第2話 信繁の妻 修正版

 23年に発表した「その後の佐助」の修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、新しいページで再開したものです。表現や文言を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


空想時代小説


 京都龍安寺に真田信繁の奥方はかくまわれていた。敷地内の池の浮島みたいなところに尼僧が住む庵があり、そこに隠棲していたのである。龍安寺は大谷吉継が生前庇護した寺院で、その娘である奥方はその縁を頼ったわけである。もちろん徳川方には知られており、周りは徳川方の忍びで囲まれている。真田の生き残りがやってくるのを待ち伏せしているのである。

 佐助は昼に龍安寺に墓参りする客をよそおった時に、気配を隠そうとしている寺男の存在を知った。

(徳川方の忍びか、伊賀者か、それとも柳生の者か)

 夜分、寝入った時間に佐助は信繁の奥方の枕元にいた。

「だれじゃ?」

「お静かに、佐助でございます。あかりはつけずに」

 月明かりだけだが、聞き慣れた声でお互いがわかりあえた。

「佐助か、無事だったのね。それで殿は?」

「討ち死にされました。一時は家康の本陣近くまで行けたのですが、敵の旗本衆にはばまれ、本懐を遂げることはできませんでした。しかし、真田の名は残せた。とおっしゃって天王寺安居神社で最期を迎えられました」

「やはり・・・殿らしい最期だったのでしょう」

 と涙声をこらえていた。

「殿よりこれを」

 と言って、佐助は信繁の遺髪と脇差しを差し出した。

「これを私が受け取っても、殿の墓を建てるわけにはいきません。見張りがついている身。何かあっては無駄になります。これを我が子のだれかに・・子どもたちの行先は?」

「長男の大助さまは、秀頼公・淀君さまとともに大坂城内で最期を迎えられました。阿梅さまと阿菖蒲さまは、かねてからの片倉家との密約に従い、政宗公の行列に入っております。政宗公は片倉家にお預けされるようです。二男の大八さまは、鞍馬寺にかくまわれているとのことです。大八さまの守り役我妻佐渡殿がお姫さま方を追って、片倉家に向かうようです」

「姫たちは、やはり政宗公に預けられたのですね。殿や父が小十郎殿と親しくしていたのが功を奏しましたね。大八が無事でいてくれれば真田の血も残ります」

 と言って、奥方は袋に入ったいくばくかの銀子を佐助に渡した。

「豊臣からいただいた銀子の一部じゃ。今後のくらしに役立てよ」

「はっ、ありがたくちょうだいいたします。無駄にはいたしません」

「そろそろ見張りの者が気づくころじゃ。気をつけていかれよ」

「はっ、奥方さまもお元気で」

 と言うと、佐助は天井裏にとびあがり、屋根伝いに外へ出た。

「佐助、無事で行けよ」

 信繁の奥方は、その後龍安寺大珠院の院守となり、一生を終えた。父大谷吉継と夫真田信繁を弔う日々だったと言われる。自分の墓とともに信繁の墓も建立している。きっと信繁の魂はここにきたのであろう。


 庵を出ると、佐助は人の気配を感じた。そこにビュッと手裏剣がとんできた。佐助はとっさに避け、手裏剣は近くの立ち木に突き刺さった。十字手裏剣だ。

(柳生か、しかし、一人なのは好都合)

 暗闇なので、視界はきかない。月明かりが届かないところにおり、気配を消せば見つかることはない。先に気配を与えた方が負けだ。しかし、敵は自分の庭。ましてや応援がやってくるかもしれない。

 佐助は長居は無用と決め、分身の術を使うことにした。近くにある木切れを手に取り、自分が転がりでて、その方向に敵がいればやられる。いちかばちかだ。

 都合よく月が雲に隠れ、そのタイミングで佐助は飛び出した。夜目はきたえているので、茂みや立ち木はわかる。転がりでて、その方向に木切れを投げつけ茂みの音をたてた。案の定、その茂みに手裏剣がとんでいる。佐助は反対の方向に飛び移り、立ち木にすばやく登り、木々を伝わり、その場を逃れた。手裏剣使いは上方向に投げにくいからである。

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