ストレス×ダンジョン!
ぽんにゃっぷ
第1話 地獄の扉
冒険者ギルド「星屑の宴」の片隅で、俺は頭を抱えていた。
「カイリ、お前、借金返したいんだろう?」
ギルドマスターのじいさんがニヤリと笑い、俺に紙を渡してきた。
そこには『至宝の迷宮 特別探索任命書』と書かれている。
「……待て。俺に落ちこぼれ集団の世話を押し付けて、地獄の迷宮に行けってことか?」
「ああ、そうだ」
じいさんはあっさりと頷いた。
この迷宮に眠るという伝説の秘宝『エリクサー』――それさえ手に入れれば、借金は一気に返済できる。だが……。
「落ちこぼれ連中なんか連れて、無事に帰れるわけねえだろ!」
「だからこそ、お前に任せるんだよ、カイリ。どんな相手でもうまく運用するのが得意だろ?」
「……そんなのただの噂だろ!」
「噂が真実だろうが、今回はそれを証明する機会だ。お前、断れんのかぁ……?」
ギルドマスターに脅される形で、この「問題児パーティ」のリーダーに就任してしまった俺。
メンバーの顔ぶれを見る限り、借金返済どころか、地獄行きの片道切符にしか思えない。
「全員揃ってるか?」
出発前にギルドホールでメンバーに声をかけるが、誰一人まともに返事をしない。
最初からやる気ゼロかよ。
「……お前ら、ちゃんと仕事できんのか?」
答えは沈黙。誰も目を合わせない。
もう嫌な予感しかしない。
「くそが……行くぞ!」
暗闇に包まれたダンジョンの入口を進む俺たちの前に、ぬるぬると音を立てて現れたスライムの群れ。
だが、それより目立っているのは、先頭に立つ戦士のバルク、ヤツの異様な存在感だった。
「来たか、スライム! 筋肉を見せる時がきた!」
なんだこいつ、さっきまで無言だったのに。
バルクは腰につけた専用ホルスターからプロテインシェーカーを引き抜き、カシャッと蓋を開けると片手で豪快に振り始めた。
シェーカーにはピカピカ光る「GAIN MAX」のロゴ入りだ。
「これが俺のパワーの源、プロテインシェイクだ! スライムも震えるこの音を聞け!」
シャカシャカシャカ……!
洞窟に響くその音は、場違いでしかない。
「お前、戦闘中にプロテイン飲むとか正気か?」
俺がツッコむと、バルクはキメ顔で振り返り、シェイカーを天高く掲げた。
「戦闘は筋肉の祭りだ。準備が整わないと盛り上がらないだろう?」
そう言うと、一気に飲み干して「ウゥゥン!」と雄叫び。
こいつは馬鹿なのか?そうなのか?
ダンジョンの前に準備してこい。脳筋め。
「あれ? ラッキーナンバーって7でしたっけ?」
その隣で、僧侶がスマホをいじりながら呟いた。
お前の第一声それか?なんなんだこいつ。
地味に声が可愛いのが余計に腹立つ。
「リリー! 敵を前にスマホいじるな! ラッキーナンバーなんかどうでもいい!」
「だって、今日は『モンスターラッキーデイ』って書いてあるんですよ。絶対レアアイテム出ます!」
「お前の仕事は回復魔法だろ!」
俺のツッコミも空しく、リリーは笑顔全開。
「今は占いアプリが大事!」
何でこんな奴がパーティにいるんだ。
一方、魔術師は高笑いしながら杖を振り上げていた。
「天才魔術師ジーク様の一撃だ! 地獄の焔よ、全てを滅ぼせ――エクスプロージョン!」
巨大な火球が飛び出した瞬間、俺は嫌な予感しかしなかった。
そして案の定、火球はスライムもろとも、俺まで灼熱延焼。
「熱ぢぢぢっ! ぶぅあかやろー!! 何してんだトロール魔術師!」
「あれれ? ちょっと火力が高すぎましたかねぇ~?」
「ちょっとどころじゃない! 山火事レベルだぞ!」
最後に、遠くから矢を構える盗賊アルトが冷笑しながら一言。
「バカの祭りか? こんなパーティ、死に急ぎにしか見えねえ」
その言葉に俺は思わずイラッとした。
残ったスライムを片付けてくれりゃいいのに、安全圏でほざくひねくれ野郎め。
「お前、まず手を動かせ! その態度で盗賊が務まるか!」
アルトはため息をつきつつ矢を放つが、どう見てもスライム相手にやる気がない。
こいつら戦士、僧侶、魔術師、盗賊――癖の強い連中を率いるのが俺、カイリ。
肩書きは万能の探索者。どんなダンジョンでも切り抜ける自信はある。
だが、この連中で過酷なダンジョン『至宝の迷宮』に挑むのは、無謀にしか思えない。
ダンジョン攻略といえば、危険な罠や凶悪なモンスターでストレスを溜めがちだが――まさか仲間たちがその元凶になるとは思わなかった。
これがストレスダンジョンってやつかよ!
内心で毒づきながら、問題児たちを引き連れて次なる地獄への扉を開く。
早くも胃が限界だが、借金返済のためにはやるしかない。
さあ、俺たちの運命やいかに――。
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