7. 第十三遊撃隊、復活

 

「……ナイアルさん! 長い潜伏の間、俺たちを優しく見守ってくれた岬の集落に、ご恩返しの時が来たのではないでしょうかッ!?」



 てかーッ!


 今、厨房の中に光源は何もないというのに、てかりまくりの頬を輝かせて料理人アンリは副店長を見る。


 大きなみどりの瞳をぎょろッと光らせ、ナイアルもまた不敵な笑みを浮かべた。



「うむ。その通りだ、アンリ。……いいっすね、大将?」



 店長ダンが、無言でうなづき返す。


 がた、がたたっ。ダン、ナイアル、アンリ、ビセンテの四人は同時に立ち上がった。


 アンリの言う通り、お婆ちゃんをはじめ岬の集落には本当に世話になった。敗残兵となった四人をみかけても、何にも詮索せずにいてくれた素朴な人々の住むところ……。


 その集落の人びとが今、陰険な犯罪に困り果てて助けを求めている。旧テルポシエ軍二級騎士、“第十三遊撃隊”が行かずして、誰が助けに行くというのだ!?



「よし。そうと決まれば皆、仕度したくだ! ビセンテ、おひいと母ちゃんが寒くないように、行く前できるだけまきを炉脇に詰め込んでやってくれ」



 毛先を揺らしてナイアルにうなづくと、獣人は音もたてず、裏口から素早く厨房を出てゆく。



「え、えええっ? ちょっと、お店はどうするの!?」



 腰掛から立ち上がりつつ、エリンが慌てた声で聞く。



「蜜煮を買いに来る客がいるかもしれん。“営業中”の看板は出さんにしても、とにかく開店状態にしておこう。今のところ予約は入っていないしな……、もし駄々こねるようなのがいたら、香湯でも出して引き取ってもらえ」


「……いいの!? それで!?」


「大丈夫だ。俺らの女王、お前なら何とかなる。つうわけで母ちゃん、あと頼んだぞ。とっとと片付けて、なるべく早くに帰ってくるからよ?」


「あいよ、気をつけて行っといで」



 心配そうにうろたえるエリンの横、百戦錬磨のナイアル母はずどーんと動じない。さすがは老舗乾物屋“べにてがら”、前おかみである!


 四人はあっという間に身支度をした……。野戦装備の毛織衣に革鎧、腰に背にさまざまの物入れ飛び道具類をひっつけて、またたく間に“第十三遊撃隊”の再登場である! ああ懐かしい!



「あれっ、迷彩外套がなんか……微妙にかっこ良くなってないか?」



 短槍を手にしながらナイアルがつぶやいた言葉を、ダンはもちろん耳ざとく聞いた。口角が上がる、笑っているのかもしれない。こわい。



――ふふふ。都会に戻ってこれたのだし、便利な素材をいっぱい使って、たのしくお直ししてみた……。



 厨房、お弁当箱の大きな包みをきゅっと縛って、アンリは右手に平鍋をつかむ。



「行くぞ……ティー・ハル!」


『ようし』



 がちッッ! 背中の革帯に平鍋を装着、中弓とお弁当を両手に、頬を義憤にてからせながら料理人は吼えた!



「ぷ・れ――(準備完了)ッッッ」






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