狂き型:ハルシオン
外レ籤あみだ
無真実の夜
夜の街の輝く裏っかわ。じっとりとして、表情の無い壁々に肩をぶつけていきながら走る女。高いヒールを穿いていたのを投げうって、ようやくその壁だよりの走りと縁をきった。人気のなさに裸足はアスファルトへ魚が跳ねるように鳴る。それこそ陸に上がった魚の海をめざす一縷の抵抗。
さて虚しく彼女のまえへ、これまた女、追いついた者。暗がりのなかで、洗練された細い影。その手に黒光りするなにかが煌めく。夜の水面を見下ろしたときにある、真っ黒ななかの不気味で重厚感のある閃き。それが追いついた者の片手から持ち上がってくる。
裸足の女は、持ち上がってきたそれから撃たれた。
消音器のついたものだったから、銃声は散らからなかった。とてもスマートな悲劇。
倒れた女ではないほう、加害者はつまらなく息に混じる小さい声。
「年貢の納め時だなぁ、私」
拳銃をぶらんこみたいに垂らして、加害者は夜の闇へ埋もれていく。入れ替わりに警察車両の遠吠え。警笛が群れて近寄ってくる。
被害者はただそこに残るだけだったが、やはり夜のなかであった。
血も涙ものない路上でのできごと。信号が変わるような単調さの始末。
その果てでまだ夜の街は、モザイクのように明るさが密集している。
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