唯お姉様は学内3大美女で裏(♀)表(♂)がない素敵なお姉様です

「初めまして、僕の名前は……ではなく! 私。私の名前は天使唯です。よろしくお願いいたします」


 体操服をどうするかだとか色々と考える事はあるけれども、ついに僕は百合園女学園の高等部2年生の教室に足を踏み入れ、転校生としての挨拶を、緊張からか若干上擦ったような声でやっていた。


 当然、不意に男性器が目立たないように、両手で隠した状態で。


「え、えっと、何か言う事……何か言う事は……えっと、えっと……そうだ、得意な事。私の得意な事はお洗濯とお掃除にお裁縫……あっ、お料理も大好きです。得意料理はティラミスですね。幼稚園にいた時から作ってたので味にはとっても自信があります」


 本当の僕は男の子ではあるけれども、今の僕は女装をしている訳なのでそれがバレてしまってはいけない。


 そう思うと逆に緊張してしまうが、噓ではない得意な事を言うと口が滑らかに動く。


 何だかんだで僕は女の子らしい趣味を――もちろん、全て胸を張って言えるような腕前である――それとなくアピールする事に成功できた。


 服の話題や化粧品の話題になっても、お嬢様から身体で色々と教えられた所為で全て対応可能になったが、僕個人としては昔からやってきた家事が本当に大好きなのだ。


「どうぞ皆様、これから宜しくお願い致します」


「…………」


 しかし、僕がこうして挨拶をした瞬間に女子生徒だけしかいない教室の空気という空気が一瞬で凍りついているのは何故だろう?


 教室の教壇の上に立たされた転校生である自分を食い入るように、何故か目が血走っているお嬢様学校のクラスメイトたちだが、誰がどう見ても彼女たちの様子は変だとしか言いようが無い。


「……あはは」


 取り敢えず、困ったように乾いた笑みを浮かべてみるけれども、その笑みに促されて目の前にいる20人程度の女子生徒が笑い出すという事も無く、逆に息を荒くしては僕に向ける視線がどんどん色っぽくなっているし、よくよく見れば鼻から血を流していらっしゃる人までいる始末。


「え、えっと……?」


 教室内にいる数十人もの女子生徒たちの反応は席に座っているお嬢様にとっても予想外であるらしく、僕と同じように困惑の表情を浮かべては周囲の様子を伺っている始末。


 もしかして――男だって、バレてしまった?


 そう思うと心臓がどうしようもないほどに脈動して、背筋を冷たいものが流れていく感触に襲われる。


 頭と身体の中が寒くなったり、熱くなったりの繰り返しで意味が分からなくなっていくそんな矢先。


「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!」


「エロいですわあああああああああああああああああああ!!!」


「存在がR18ですわあああああああああああああああああ!!!」


「天使という苗字とは思えないぐらいにエチチですわねぇ!!!」


「お上品な顔をしている癖にすっごくエッチな身体つきィ!!!」


 爆発を思わせるような女子生徒達の突然の歓声を前にした僕は反射的に肩と膝をすくめて驚く他なかった。


 大声……それも感極まったとでも言わんばかりの心から叫びは、例えるのならば有名なアイドルのライブに参加した強火なファンの断末魔。


 簡単な自己紹介をしただけだというのに、僕がこれからお世話になる教室はお嬢様らしからぬ阿鼻叫喚で覆われ、その原因で作った原因は僕なのだろうけれども、どう反応をすればいいのか分からないまま戸惑うしか出来なかった。


「は、はい……?」


 今の時間帯は丁度休み時間であるので、外の方から『一体全体何が起こったのだ』と言わんばかりに他のクラスメイトが続々と様子を見にやってくる訳なのだが、どうした訳かその人たちも僕の姿を一目見ただけで目や鼻に耳から血を吹き出してはぶっ倒れていく。


「御覧になられまして? ナマモノの僕っ子ですわよ。しかもただの僕っ子ではありませんわよ。普段は私という一人称で生活している類の絶滅危惧種の偽装僕っ子ですわよ。わたくしたちで大至急に保護しなければならなくてよ? 僕っ娘を無理やりに私と呼ばせるような世の中は滅ぶべきだとわたくし思いますの」


「ははーん。あのお方、私に挨拶をしてくださいましたから絶対に私の事が好きですわね? おもしれー女」


「あれが3年生の下冷泉お姉様が姉と認めた女……! やっべぇですわ! エロエロエチチフェロモンがプンプンムンムンドバドバ出ておりますわ! あんなの変態お嬢様ですわ! 公然猥褻物に片足突っ込んでおりますわよあのエロお姉様!」


「マジですの⁉ あの下冷泉お姉様のお姉様⁉ つまりあれは我々のビッグシスター! 否! 現在の百合園女学園最強最高のお姉様では⁉ まずいですわ! 私の身体と神経と細胞が勝手に唯お姉様の妹になっちまいますわ!」


「でもお胸は貧乳ですわね。私の方がおっぱいありますわよ。なのにどうしてあんなにエロイのかしら、あの方? もしかして全身の血液に媚薬でも流れていらっしゃるのかしら、あの淫乱お姉様?」


「唯お姉様! 唯お姉様ァ! 唯お姉様ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


「どうも唯お姉様、血の繋がりがない妹なので身体の繋がりをくださいまし」


「は? 僕っ子? あのお方はわたくしをドキドキさせて心臓発作にさせて殺すつもりですの? わたくしの普通極まりない性癖を捻じ曲げるおつもりですの? 僕っ子銀髪お姉様とか属性モリモリすぎではなくて? なんなんですのよあの吊り目のラインから繰り出される優しくもエッッッッな双眸。あのお方はあの魔眼で一体何人もの人間の性癖をぶち壊しましたの? あんなの聖女じゃなくて魔女でしてよ? 制服と下着を剝がしたら全裸でしてよ? とんだド淫乱かつド変態ではありませんこと? 一体全体何なんですのよ、あの自分は清楚ですと笑顔で嘘を言うような淫乱サキュバスお嬢様は?」


「ァァァ恋に堕ちる音と性癖がぶっ壊れる音ォォォ」


「全裸の上から下着とブラと制服を着て登校……⁉ 何なんですのよ、あの女……! 常識がないのかしら……⁉ 自分のフェロモンをムンムンに制服に染み込ませて学園で性癖破壊テロをするという算段が見え見えなんですのよ……! 第1被害者は私で是非お願いしますわよ!」


「はぇ~。あの方すっげぇ美人ですわ~。天使お姉様を視界に入れるだけで清楚がドクドク作られる音を感じますわ~。たまらねぇですわ~。ぱっと見た感じ、天使お姉様の属性は受けですわね~。コミケのネタが出来ましたわ~。取り敢えず~。ん~。そうですわね~。『天使お姉様×茉奈お姉様』を軽く想像しましょうかしら~」


 簡単な自己紹介をしただけだというのに、僕がこれからお世話になる教室はお嬢様らしからぬ阿鼻叫喚で覆われた。


「あぁ! もう我慢できませんわ!」


 今の今まで席に座っては顔面の穴という穴から血を流していた1人の淑女がそう言い放つや否や、無駄のない無駄な動きで私の近くまで迫っては、まだ履き慣れなれていない黒タイツで覆われた脚を触ってきたのであった。 


「え。あの、どうして近寄って……? 目が血走って怖……ひゃあん⁉ さ、触らないでぇ……⁉」


「唯お姉様が……! 私を誘惑させた唯お姉様が悪いんですのよ……! こんな細長い脚で私を誘惑させてくる唯お姉様が全部悪いんですわよ! 私は悪くねぇですわ! 誘惑するお姉様が悪いのです! このセクハラ悪魔が!!!」


「私、悪くないっ……! 誘惑なんか、してないっ……! 私、普通にしてるだけですからっ……⁉」


「エッチな女性は皆そういうのです! 正体表しましたわね、このエロお姉様!!!」


「あの尼ァ! ついにやりやがりましたわね! こうしてはおられません! 私たちも唯お姉様をセクハラしますわよ! 今こそ2年A組の力を合わせる時でしてよ! 皆様でセクハラをすれば法律だって怖くありませんわ! 法律が動いたら金で黙らせられるのがお嬢様の強み! 清楚可憐で上品な金持ちお嬢様に生まれてきて良かったですわ! 両親の金でするセクハラは楽しいですわね!」


「いや、あの、ちょ、こ、来ないでっ! 皆さん止めてくださっ……! あふっ……! む、胸触るの止めてくださいよぉ……⁉ ぁんっ……! やだっ……! やだぁ……! さわら、ないでっ……!」


「ナイス貧乳でしてよ唯お姉様ァ!」


「胸を触るの……らめっ……! んぅ……⁉ お、お尻を触るの、やめっ……! んぁ……! 脚、撫でないで……! ひゃ……! うなじ、触らないで……! っ、耳だめっ……! 耳弱いから止め、やぁ……んくっ……⁉ だ、だめ……それだめっ……! それされたら身体が熱くなっちゃうから……やめて……やめてっ……!」


「えぇい! 君たちは歴史ある百合園女学園の女子生徒であり、淑女であるという自覚を持たないか⁉ 確かにあの編入生には人を狂わせてしまう魔性の気はあるが、アレは私の従者であり、私の所有物であり、私の大切な……あぁ、もうっ! だーかーらー! 私の唯にさーわーるーなー! はーなーれーろー! ちーかーづーくーなー!」


 一応、僕の女装事情を知っているご主人様が私を助けようと女子生徒の人だかりの中に果敢にも突っ込もうとしているけれども、それを許す女子生徒ではなかった。


 これ幸いと言わんばかりに私に質問をしようとやってくる鬼気迫る女子生徒たちはここぞとばかりに団結力を発揮し、何重にも構成された人の壁を一瞬にして作り上げては邪魔者を近づけさせず、そして、僕を女子の群れのど真ん中から逃がさない布陣を一瞬で、言葉も無く、敷いたのである。


 げに恐ろしきチームワークであった。

 性欲の正直になった女子とは怖い生物でしかなかった。


「お、お願いです……! もう止めてください……! そんなに近づかれたら、僕が皆さんを触っちゃいますから……!」


「OKですわ! 触ってOKですわ! ですから唯お姉様に触らせてくださいまし!」


「私も髪の毛を触られましたわ! これは責任を取って結婚しないとですわね!」


「あっ! 唯お姉様が私の胸に触ってくださいましたわ! ぐへへ! いけませんわね! お相子にしたいので私は唯お姉様の御胸を制服越しから触らせて頂きますわ! 同性ですからこれぐらいセーフですわ! んん~! ナイス貧乳に豊尻でございましてよ!」


「唯お姉様! その黒タイツは食用可能でございまして⁉ 要らなくなったらまずはこの黒タイツの申し子である黒崎に下さいまし! やはりタイツは美人が着用するのも乙ですが、その美人から無理やりに剝ぎ取って『生足・タイツ=6:4』の比率にするのも乙でございましてよー!」


「……た、たすけて……!」


 不味い。

 何が不味いって、こうもべたべたと身体中を触られた所為で女装をしている男であるという点がバレてしまうという可能性がどんどん高くなってしまうというのが本当に不味い。


 しかも、僕は男である訳で!

 男である以上、下半身にアレがついている訳で!


 もしも、それがち上がってしまうものであるならば、本当に社会的に死ぬしかないじゃないか⁉


「た、たすけて……姉さんっ……!」


 それでも僕は必死になって下半身だけは触らせないように努力した。


 20人以上ものお嬢様相手に下半身だけを死守した代償と言うべきか、そこ以外の私の身体は舐めつくされるように淑女どもの餌食になってしまい、休み時間が終わるまでの間、私は下半身のアソコ以外の場所という場所を徹底的にセクハラされてしまったのであった。 


「この学校、変態しかいなくて怖いよ助けて姉さんっ……⁉」

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