第32話 俺の幼馴染


 ある日曜日、俺は次の依頼の為にと作戦を考えていた。

 あれからも俺達の元にはいろんな依頼が来て、次々に解決していった。


 それには普段から解決法を考える必要がある。


「といっても、やっぱ疲れる時もあるな」


 俺は部屋をぐるりと見渡して、本棚が無茶苦茶になってるのに気がづいた。

 最近、役に立つ資料はないかと自分の部屋の本棚を漁っていたのだ。


「片づけるか」


 俺は本棚の整理を始めた。巻数がめちゃくちゃになってる本を並べたり、出しっぱなしになっていた本を棚に収納したり、棚の後列から出した本を元の場所に戻そうとした。


 すると、本の隙間からぺらり、と一枚の紙が落ちた。


「なんだこれ?」

 俺はそれを拾った。どうやら写真のようだ。


「あ、これって……」

 それは懐かしい子供の頃の写真だった。


「町内会の行事のバーベキュー大会で撮った写真だな」


 カメラに向かってピースサインを決める小学生の俺。

 そしてその隣で一緒にピースサインを決めている女の子。

 二人でカメラに向かって笑顔でポーズを決めていた写真だ。


「美智香、元気かな」


 これに写っている俺の隣にいる女の子は幼馴染の渡瀬美智香という少女だ。

 家が近所で、俺とは保育園時代からの幼馴染だった少女だ。


 子供の頃から可愛いと周囲には評判で、明るい女の子だった。


 歌もダンスも得意な女の子でいつもみんなの前で歌ったり、ダンスを披露したりしていた。


 それは才能もあるのではと親や教師たちにも評判だった。


 俺はその頃のことを思い出した。


 小学二年生の頃、ダンススクール帰りの美智香と会って。一緒にコンビニで買ったアイスを食べた時の思い出。


 夕日を眺めて、美智香は言った。


「あたし、将来はアイドルになりたいの」


 それは美智香の夢だった。


 ダンススクールや歌のレッスン教室などに通い、美智香はそういったことが大好きだった。

 無邪気な子供だった俺はそんな美智香を応援していた。


「いいんじゃないか? 美智香のダンスも歌も、きっと芸能界でもやっていけるぜ」


「ホント!? 私、アイドルに向いてるかな?」


「ああ、お前ならきっとなれるぜ。歌もダンスもあんなに得意だし、みんなの前で唄ったり踊ったりするの好きじゃん」


 子供だったから、きっと美智香にならそんなこともできるんじゃないかと夢を見ていた。



 美智香は成長するにつれて、どんどん大人びて美少女になっていった。


 小学校高学年になる頃には早熟で大人の色気を出すほどの美少女になっていたのだ。

 それはまるで本物のアイドルのように学校でもモテモテでいつもたくさんの友達に囲まれていた

 小学生だというのに、たくさんの男子にも告白されたり、学校行事でもダンスや歌を披露して大活躍だった。




 そしてあれは四年前、中学一年生の時のことだった。


「私、オーディションに合格したの」


 登校中、一緒に学校へ行こうとしてるところで美智香は嬉しそうにそう言っていた。


「え? オーディションって何の?」


「アイドルのオーディションよ。芸能プロダクションのオーディションに応募したの。そして私、合格したの」


 なんと美智香は実はアイドルのオーディションに応募していて、それに合格したとのことだった。


「アイドルって、つまり本当に芸能人になるってことかよ」


「うん、私アイドルになってみんなの前で歌うの」


 美智香は本物のアイドルになりたかったのか、と俺は衝撃を受けた。


 確かに美智香は昔からダンスも歌も得意だった。


 小さい頃はよく将来はアイドルになりたいと言っていた。


 あれは子供の頃のキラキラした夢だと思っていた。子供なら誰もが憧れる壮大な夢。

 俺自身も子供だったからこそ、美智香はきっとアイドルになれると応援していた。


 まさかオーディションを受けるほど、こまで本気だったとは思っていなかった。


 美智香は本気でその道へ進むつもりなのだと。


「でも、学校どうするんだよ。親御さんだって納得してるのか?」


「ちょっと心配そうにしてはいるけど、お父さんもお母さんも応援してくれるって。だから私、東京のアイドル養成学校に行くことになるんだ。そこの寮に入ることになったから、この町から引っ越すの。アイドルを目指すならちゃんと早めにそういう学校に行ってレッスンとか受けなきゃいけないでしょ? プロのコーチがそういうの教えてくれるんだって」


 これからはそういう業界に進むのだからそれには厳しいレッスンだって必須だ。


 それには実家を出る必要がある。本気でその業界に行くつもりならその覚悟も必要だ。


 小さい頃から一緒にいた幼馴染がいなくなるのは寂しい。


 しかし、確かに俺も応援すると言ったのだから、そんな俺が美智香に何か言うわけにもいかないだろう。美智香が本気でその道を目指したいというのだから。


「じ、じゃあ頑張れよ。きっと美智香ならスターにだってなれるぞ思うぜ」


 本当は寂しいが、美智香が本気なのならば、それは幼馴染として引き留めるわけにはいかない。


「うん。きっといつかテレビにも出るね。その時は見てね」


 そうして美智香は東京のアイドル育成学校の寮に入ると言うことで親元を離れて、この町を去っていった。


 それからは疎遠になった。美智香は忙しいらしく、なかなか地元の実家にも帰ってこなかった。


 美智香は本気で将来を考えていて、その道を選んだのだ。


 それにはスケジュールが厳しく、地元に帰省する余裕もないのだろう。


 あれから時間が経って、テレビに美智香が出てるのをよく観るようになった。


 最初は目立たないアイドルだったが、その歌とダンス力はどんどん評価されてきて、今ではファンもたくさんいる。


 そして今となっては立派なアイドルとなった。


 テレビを見れば音楽番組には美智香が出演するのをよく見かける。


 しかし、俺は美智香がテレビに出るのを見る度に、いまいちな気持ちになってしまう。


 幼馴染がここまで人気者になれば嬉しいものなのかもしれないが、俺にとっては仲の良かった友達が遠くの世界に行ってしまったようで寂しさを感じてしまう。


 もう美智香は一般人ではなく、芸能界という特殊な世界を生きる人だ。それを感じた。


 昔のことを少し思い出し、俺は現実に戻った。


「さて。思い出に浸ってる場合じゃないな。やることやらないと」

 俺は再び片づける作業に戻った。

 

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