第24房 念願のお揃い🦍👓🐢

 カウンターから戻ってきた光月の手には、白色をしたバナナ型のケースとバナナ色をしたバナナ型のケースが持たれていた。


 それを、まずは目の前にいるゴリラに手渡し。


「こちらの黒色をゴリラさんに」

 

「ウホウホ?」


 次にその右隣にいるマリンへと手渡す。


「こちらの白色をマリンさんに」

 

「あ、ありがとうございます?」


 突然手渡された物に困惑する1頭と1人。


「あははっ、そう警戒しないで下さい。何も押し売りとかではありません。そのケースはプレゼントさせて頂きます」

 

「ウホ、ウホウホ?」

 

「ふふっ、さすがはゴリラさん鋭いですね! 仰る通り、中身は購入頂かないといけません」


 光月の「購入」という言葉を聞いたことで、マリンがムッとした表情を浮かべる。


「えっ!? 購入? ですけど! 私は――」


 そして、口を開こうとすると、横にいるゴリラが優しく嗜めた。


「ウホウホ」


 その大きな手で彼女の頭をポンポンとする。


 それにより、マリンは例のごとく動きを止めた。


「ま、また頭を……」


 顔も、耳も赤く染めている。


 いつものように固まってしまった彼女を横目に、ゴリラと光月は話を始めていた。


「――ウホ、ウホウホ?」

 

「――ええ、実のところ最後の眼鏡は、本当にバナナ先輩が好きな方に買って頂きたくて……と言ったところです……商売人としては未熟ですね……」

 

「ウホ、ウホウホ?」

 

「……そうですね、私もバナナ先輩が好きです!」

 

「ウホウホ!」

 

「おお! わかって頂けますか! いいんですよね! あのニヒルな顔つきにバナナの可愛らしさを纏う独特のフォルム! もう、その全てが推しといったところでしょうか」

 

「ウホウホ、ウホ!」

 

「そこもわかって頂けますか! いやぁ、嬉しいです! 推しを共有できるとは!」


 光月はゴリラと意気投合したことで、ベテラン眼鏡ショップ店員から、バナナ先輩というただのゆるキャラ好きな花葉光月へとなっていく。


「……でも、話しているとわかってしまいました」


 先ほどまで、にこやかにやり取りをしていたというのに声色を落としその表情は固い。


 光月は、ゴリラとのおかげで自分の過ちに気が付いたのだ。

 大事なことを忘れていたことに。


「ウ、ウホウホ?」


 ゴリラはそんな光月を心配そうにつぶらな瞳で見つめる。


「いえ、好きな人にと言いながらも、自分のエゴを押し付けていただけなんだと気付きました……ゴリラさんのおかげです」

 

「ウホウホ?」

 

「はい……とても大事なことです」

 

「ウホ……?」

 

「大丈夫です、口にしても大丈夫なことですから、そうですね……お客様が欲しい物を選ぶといういうことです」

 

「ウホウホ!」

 

「ですので、申し訳ありません! 改めてゴリラさんが好きな物を選んで下さい」


 ゴリラは申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を垂れる光月に優しい視線を向けた。


 その表情は、10年来の親友が落ち込んだ時に全てを理解した上で、語り掛ける友のような顔つきをしている。


「……ウホウホ」


 彼には、届いていたのだ。


 光月がどれほどまでにバナナ先輩を愛しく思っているのかを。


 それはまたゴリラも光月と同じように、バナナ先輩を愛しく思っていたから。


「ウホ」


 ゴリラは目の前で肩を落とす光月の手を大きな手で強く握る。

 

「ゴ、ゴリラさん?!」


 彼の気持ちや考えが、まだ理解出来ていない光月は戸惑っていた。


 それもそのはずだった。


 好きなものを好きなお客様にと、思うあまり押し売りのようになっていたのに。


 それなのに、目の前のゴリラは怒るどころか楽しく会話をし、自分の過ちを気付かせてくれた。


 その上、今も尚、手を強く握り、器の小ささ呆れて落ち込む自分を励まそうとしているのだ。


 だから、戸惑うのも無理はなかった。


 ゴリラは、なかなか頭の整理がつかず、ボーっとし始めていた光月へと自分の気持ちを伝えた。


「ウホウホ!」


 子供のように無邪気な笑みを浮かべているゴリラ。


「――えっ?! 2つ買って頂けるんですか? でも、片方の眼鏡はレディース用ですよ!」

 

「ウホウホ?」

 

「えーっと、デザインですか? そ、そうですね、マリンさんのケースの中に見本が入っていますが――」


 光月の言葉を受けたゴリラは、「頭をポンポン……ナデナデ」と独り言を口にしながら固まっているマリンからバナナ型のケースを取り、中身を確認する。


「ウホウホ」


 そこには、先ほどまでゴリラの手にあったバナナ先輩とのコラボ眼鏡と似たデザインの眼鏡があった。


 その眼鏡はレディース用ということもあってか、小ぶりで柄の部分はバナナ色ではなく、使い回しやすい白色をしていた。


 そして、レンズを嵌める部分は、小顔効果のある大きめで丸いフレームが使われているようだ。


 ただ、マリンはケースを取られたというのに、まだ固まっている。


「……頭をポンポン……いつもポンポン」


 そんな彼女にもう一度声を掛けるゴリラ。


「ウホウホ!」

 

「はっ! どうなりましたか?!」


 それにより、マリンは何とか正気に戻り、キョロキョロと周囲を確認する。


 そんな彼女に、ゴリラはケースから取り出した見本を手渡す。


「ウホウホ?」

 

「は、はい! とても可愛いですね!」


 マリンの「可愛い」という一言を聞いたことで、ゴリラの答えは決まった。


 というよりは、光月がバナナ先輩を好きだと聞いた時から、もうすでに8割型決まっていた。といってもいいだろう。


 あの瞬間から、もうゴリラにとっては、眼鏡ショップ《TOWNDAYS》のベテラン店員、花葉光月かようこうげつではなく、バナ友光月となっていたのだ。


 状況を把握していないマリンを横目に、購入手続きは流れるように進んでいく――。




 🦍🦍🦍




 ――そして、20分後。


 時刻【12時00分】



「ウホウホー!」

 

「またのお越しをー!」

 

「あ、ありがとうございましたー!」


 念願のブルーライトカット眼鏡を手に入れることをできたゴリラとマリンはショップをあとにした。


 満面の笑みを浮かべる光月の視線を受けて。




 🍌🍌🍌




 この後、「ウホウホ」言いながら、黒色とバナナ色の眼鏡を掛けたゴリラと、隣で顔を赤らめながら色違いの眼鏡を掛けているポニーテールの若い女性の姿が、ショッピングモールで見られましたとさ。



 ウホウホ

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