第10話。人生への叛逆者ども

『?????』

…廃棄場に粉塵が立ち込めていた。

その端で、服についた粉塵の欠片を払っていた

とても小さな少年がいた。

ケイトだ。


『ケイト』

「…はあ、汚れ仕事を買うというのは面倒なもの

 だな本当に。「合流前に奴が廃棄場に来るで

 あろう。駆逐しろ」とは言われたものの、

 本当にやってくるとはな。バカだなあ。

 そんなにカノンにお熱であったか」


「だがアイツは貴重な存在なのでな。あらゆる

 意味で。そうだな、総ての人類が救われる

 礎とも言うべきか」


「基礎、というものは大切だ。しっかり結果と

 して見えるものであり、強固で無ければ

 ならない」


「まあな」


「過程やそれに関わる存在がどんなにか弱い

 かは問題ではないのだがな……………」


『ー』

「……おおよそ善人の発言じゃないし

 やっぱりどこでも寡黙で誠実な上司は少ない

 そうだろう、ケイト」


『ケイト』

「あ?」


『ー』

「【ただ穿て。漆矢でたらめや】」


『ケイト』

「!」


『?????』

ななつの弾丸がケイトには見えた。

だが、見えただけだった。「それ」は無差別に

無軌道に互いにぶつかりあっても直進すると

いう矛盾をしながら、見えない闇という名の壁の

中で跳弾を繰り返し、波瀾を繰り広げていた。


『ケイト』

「な…!」


『?????』

そして、向かう。向かい始める。ケイトに。

ヒュン。ひとつ。

ヒュンヒュン。ふたつみっつ。

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……………。

そして、総てがひとつに向かい、衝突した。

それが終わると、粉塵はケイトを包んで、

代わりに黒ローブの少年のほうはというと

少しずつ晴れていった。

黒ローブの少年は、改めて口を開く。


『僕』

「…はあ。出鱈目ランダムショットでも

 発信者の自分に跳ね返ってきて自爆はまず

 あり得ないからな…最短詠唱でもこれだけは

 信用出来る。あとは全弾命中を願うだけ」


「だけど」


「過程やそれに関わる者には無頓着、か」


「やっぱり、善人の発言ではない」

でも、理由はおおよそ説明がつく。


「必要悪」

カノンという犠牲の元、世界を救うと本気で

言っているのであれば。

過程を度外視するのであれば。

何処かで汚れ役が必要だ。

先程のケイト自身の発言の「面倒だな」と言った

ものは、善人の発言としては論外だろうが。

それでもは、まるで。


「真っ黒な悪党だよ、白魔導士」

疲れた。げんなりする。でも、カノンの姿は

未だ見えない。

探そう。


『ケイト』

「【総ては店の計画通り。零硬貨リプレイ】」


『僕』

「!?」


『ケイト』

「おっせえよこの馬鹿があっ!!私の名前を

 理解しろよ!「計」り通す「賭」け、だ!!」


『?????』

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!

黒ローブの少年がケイトに放った弾丸か総て

弾き返されていく。そして、先程の流れを

繰り返すように全弾命中しようと黒ローブの少年

に向かっていった。


『僕』

「……………!」

間に合わない。

何もかも。


『?????』

ヒュドドドドドドドン!!

着弾。物凄い土煙があたりに立ち込める。

結果は、明白だった。

ケイトはちゃんと着弾したのを確認して、

ニヤリと笑んで…、

否、

黒ローブの少年を嘲笑って、言った。


『ケイト』

「これが、魔導士だ。力を行使するのにだけ

 酔うなよ馬鹿が。私に二度も魔術を使わせて

 、…、まあ、いいがな」


「さて」


「そろそろ彼奴らが来る頃か」


「じゃあな、大馬鹿者」


******


『僕』

…暫時が過ぎて、ケイトはもう遠くへと行ったの

だろうとは思っていた。

なんて考える程余裕があったのはケイトの慢心。

対策しないとでも思っていたのか。


「…「当たらないように願って」行使したとは

 思ってもみないだろうよ…!」

全く、どこでも誠実な上司は少ない。

自己満足に酔って自分の手柄は総て計画通りだと

思っている。

自分だけの手柄だと思っている。

違うだろうよ。


「誰かが自分もやってきた事を…

 礎を築いてきたんだろうよ」


そうだろうよ…。

だがしかし、僕の計画には不慮が生じていた。


「やっべめっちゃ磔なんだけど」

確かに全弾命中はしなかった。でも、所詮

最短詠唱での、しかも基本は出鱈目ランダムショット

欠陥だらけの魔術。よりによって、僕の全身の、服のあらゆる所を地面に縫い付けて離そうとは

しなかった。


「…タスケテー…」

どうしようもなかった。

このままではカノンの生命が危ない。

昨日の今日で体力は持たないだろうと想像つく。

だけど、このままでは僕の生命も危ない。

…「実験」が終わったら、白魔導士側は完全に

フリーになるからだ。

かち合ったら、終わる。


「…ダレデモイイカラタスケテー…」

虚空に、むなしく声が響いた。

駄目か。諦めようとした時、頭上に気配と姿が

見えた。よく見る顔触れ。

ダウトだった。


『ダウト』

「本当に誰でもいいのか、青少年」


『僕』

「だ、ダウト!、ッ、…さん!?」


『ダウト』

「素を晒すなよ青少年」


『僕』

「拳を鳴らして無抵抗な者を襲おうとしないで」


『ダウト』

「ほう、別の意味で襲われたい、と」


『僕』

SHINEよ」


『?????』

お互いに、この状況にも関わらずいつもの軽口。

お互いに、

ホッとしていた。

ダウトが再度、口を開く。


『ダウト』

「まあ、怪我はなくて幸いだったな青少年

 あのケイトを相手にしてよくやったよ」


『僕』

「見ていたんですか」


『ダウト』

「まあ、最後の全弾反射の辺りでな。

 まず、間に合わないと思った。

 それと、オレが乱入してケイトと激戦を

 繰り広げたら、青少年は巻き添えを喰らって

 まずあの世行きだろうな、と」


『僕』

「いつにもなく冷静ですね、とても。

 それに、とてもクレバーな判断です」


『ダウト』

「…くくっ」


『僕』

「?」


『ダウト』

「寡黙で誠実な上司は居ないんだろう?

 なら、今は言わせてくれよ」


『?????』

そして、ダウトは黒ローブの少年に手を伸ばす。

言う。


『ダウト』

「今くらいは、お前の保護者として動くよ」


『僕』

「……、」


『?????』

黒ローブの少年は、ふと押し黙る。

が、やがてそれは大きな哄笑に変わっていく。


『ダウト』

「おいバカやめろ白魔導士の奴らに集中砲火

 喰らうぞ」


『僕』

「だ、だって、似合わないんですもん…!」


『ダウト』

「やかましいわー!」


『僕』

「ダウトさんも大声だし…!」


『ダウト』

「誰がそうさせてんだ!全く…」


『僕』

「…でも、」


『?????』

黒ローブの少年は笑うのをやめて静かに告げた。


『僕』

「ありがとうございます。

 …僕一人では、動けないです。

 助けて欲しいです。

 その先の、僕の希望する本当の願い事を

 叶えるために。…「彼女」の為に。」


『?????』

ダウトは、あっさりと応える。


『ダウト』

「だろうな。やるぞ」


『?????』

そして黒ローブの少年はかろうじて駆動する

右腕を伸ばし、ダウトの手を取ったのだった。


******


さあ、お互いに始めよう。

これは、「初」のハジマリ。


******


『ミー』

「ハァッ、ハァ、ハァ…!」


「本部に、誰も居なかった…!カノンにも

 連絡つかない!」


「まさか…、まさかっ、「まだ」やるの!?」


******


『ケイト』

「揃ったな」


『クリムゾン』

「あぁ。…やれ」


『カノン』

「……………わかったの」


******


『僕』

「よかったです。やっと動けます」


『ダウト』

「おいまだ奴らに遭ってすらいないんだから

 一息つくな!早く行くぞ!」


『僕』

「はい、解ってます、ダウトさん……………」

よし、行こう、カノンのところへ。

そして……………、


******


白と黒が交差する、

普通の人からは遠く離れてしまった者達の、

人生そのものへの叛逆者どもの、


一つの集着点ピリオドへと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る