第45話 いざ決戦の時
魔王が降りてきたと同時に、会場全体に青いバリアのようなものが張られた。結界だ。
結界が張られたということはフィロ神が近くにいる。そしてフィローディアと繋がる裂け目が出来た。
観客やスタッフが避難した今、俺達は魔王のいるステージへと走った。
「みんな行くぞ!」
「はい!」
とうとうこの時だ! と俺達は頭の中に前世の自分の姿を思い浮かべて強く祈った。
その瞬間、まるで魔法少女が変身する時のように俺達の周囲には光が渦巻き始めた。
頭から足の先までが金色の光に包まれ、俺の身体には鎧の形が張り付き、剣が出現する。
仲間達も同じように、光の渦に包まれ、頭から足の先までの衣装が変わっていく。
淳は風の戦士ジュディルへ、岸野さんは僧侶ラミーナへ。ポケットのモモ太は外に出てミニドラゴンへと形を変えていく。
その身には先ほどの私服とは違う衣装になり、髪型も装備品も全く違う、まさにフィローディアでの勇者パーティの俺達の姿に変身した。
「魔王ロージド! この世界にも現れやがったな! お前の相手は俺達だ!」
あの頃と同じ姿に変身した俺はリーダーの勇者として、俺はロージドに呼び掛けた。
「ほう、その姿。お前達はあの時に私に敗北した勇者どもか。その身を焼き尽くしたはずだが、何等かの能力で復活したのか。しぶといやつらだ。まさかこの世界にいたとはな」
敗北した、と言われ俺はちくりとした。こいつの前で、俺達が情けなくやられたと言われている。
「あの時の俺達は確かにお前に負けた。だけどあの時と同じじゃない! ここでいくら戦っても、無駄だ。お前が暴れてもフィロ神様の結界で外には出られない。俺達がここでお前を倒す!」
「俺も戦うっす!」
「あなたの好きにはさせませんわ!」
「僕たちの世界から出て行け!」
仲間達もそれぞれ戦闘態勢に入った。
「ならば再びお前達を仕留めればいいだけだ。邪魔者を成敗すれば、我はこの世界を支配できる。せいぜいあの時と同じようにもがくんだな!」
魔王が両腕を大きく開いた。
「みんな、行くぞ!」
「はい!」
俺達は魔王へと向かって行った。
「まずはラミーナ、守護魔法をみんなにかけろ!」
「わかりましたわ!」
ラミーナが詠唱すると、魔法陣が出現して俺達を加護する光が舞う。
それが身体を包み込み、ふわりとあたたかい衣のようなものを身にまとった感覚になる。
これでロージドの物理攻撃は多少ダメージを軽減できるはずだ。
「ジュディル、俺達で攻撃だ」
「わかったっす」
俺とジュディルはロージドへと直進で向かって行った。
俺が近距離で剣で切りつけ、飛び道具で中距離から攻撃できるジュディルが後ろで補助攻撃だ。
「てえい!」
ジュディルのチャクラムが飛び回り、それで気を散らして俺が剣で斬りつける作戦だ。
「ふん。こざかしいわ!」
チャクラムをはじくように、ロージドが手を振りかざした。
そこから真っ黒な衝動派が噴き出てきた。
その衝撃が会場の椅子などをぶっ飛ばし、それらは壁や床に叩きつけられてバキンバキンと激しい音を鳴らしながら壊れた。
魔王降臨からほんの僅かでとてつもない勢いでホール内はあっという間に無茶苦茶になった。壁や床は割れて大きく損傷し、ステージは足場もろとも全て潰れている。来場客の椅子は全て弾き飛ばされ、無残にガラクタの山となっていた。あの華やかなコンサート会場ではなくなっているのだ。
フィロ神の結界により、どんな衝撃があっても壁が壊れることがないのでそれがこのフィールドで思いっきり戦えることになるが、その為に俺達も途中で外へ逃げることもできない。
外の人間には音が聞こえないのだからこの中で何が起こっているのかを知られる心配はない。
だから逆に、俺達が外へ助けを求めることもできないのだ。
チャクラムをはじかれ、それがジュディルの手元に戻るのと同時に、俺はジュディルに「風の能力を発動させろ」と叫んだ。
ぶおお、と凄まじい強風が出現し、それでロージドの衝撃派を抑えて、俺はその風に乗るように剣で突進する。
「くらえっ!」
俺は剣をロージドに向かって振りかざした。
「効かぬわ!」
ロージドは剣を爪で弾き、俺の身体をまるでハエのように叩きはらった。
「ぐあっ」
その勢いで俺は壁に勢いよく叩きつけられた。ラミーナの守護魔法がなければこの衝撃でダメージを負っていただろう。
壁から床にと落ちた俺にめがけてロージドが大きく手を振りかざした。
「くそっ」
俺は間一髪で姿勢を整え、バックステップでかわした。
正面からの真っ向な攻撃は効かない。
こうなったら他の手段に出るしかない。
「ジュディル、連携技を使うぞ!」
「わかったっす」
ジュディルはチャクラムに念じた。チャクラムに風のパワーを溜めこんでいるのだ。
チャクラムが緑色に光り輝き、途端に強風を巻き起こした。
「いくっす!」
ジュディルが思いっきりそれを魔王に向けて投げつけると風の威力も増してすさまじいスピードでそれは飛んで行った。
チャクラムがロージドを斜めに十字に斬りつけ。その真ん中を俺の剣を入れてアスタリスクの形にするという連携技だ。
「くっ」
巨大な身体ゆえに素早く動けず、なおかつ身体の面積が大きい分、ジュディルのチャクラムの旧スピードを避けきれず、ロージドの身体に斜め十字の衝撃が入った。
「くらえっ!」
そこへ俺が真ん中に向かって剣を振り下ろした。
ぼすぅ、という音と共にそこからは血のかわりに黒い霧が吹きだした。
ロージドは今となっては生き物を超越する存在だ。身体に流れるのは血液ではなく黒い物質なのだろう。
「ふん。こんなもの効かぬわ」
ロージドの身体には切り傷が入ったはずだが、それがみるみる塞がっていく。
「普通の攻撃じゃ効かないってことか……」
それでは次の作戦を考えなければならない。
「ポフィ、氷のブレスだ!」
「はい!」
ロージドに向かって一直線に飛んで行ったポフィが口を広げると、そこから勢いよく冷気のブレスが噴出した。
ここは屋内だ。炎のブレスだと周囲に火が燃え移ってここで自分達もろとも焼け死ぬ可能性がある。なので凍り付くような勢いの冷気のブレスにした。
ひゅごおお、とロージドの身体の表面が一瞬だけ氷に包まれたが、それは数秒もせず砕かれてしまった。
「無駄な真似をしおって! お前らの攻撃など効かぬわ!」
連携技も冷気のブレスもダメとなると、どうしたものか。悩んでいる暇はない。
「私がこの世界にゲートを開いた以上、この世界が我に支配されるのは時間の問題だ、お前らの相手など無駄なのだ」
ロージドは随分と余裕ぶった台詞を吐いた。
「だからこそ、俺達が食い止める! お前なんかの好きにはさせない!」
こうなったらひたすら攻撃を繰り返すしかない、と構えた時だった。
「ほう、これを見てもそんなことが言えるのか?」
ロージドの身体からは黒い霧で出来た触手のようなものが生えていた。
その触手はあるものを掴んでいた。
俺はそれを見て驚愕の声を上げた。
「美智香……!?」
ロージドから生えていた触手に絡まれているのは美智香だった。
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