第27話 エルフの里へ向けて


 エルフさん――もといガネットさんは事情を話し始めた。


「……世界樹が今、命の危機に瀕しているのです」


 なんでもエルフの里には世界樹と呼ばれるご神木があり、それはエルフにとっての力のみなものとらしい。

 世界樹とはエルフにとっての力の源。

 世界樹が枯れれば、エルフも滅びてしまう。

 まさにエルフにとっての一大事。それを回避すべく、彼女達はあの手この手で世界樹を回復させようとしたが、結果は芳しくないらしい。


「このままでは滅びるしかないと絶望に打ちひしがれていた時、我らが女王クレマ様が神々より予言を授かったのです」


「……予言?」


 なんでもエルフの王族には特別な力を持つ者がいるらしい。

 当代の女王様の授かった力は予言。

 あらゆる物事を予知することが出来る、途轍もない力だそうだ。


「――最果ての森に現れる者、あらゆる魔の声を聴く者なり。彼の者が持つ聖なる白き雫にて汝らは救われん。それが我らが女王が託された予言です」


「はぁ……」


「最果ての森は、文字通り途轍もない広さです。なので我々はまず森に隣する町や村へ赴き、そこを拠点とする冒険者や行商人から情報を集めました。そして先日、バサロの町で貴方様のことを知ったのです」


「なるほど。それで森に入って自分を探していたと?」


「はい。大輪狼やエント・ゴブリンと共に居ると知れたのも僥倖でした。ソースケ様の魔力は分からずとも、エント・ゴブリンや大輪狼の魔力ならば、我々も探ることが出来ますので。それでも捜索範囲が広いためかなり苦労しましたが……」


 その結果、シャガさんの罠にかかり今に至ると。


「……ひょっとして罠に掛かったのもわざとですか? 我々が確認しに来る事を見越して……」


 罠に掛かれば、確実に自分達と会うことが出来る。

 ここらへんで、罠を仕掛ける程の知能がある魔物なんてホオズキさんたちくらいのものだ。

 確かに危険はあるが、理には叶っている。


「あ、いや……それは……そう! その通りです!」


 ガネットさんはものすごくバツが悪そうに目を逸らした。

 ……どうやら普通に罠に掛かったらしい。

 ガネットさんは再び地面にこすり付けんばかりに頭を下げる。 


「ソースケ様! 何卒! 何卒、我らの里をお救い下さい! 貴方様の持つ聖なる白き雫を、どうか我らに!」


「あ、いや、ちょっと待って下さい。自分にはそんな力なんて――ん?」


 聖なる白き雫?

 白き雫……白い液体……白い。いや、まさか。


「ソースケ、コイツが言ってる白い雫ってアレじゃない? ほら、ボク達にくれたあの凄く元気になる飲み物」


「……奇遇ですね。自分も同じ事を考えていました」


 ゴブリンさんたちをマッチョにし、芝狼さんらに凄まじい栄養を与え、スライムを増殖させ、カラマツさんを病気から救ったあの飲み物。

 自分がこの世界に来てから、なにかとお世話になっているアレだ。


 ――そう、プロティンである。




 とりあえずガネットさんに事情を聴いた我々は一旦彼女を解放し、町に戻した。

 カラマツさんの意見も聞きたいし、なにより自分達はまだ彼女を完全に信用したわけじゃない。

 だがエルフの里に行けるのであれば、これはこれ以上ない好機チャンスでもある。


「いいんじゃねぇか? ホオズキたちが護衛につけるんなら、問題ねえだろ」


 カラマツさんは賛成のようだ。


「エルフは閉鎖的でプライドの高い種族じゃ。例え何か謀り事があったとしても、おいそれと他種族に頭なんて下げねよ」


 なるほど、滅多に頭を下げない種族だからこそ、逆にガネットさんの言っていることは信じられる。


「ホオズキさんたちも良いでしょうか?」


「無論だ。護衛は我らに任せてくれ」

「勿論、私も行くわよぉ」

「ボクもいくよー」

「アタイも行っていいか? エルフの里がどんなところか興味があるんだ」


 話し合いを重ね、自分とホオズキさん、アセビさん、モエギさん、タンポポさんと他二匹の芝狼さんが向かうことになった。


 改めてガネットさんとも話し合い、彼女もこれを了承。

 エルフの里は、タンポポさん達に乗れば、一週間ほどで辿り着ける距離だ。

 往復で二週間、かなりの長旅になる。


「ソースケを連れて行く前に、まず我々が下見をする」


 これはホオズキさんからの提案だ。

 エルフの森へ向かうルートは自分はおろかホオズキさんらにとっても未知のエリアだ。

 なので、まずホオズキさんらに先遣隊として、道中の安全確認をしてもらい、ルートが確保されてから、自分が向かうという形になった。

 自分の安全を第一に考えてくれるホオズキさんらには、本当に感謝である。

 ガネットさんとしては、一刻も早く里へ向かいたいのが本音だろうが、ここは絶対にホオズキさんらが譲らなかった。

 自分の為にそこまでしてくれるホオズキさん、本当にイケメンである。

 筋肉が輝いている。美しい。


「分かりました。では案内します」

「では行ってくる」

「はい。お気をつけて」


 アジサイさんにまたがるホオズキさん達を見送る。

 ホオズキさん達が居ない二週間は、とても静かだった。

 とはいえ、やることは色々ある。

 自分はカラマツさんから野宿の仕方や、体力を落とさない歩き方や眠り方を教わった。

 あと万が一、魔物や野生動物の毒にやられた時の為の処置や血清も準備する。

 そんな感じであっという間に時間は過ぎ、ホオズキさん達は無事に帰還した。


「道中の安全は問題ない。弱い魔物しかいなかった」

「そうねぇ、全然手ごたえが無かったわぁ」

「……いや、結構危険な魔物もいたのですが。まあ、エント・ゴブリンと大輪狼からすれば雑魚みたいなものですか……」


 ホオズキさんたちの強さにガネットさんは驚いていた。

 イヌマキさんがやられた毒についても、ガネットさんは解毒剤を持っているので、こちらも問題ない。


「ソースケ、ソースケ。遠目に世界樹見たけど、すごかったよ!」


 初めての遠出で、タンポポさんはとても興奮した様子だった。


「近くの山が半分くらいの高さも無かった。世界樹って凄いおっきいよ!」


 それはなんとも巨大な木だ。

 めっちゃファンタジーである。


「でも確かになんか元気が無かった。苦しそうな感じが伝わってきて、見てるこっちが辛かったよ」


「そうですか……」


 タンポポさんたちには、植物の状態や気持ちがある程度分かるらしい。

 ガネットさんの言葉に嘘はなく、エルフの里にあるという世界樹はかなり弱っているようだ。


「道中には我々の魔力をある程度マーキングしておいた。危機感に敏い魔物なら、寄って来ることはないだろう」


「ありがとうございます」


「ソースケから受けた恩に比べれば、これくらい安いものだ」


 相変わらずホオズキさんがイケメンすぎる。

 道中の安全も確保され、いよいよ自分がエルフの里へと向かうこととなった。


「……」


 ただ一つだけ懸念があるとすれば――プロテインの在庫がもう残り僅かということである。……足りるかな?


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