第4話 熱

孤児院までの道のりでシュタインは真面目にこう言った。

「今回の俺たちの依頼はデルベス孤児院の魔人の救出だ。そして、今回魔人は孤児院の中に潜伏している可能性がある。だから俺たちは周りへの被害を抑えるために限界まで魔人を引きつけ、安全に魔人を救出することが求められる。」

「孤児院に着いたらこちらの目的を絶対に口に出すな。」

「絶対に忘れんなよ俺達エクソシストにとって魔人は敵じゃねぇ、欲望に飲まれちまっただけの同じ人間だ。そいつを苦しまないようにすることが俺たちの仕事だ。敵を見誤るなよ。俺達が憎むべきは悪魔なのだから。」

その言葉を聞いて、レオはシュタインに少し感心していた。


シュタインが薄汚れた門を開くと、

中から30代前半くらいのメガネをかけた髪の毛がボサボサの男が立っていた。

よく見たら顎髭が少し生えているその男は、

「来てくれましたか!神父様!」と嬉しそうに、シュタインの手を取り、握手する。


「私は今回エクソシストの方々に依頼をした、この孤児院の院長マルコス・クライです。」


「どうも〜私はダルニエル教会の神父のシュタイン・アルベルトと申します〜。今回は「超祝福!誰でも幸せ!無償の愛プラン」をご購入いただきありがとうございました〜〜!」


そのシュタインの態度の急変にレオはシュタインへの尊敬を手放した。


そう、このシュタインという男、神父のクセに、

金に目がなく、商人のような立派な化けの皮を持っていたのだ。


そうして、クライは二人を柵の中に入れ、孤児院内を案内した。

柵の中にはレンガ造の大きな宿舎があり、やはり、校舎は薄汚れていて、暗く、淀んだ雰囲気を発していた。


(なんですかあのなんとかプランってさっきまであんな仕事熱心なこと言っといてガッカリしたよ!)と小声でレオがシュタインに声を掛ける。

(バカ!こういう時に稼ぐだけ稼いでおくんだよ)

シュタインは言い訳を並べる。

(アンタ神父のくせにちっとも煩悩捨てきれてないじゃないか!)

レオはシュタインを睨んだ。

「コッチにはガキには分からない大義があるんですー」

シュタインは子供のようにレオを煽る。

「孤児院から金を巻き上げるのにどんな大義があるんですかー」

もはやお互い周りのことなど気にも留めなくなった。

それを見た院長が2人を止めに入る。


院長の案内が始まり、ある程度案内が終わると、レオはある違和感に気付いた。

さっきまで、院長と呑気にわざとらしく談笑していたシュタインの目と口角が下がっているのだ。

それも、院長に悟られないように顔をうまく別の方向に向けて。

そして、宿舎に入る前に感じた暗い雰囲気がさらに増しているということだった。


すると、シュタインがレオに目配せをして、院長に話を切り出す。

「ウチのガキがトイレ行きたいそうなんで、ちょっとトイレまで付き添っていいですか?」

「は?シュタッモゴモコ」

そう言って、シュタインはレオの口を押さえる。

「神父様、トイレの場所はおわかりでしょうかできれば案内……」

「お気遣いありがとうございます、さっき途中で見かけたから大丈夫ですよ」

と言って、シュタインはレオを廊下の奥に無理やり連れて行く。

 

「私は院長室にいるので何かあれば言ってくださいねー」


二人は外の一つの部屋に入った。


「どうしたんだよ急に!」

とレオがイライラしながら言う。


「喚くなよ、ハーフアース(半端者)外の子供をよく見てみろ。」

シュタインはそう投げ捨てるように言った。

「誰がハーフアースッテ,ナンダヨ」

レオがそう口を尖らせながら窓をそーっと覗いてみると、レオはその光景に戦慄した。

宿舎の周りで走り回って遊んでいる子供がいる一方で、こちらをじっと見ている子供があちこちにいたのだ。

よく見るとその子供の目はどこか虚ろで、口からはよだれが垂れ下がり、とても生者のものとは思えない顔であった。

「ナッナッなんだよ!あれ!」

レオが叫ぶ。

「たぶん、悪魔の能力で作られた子供か、操られているかだろうな」

シュタインの態度はいつにもましてめんどくさそうだ。

「なんで、シュタイン神父はそんなにめんどくさそうなんだよ!悪魔を退治しに来たんじゃないのか?」

レオはついにシュタインの態度に腹を立てた。


「まぁ落ち着けよ、ハーフアース、監視しているってことはまだ手を出す気はないってことだ。そして、今ここで問題は3つ、

1つ、魔人がまだ誰か分からないこと。

2つ、一般の子供がまだ孤児院内にいること。

3つ、お前が足手まといであること。の3つだ。」

レオはムッと頬を膨らませる。

シュタインは続けて言う。

「と言っても魔人の正体については策がある。」

そう言って、シュタインは聖書を取り出し、呪文を唱え始めた。


「心せよ、災禍の角笛 スケープゴートの名のもとにその角へし折り貴様に与えん」

「ゴートスコープ(羊見の望遠鏡)」


そう唱えると、床に三角を丸で囲ったような形の黄色の模様が浮き上がり、やがてシュタインの首に掛けた十字架に集束した。


「なんだよこれ。」

レオがそう尋ねる。

「これは「祈祷」だ。」

シュタインはそう答える。

「祈祷?」

「祈祷は300年以上前に作られた悪魔の脅威に触れた人々が魔人を悪魔から救う為の武器だ。」


「戦うための武器じゃないのか?」


「「汝敵を愛せよ」だ昔はまだ神が信じられていたからなそういう楽観的な考えが広まってたんだよだから、祈祷には魔人を殺すような効果の物はない魔人から悪魔を分離する術がほとんどだ。」


「ナンジ……ナンダソレ?」


「争いが起こらないようにする為の昔の教えさ、

昔、この世には「神」ってのがいて、ソイツは下層から上層の人々まで平等に愛してくれていたらしい。たくッお気楽な思想だよな。」

シュタインはやれやれと肩を上げ首を横に振る。


「「汝敵を愛せよ」か〜みんなが仲良しになれるなら…それいいな!」

屈託のない笑顔でそういった。

レオは「汝敵を愛せよ」を気に入ったようだ。


「お気に召したようで何よりだ」

シュタインは皮肉混じりに言った。


「この祈祷は目に入った魔人の魔力を感知し、可視化するという物だ。」

「黄色くなればソイツは魔人だ。」

シュタインはそう説明した。

「さて、ここからは別行動だ。お前はこの十字架を持って、子供達に魔人がいるか調べろ。」


「別行動って…俺まだ、見習いだぜ?いきなりそんなこと言われても…」

レオは口を籠もらせる。


「俺はやることがある。」

シュタインはそっぽ向いた。


「シュタイン神父のアクマー!マジンー!ヒトデナシー!」

レオは神父にあからさまな不満を吐く。


「ウルセー!俺は心底機嫌が悪いんだよ!お前のせいでな!」

「それに、ここでお前と俺が一緒にいたら魔人が寄ってこない可能性があるからな!もし、魔人を見つけたらその十字架を魔人の体に打ち込めよ!」

シュタインはニヤリと口角を上げ、部屋から出ようとする。


「あのー、、シュタイン神父?ガチで行っちゃうんデスカネー」

レオは恐る恐るシュタインに聞いた。


シュタインはフッと鼻で笑い「せいぜい頑張れ」

とだけ言い残し扉をバタンと閉めた。


シュタインはレオを部屋に置いた後に孤児院から少し離れたところにある倉庫に移動していた。


今ここで問題は3つ、

1つ、魔人がまだ誰か分からないこと。

2つ、一般の子供がまだ孤児院内にいること。

3つ、2人目の魔人がいる事!

しかも、もう1人の奴は中々に強い悪魔を宿してる強い悪魔の力を操る奴は倒すだけならまだしも、下手したら辺り一面マッサラになる可能性がある。

とにかく、できる限り離れねぇとな。


倉庫は横長の大きなレンガの建物であり、時にはその倉庫は院長いわく、孤児の理科の授業の場にもなっているという。

中は紡績機がズラッと並んでおり、

授業で使うものなのか、様々な道具や椅子と机が散らばっていた。

長い事掃除されていないのか、倉庫内は埃が舞い外からの明るく白い光が差し、まるで世界が色を失ったかのような錯覚に陥る。


シュタインは倉庫にある山のような箱を軽々と持ち上げては投げ捨て、何かを探していた。


瞬間

倉庫の窓から何かがガラスを割って飛び出し、シュタインを襲った。

シュタインはすかさず何かを避け、後ろに跳び上がった。


何かは全身真っ黒に染まった人の形をしており、その輪郭からは女性の影であることがわかる。


「メンドクセーな。そのままおとなしく監視してくれたら楽だったんだが。」

シュタインはダルそうに女性に向かって言う。

「あら?気づいていらしたの?さすがは神父様、

恋する女の子の目線に気づけるなんてなかなかの浮気者なのね。」

すると、割れた窓の外から優雅な赤いドレスに身を包み、貴族のような仮面を被った美しい女性が色を失った世界に侵入してきた。


するとシュタインは突然、十字架の大剣を取り出し女性に切りかかった。

シュタインの大剣は空を切り、そこにあった紡績機を粉砕した。


「あら、積極的なのは好みだけど、名前ぐらいは聞いてくれないと愛は育たないわよ?」

女性はシュタインに怪訝そうに空中を飛び上がりながら言う。

「ほう、じゃあお前の愛は泥を俺に投げつける事から始まるんだな」と先ほどの女性の影を指し、皮肉を言った。

すると、女性は豊満な胸をシュタインに腕で持ち上げながら不満そうに言う。

「もうちょっと愛想よくできないのかしら〜?それとも緊張して照れちゃってるのかしら?」


「確かにな…熱くなってきた…お前のせいでな」

シュタインは大剣を肩に担ぎ、くわえたタバコの火は青く激しく変化し、顔に不敵な笑みを浮かべた。

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