第26話 撃つぞ?
「判断が難しいわ。その時の状況になってみないと、分からない。私なら逃げるけど、彼女は間に合わなかったのかも?。結界はそんなことを話すために用意したの?」
「違うわよ。これはシャナイアだけが掴んだ事実なの。ライアンはカレンをまだ愛している」
「は? 自分で魔石に封印したのに?」
「そうせざるを得ない状況が、20年前にあったのよ。彼らは襲われてライアンは仕方なく、保護のためにカレンを魔石に封印したの」
「ああ……。魔石を砕くことは、並大抵の労力ではできないから。膨大な魔力か、専門の器具が必要になる」
「そう! だから、彼はその襲撃者から恋人を護るために、封印したのよ。そして、封印を解除する前に、この王都から逃げなければならなくなった」
「それはなぜ? 咄嗟の対応とはいえ、事情を話せば当時の捜査状況でも、カレンの封印を解くための方策がとられたはず」
そう。シャナイアはそこまで考えたはずだ。
黒狼が普通に考え付くことだもの、ずっと犯罪を追いかけてきた彼女なら、それは当たり前に思いついたはずだ。
しかし、最後の記憶がない。
肝心な部分がすっぽりと抜け落ちている。
そのことを話すと、リンシャウッドはうーむと腕組みして悩み始めた。
「シャナイアに内部の協力者とかは?」
「記憶ではいない。女神とも交信していなかった。というか、こっちから見えないようにしていたみたい」
このレプリカで。洋子は聖盾の宝冠を指差した。
あらゆる攻撃を遮断するということは、逆をいえば自分の存在をなにもかもから遮断できるということだ。
この結界のなかにいるように。
まさか、黒狼はあり得ないとおもうけれど、と前置きを言い仮説を述べる。
「もしかして……。そっちに能力を注ぎ過ぎたから、レプリカでは魔力が足らず、ライアンの攻撃をはじき返せなかった?」
「そういうこと、になるのかな。記憶を受け継いだ私が言うのもなんなんだけど、彼女。特定時間の記憶を消去する魔法を、定期的に自分にかけていたようなのよね」
「なんでそんなめんどくさいこと」
可能性があるとしたら? 誰かに思考を読み取られてしまったら困ることがあるから、かな。
洋子はそう推測する。シャナイアはこの事件の担当を約二週間前から始めた。
記憶の部分消去に手を付けたのは、そのころからで彼女が死んだのは、丁度、7日前だ。
その二週間の間の記憶が、大事なところで抜け落ちていて、ブツ切れの映画を見ているような気分だった。
おおまかにリンシャウッドに伝えると、黒狼はむう、と唇をむくれさせる。
やがて、名案を思い付いたのか、手を叩いた。
「こういう時の人工女神!」
「はあ?」
とりあえず、結界を解除しろ、黒狼は急かすようにそう言った。
犯罪捜査局のあるビルから連れ出されて、やってきたのは今朝までいたあの塔のある王宮だ。
「家に忘れ物でもしたの?」
「そうじゃないの! ここにあるのよ、人工女神の端末が!」
リンシャウッドはそう言い、神殿のある東の塔へと状況の把握ができていない洋子を連れ込んだ。
本物の女神様は、神殿がある東の塔の屋上に存在して。
偽物の女神様は、神殿がある東の塔の最下層に存在する。
これって差別じゃない?
「差別なわけないですよ! 人工女神はあくまで人工女神! 神と呼ばれるにふさわしい神格を備えていても、彼女が司るのがあくまでこの国の社会的なサービス全般ですから。天空におくよりも、地下に置いた方が効率がいいのです」
「効率がいい、の説明になってなーい。40点ね」
「なんですか、その点数の付け方は!」
教えてあげているのに失礼な、とリンシャウッドは頬を膨らませてこちらを上目遣いに睨んできた。
体格差があるからそう見えるだけなのだが、大きなハスキー犬が主人にしかられてむくれているように、見えなくもない。
これはこれで可愛い先輩だ。
そう思いながら、洋子は説明の補足を促した。
「何に対して、効率がいいの?」
「……魔素は地下の方が伝導効率がいい。それに、地下の方が魔素の質がよくて豊富にある。だから、人工女神も稼働するたびに供給される魔素の量を抑制せずに、機能をフルに活用できる」
「ちゃんと説明できるじゃないですか、先輩、すごいっ!」
褒めたらそうでも、と言いつつ尻尾が何かを握っていた。
この神殿の入り口で利用者向けに配られている携行パンフレットだった。
どうやら、尾でそれを隠し持ちつつ、精霊たちに読み込ませて、口から読んだままを諳んじるふりをしていただけのようだ。
真実を目の当たりにして、洋子のなかで先輩の株が暴落した。
やるならちゃんと気持ちよく騙してくださいよ、先輩。この世界の常連なんだから。
リンシャウッドは思った以上に間抜けだ。
いや、本人がそうと理解しつつ演じている節もあって、なかなかに気の抜けない相手だと思う。
シオンライナはまさしく天然ど真ん中のくノ一で、よくあれで諜報活動に勤しむことができるな、と小首をかしげてしまう程だ。
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