ」
拓馬の苦悩を察した。しかも過去に付き合っていたかのような口振りに感じた。
拓馬がもたらした情報は、オレに強い衝撃を与えた。
自分の価値観では紫織に釣り合わないと思った。オレは今も未練がましく彼女に片想いしている。異性と付き合った経験もない。もっと……女性に慣れてから出直すべきだと考えた。
それまで純愛こそ至高だと信じていたから……自らのしようとしている行いや、側に寄って来る女性たちを嫌悪していた。
数年後。たまたま紫織と再会した。
夜景が綺麗だと評判のレストランへ誘い出せた。
まだ結婚していないと知って、密かに安堵した。
彼女と再会を果たすまで、幾人かの女性と付き合ったり別れたりを繰り返していた。
少しは恋愛に自信がついたと思っていたのに。紫織を前にすると緊張でうまく喋れない。頓珍漢な受け答えをしていた。言葉が足りなかったと言うか……。
紫織は今もたくさんの男と繋がっている。飲み友達になった拓馬から愚痴を聞いていた。分かっている。オレの勝ち目が薄い事は。
けれど紫織と疎遠になっていた過去に物凄く後悔した。この機会を逃したら多分……もうチャンスは巡って来ない。
女性慣れしている雰囲気を必死に演出する。なるべく澄ました顔で切り出した。
「まだ結婚してなかったんだ。ふーん。オレもなんだ。そろそろ親が、孫の顔を見たいってうるさくてさ」
相手の表情を窺う。緊張を悟られないように。何気ない事であるかのように軽い口調で持ち掛ける。
「もしよかったら、オレとする? …………結婚」
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