小さな悪夢の詰め合わせ
@amakutitougarasi
警備
一人、エレベーターに乗っていた。
ピンポーン
『3階です。ドアが開きます。』
開かれたドアの先に足を踏み入れた。暗くてよく見えないが、ここは衣料品売り場だ。
ピンポーン
『ドアが閉まります』
『下へまいります。』
コツ、コツ、コツ
懐中電灯を用いて、足元を照らしながら歩く。
昼とは全く違う夜のデパート。
賑わうお客様も居らず、ただ、静かな空間に自分の足音だけが響く。
明かりは手元のライトと、薄っすらとした非常灯。
ガラス張りの窓も、今はシャッターが閉まっていて月明かりが届くことはなかった。
この仕事を初めてもう少しで1カ月になる。
定年を迎えたこの年になって、貯金と年金だけでは不安が残ったので、始めた仕事だ。
前職も肉体労働だった。体力的に問題はない。
夜間ということで給料も良く、また人との交流も少ないので口下手な私にはとても合っているように思われた。
制限も少ない。
宿直室で監視カメラを覗き、数時間置きにこうして館内を一周する。それだけの仕事だ。
のんびりコーヒーを飲んだり、うたた寝をしたり。
人件費の削減だかで他に人がいないので、
手を抜いても怒る者はいない。
そう、私のワンオペ状態である。
………。
と、すれば。
ピンポーン
『三階です。ドアが開きます。』
後ろの方でそう聞こえた。
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