リアル“幸運値”カンスト君主(ロード)はエンジョイプレイを極めたい

緑茶好

序章:幸運な少年、君主になる

第1話 幸運な切っ掛け

 No Side


 竹見涼介、高校1年生。ごく平凡な学力、ごく平凡な体力、ごく平凡な家庭、比較的整った容姿、と概ね「普通」な少年。


「……それからお兄ちゃん、これは福引き券だから。そこで引けるから忘れないでね」

「?は~い。ありがとうございます」


 今、普通に近所の商店街で、普通に母親から課せられたおつかい任務を普通に遂行している彼は、スーパーのレジ係の女性から福引き券を受け取ったところだった。


 見れば、どうやら何らかのイベントらしい。買い込んだおおよそ4000円分の荷物に対し、付属してきたその紙は2枚。さほど遠くない場所から、呼び込みの声も聞こえてきた。


「2000円で1回福引きができますよ!もちろん1等は豪華景品も!」

「あれかぁ」


 少年は思い出す。母親に「寄り道しないで帰って来なさいね」と言われたことを。そうして、商店街の福引きは寄り道に入るだろうか、と考える。これはどうしたものか、と彼は手元の福引き券を覗き込んだ。


「あれ」


 有効期限1日なの?と首を傾げる少年。券には確かに「有効期限」として今日の日付が書かれていた。


「じゃあ引いちゃおうかな」


 そのまま彼が景品の棚をちらりと見れば、コーヒーメーカーだとか、魚沼産のお米だとか、大きな洗剤のボトルだとか、赤肉メロンだとかがある。何ならハズレでもティッシュは貰えるらしい。一番上の特賞なら、最新のVR機器とゲームソフトだ。このくらいなら良いか、と彼は歩き出す。


「洗剤とか引けちゃうかな〜。俺、“運が良い”し」


 彼はにこにこと機嫌の良さそうな笑顔で言った。


「すみませ〜ん。ここって福引きのところですよね」


 確かに、この少年は相当に運がいいのだ。


「おっ!そうですよ……うんうん、確かに券も2枚ありますね。どうぞ!」


 ただしその運の良さは、全く“普通”の範疇では無かった。


「……おおっ!2等、魚沼産コシヒカリ3kgです!」


 本当に、彼は尋常でなく運が良いのだ。信号に引っかからないのは当たり前、転んだ先に財布があったり、忘れ物が必ず戻ってきたり、鉛筆コロコロだけでテストを8割正答したり。


「やった〜」


 ほけほけと笑ってみせる“幸運な”少年は、2度目を引こうと抽選機のハンドルをつかむ。それから、どうぞ、と係員に言われて、ぐるりと一周回した。


「……おおっ!!」

「んえ?」


 ころん、と抽選機から金色の玉が飛び出す。からんからんと音を立てて、玉は受け皿に収まった。それを見て、係員の青年は大きな声を上げる。


「特賞!!特賞が出ました!!!最新の没入型VR機器とゲームソフトのプレゼントです!!!」


 にわかに商店街が騒がしくなった。すごい、だとか、ああいうの本当に当たるんだ、だとか。見物人は次第に増えてくる。


「えっと、あの……」

「こちらが景品になります。大丈夫ですか?」

「あ、は、はい!……袋ってありますかね」


 少年は居心地が悪そうに景品を受け取った。……が、ゲームソフトのパッケージはまだしも、3kgの米と大きさのあるVR機器を抱えて持ち歩くのはしんどいらしく、申し訳無さげに袋を求める。


「すみません、こちらになります」

「ありがとうございます」


 斯くして、少年はやっと帰路に着く。彼が抱える重たい紙袋の一番上にぽつんと置かれたゲームソフトのパッケージには、【The Road of The Fantasia:Ⅳ】と鮮やかにロゴが踊っていた。


――――――――――――

はじめまして、緑茶好(りょくちゃこう)と申します。

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誤字等修正しました。

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