ラッキースケベが思ってたのと違う件 〜授かった瞬間に裏切られた〜
那須儒一
1話 念願叶い?
「コフク・リョウカ様。お待ちしておりました」
名前を呼ばれた瞬間、意識がゆっくり浮上する。
無機質な白い空間。
その中央に、胸元が大胆に開いた白いドレスを着た──“女神様そのまんま”な女性が立っていた。
エメラルドグリーンの瞳。
髪と同じ色合いのウェーブがふわりと揺れている。
「……俺は、死んだのか?」
「左様でございます」
女神は貼りつけたような笑顔で、無機質に告げた。
「……それで?」
「ここは転生の場となります。
転生先の世界は魔王が支配中ですので──あなたの望むチート能力を授けます。
くれぐれも前世のような無様な死を繰り返さぬよう」
無様って……言い方ひどくない?
女神の言葉と同時に、前世の記憶が嫌でも蘇る。
✡
前世の俺は、少年時代に読んだ“ラッキースケベ漫画”に人生を狂わされた。
不可抗力を盾に女子へ触れ合い、絶対領域に侵入するあの主人公像。
あれに本気で憧れ、思春期をまっすぐ歪んで育った。
そんな俺は高校生活で──とうとうやらかした。
ある日、階段を上っていると、
上から憧れの女子生徒が下りてくるのが見えた。
スカート。
白い太もも。
その奥にかすかに見える白の三角地帯。
思春期全盛期だった俺は、一世一代の大勝負に出た。
“わざと滑ったふり”で、彼女の目の前で背中から階段を転げ落ちたのだ。
視線はスカートから一瞬たりとも外さない。
ほんの数秒だけ見えた純白を──脳の奥に焼き付けながら。
……そして、そこで意識が途切れた。
まさか、それが最後に見る光景になるとは思わなかった。
✡
回想に沈む俺を、女神様はゴミを見るような目で眺めていた。
「……で、あなたの望む能力は?」
「ラッキースケベを授けて下さい!」
胸を張って断言した俺に、女神様は本気で軽蔑するような目を向けてきた。
直後、眩い光が弾け、視界は真っ白に染まる。
光が収まったが――特に変化なし。
……そうだ! 発動確認だ!
女神様も立派な女性だ。これは決してやましい意図じゃない。あくまで“スキルの確認”だ。
俺は女神様へ飛び込んだ。
しかし、その行動を完全に読んでいた女神様が手をかざすと、見えない力にぶん投げられた。
「いってぇ!」
土煙の中で目を開ける。
視界に飛び込んできたのは白い三角地帯。
そこから伸びる、太く逞しい筋肉質の脚――。
上を見上げると、ひげ面のオッサン。
……あれ? これ……ラッキースケベ?
「うわっ!」
状況を理解した瞬間、俺は跳ね起きた。
そこにはブリーフ姿で着替え中のオッサン。
俺に押し倒され、頬を赤らめている。
「ぎゃああああぁ!」
全速力で逃げ出した。
その後も、あらゆる人間にラッキースケベが発動。
老若男女、全年齢、全性別――対象外なし。
常時強制発動。
まともに交流すらできず、俺はいつの間にか対人恐怖症になっていた。
✡
誰とも会話できず、ただ途方に暮れる日々。
パンを咥えた美少女から中年男性まで、角から出てくる人は全て脅威。
FPSのクリアリングさながら、建物の角を一つひとつ慎重に確認する生活が始まった。
「……誰か助けてください」
嘆いても誰も助けてはくれない。
飢えた俺は、1日歩き回って拾ったなけなしの小銭を握り、酒場へと向かった。
丸二日、何も食っていない。
胃と背中が接触しそうだ。
そこへ、バニー姿のウェイトレスが近付く。
「止まれ! それ以上近付くな!」
「えっ?」
完全にビビった彼女が固まる。
「ど、どうされました……?」
距離を保ちながら、不審そうにこちらを見ている。
この距離なら発動はしない……はず。
「お嬢さん。それ以上近付いたら……怪我するぜ」
「は、はい……」
バニーガールは完全にドン引きしている。
だが今は、性欲より食欲だ。ここでトラブルを起こせば飯にありつけない。
「アップルパイで!」
距離を保ったまま注文する。
しばらくして、ようやく飯にありつける……と思った、その時――。
バニーガールが俺の前で躓いた。
皿を離れたアップルパイが、ゆっくりと宙に舞う。
――待ってくれ。俺のアップルパイ。
落下するパイを目で追う俺。
だが、俺の顔に迫ってきたのは別の“パイ”。
二つのたわわに実ったパイが、俺の顔面へ飛び込んできた。
……嬉しい。そりゃ嬉しい。
だが今は違うんだ。俺は飯が食いたいんだ……!
床に無惨に叩きつけられるアップルパイ。
横目で見ながら、俺は別のパイの“柔らかさ”を味わう羽目となった。
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