妖幻ファイターゲンジⅢ 愉怪な6人+α

上田 走真(旧・通りすがり)

スピンオフ・田村響希①

かんちゃん編

①自慢の姉~姉とふく君

 3月に優麗高を卒業した田村環奈には、3歳年下の妹がいる。

 これは、環奈の妹・田村響希と、響希の自慢の姉・環奈の物語。


-響希・小3秋-


 ランドセルを背負った姉と妹。小学校6年生の田村環奈と、小学校3年生の田村響希が並んで朝の集合場所に行って、町内に住む学友達と列になって登校をする。 姉の環奈が先頭を歩く班長さんで、姉と同じ6年生の佐山一郎君が、最後尾を歩く副班長。列の真ん中くらいを歩く響希は、男子を差し置いて、姉が班長さんをしているのが誇らしかった。

 5分くらい歩いて、別の町内を通過していくと、他の登校班が何組か歩いてる。道路の反対側に、響希と同じクラスの水島清華(さやか)ちゃんの班が歩いていたので、手だけ振って挨拶をする。一郎君は、副班長のクセに列から離れて、別の登校班長の室井敦史君と話ながら歩いている。信号待ちで止まったところで、班長の環奈が振り返った。


「一郎くん、真面目にやってよっ!」

「えっ?あぁ、これは、登校班よりも、重要な打合せを・・・」

「まったくもうっ!嘘ばっかり言わないでよっ!先生に言いつけるよっ!」

「や~い、や~い!タムラちゃんが、また怒ったぞ~!この凶暴女っ!!」


 環奈が注意をして、一郎君が言い訳をして、敦史君が茶化す。週に1~2回は、こんな光景がある。班長さんが、一郎君ではなく環奈になったのは、「一郎君が不真面目で、班長の責任を果たせない」と周りの親たちに判断されたからだ。響希は、いい加減な一郎君も、姉の悪口を言う敦史君も、あんまり好きではない。


「尚実ちゃん、おはようっ!」

「環ちゃん、おはようっ!」


 尚実ちゃんの町内は花穂寺(はなほじ)小学校から近いので、だいたい、いつも、響希の班が通過をするくらいの時間に集合をしている。尚実ちゃんは、よく家に遊びに来るくらい姉と仲良しなのに、挨拶の後は「また後でね」「うん」と会話をするくらいで、一郎君みたいに登校班を乱して会話をしたりはしない。


「敦史君、一郎君、2列登校ダメなんだよっ!」

「いや、これは、ルールを違えてでも必要な打合せの最中でしてね。」

「うっせぇっ、尚実!ぶ~すっ!ぶ~すっ!ぶ~すっ!」

「はぁっ?ふざけんな!」

「うはははっ!尚実が、ホントのこと言われて怒ったぞっ!」


 響希の班の副班長と別の班の班長が並んで歩いている所為で、歩道の空いてるスペースが狭い。尚実ちゃんが、一郎君と敦史君を注意する。また、一郎君が言い訳をして、敦史君が悪口を言い、尚実ちゃんが怒る。尚実ちゃんは可愛いのに、何で敦史君は「ぶす」って言うんだろう?ちょっとムカ付く。

 学校に到着して、登校班が解散になったところで、響希が姉に、「何で、あの2人は、変なことばかり言うの?」と問う。環奈は妹に「あ~ゆ~奴等だから、放っておけば良い」と大して気にしていない様子だった。


 響希にとって、環奈は自慢の姉だ。人気者で、いつも周りに友達が集まって、放送委員長をやっている。学校のマラソン大会は、1~2年、3~4年、5~6年が、男女別で同じコースを走るんだけど、環奈は今年だけでなく、一昨年と去年も1位になっている。5年生の時に一学年上の先輩を差し置いて1番なんだから大したモノだ。凄いのはマラソン(長距離)だけじゃなくて、運動会のリレー(短距離)でも、クラスから選抜をされている。

 ちなみに、響希の今年のマラソン大会の成績は、3年生の中で真ん中くらいだった。お父さんと、お母さんからは、「もう少し頑張りなさい」と言われちゃった。もちろん、来年は頑張るつもりだ。4年生に成れば、小学校を卒業をする姉と入れ替わりで、現在、姉が所属をしている市内の陸上クラブに入ることができる。いっぱい練習して、姉みたいに活躍したいと思っている。




-響希・小4夏-


 4年生になって陸上クラブには入ったけど、走ってばっかりで疲れるので、あんまり真面目には取り組んでいない。コーチが、頻繁に「環奈は真面目だった」「遅刻はしなかった」「率先して行動した」と比べるのが嫌だ。自分は姉とは違う。自慢の姉と同じに扱われても困る。コーチ、ウザいから辞めてくれないかな?今年は体を慣らす程度にして、来年になったら真面目に走ろうと思う。


 中学に上がった環奈は、陸上部に入部して長距離ブロックに所属をしている。陸上部には、小学校の運動会でリレーに選抜された同学年は何人もいて、環奈より足の速い人もいるが、「5年生のうちから6年生を押し退けて、マラソン大会で1番に成ったのは環奈しかいない」って理由で長距離を志望した。あまり速い先輩が居なかったので、1年生の夏前には、環奈が部内女子で1番速い長距離ランナーになっていた。6月の地区大会で1500m走に出場して、全部で100人くらい走った(全7レースくらい)中で30位。惜しくも決勝レースには進出できなかった(進出できるのは上位15名)が、1年生でこれくらいの成績を収められたのなら、来年は決勝進出が期待できそうだ。


 数日後、いつも雄弁な環奈だが、その日の夕食時は、父親の通が残業で居なかった所為か、いつも以上に良く喋った。話題の内容は、「ふく君」のこと。学業優秀、スポーツ万能、人気者で、イケメン。同じクラスに、そんな男子がいるらしい。姉は、敦史君や一郎君の文句を話題にする事はあったが、男子を褒めるなんて珍しい。


「へぇ~・・・かんちゃん、ふく君の事が好きなの?」

「えっ?えっ?・・・違う違う、そんなんじゃないよ!

 ただ、凄いなーって思っただけ。好きとか、そういうのじゃないってばっ!」

「へぇ~」 「ふぅ~ん」


 響希と、母親が、互いの眼を見て、ニヤニヤと笑う。

 妹から見ても、贔屓目無しで可愛くて、友達が多くて人気者。スポーツ&勉強は、トップとは言えないけど、それなりにできる姉。それなのに、寄って来る男子は、一郎君や敦史君などロクな奴がいない。尚実ちゃんからは、「環ちゃん、入学直後に3年生のコクられたけど、『恋愛には興味が無い』と断った」と教えてもらった。その後も、何人かにコクられてるらしい。男子に全く興味を示さなかった環奈が初恋をした?まだ思春期前の響希だったが、何となく解った。


(ふく君てどんなヤツだろう?)


 姉の初恋の相手に興味を持ったあとの、響希の行動は早かった。翌日の放課後になると、友達の水島清華ちゃんを連れて、「寄り道をしてはいけません」の決まり事を無視して、夕方の陸上クラブもサボり、鎮守の森公園を抜けて、姉が通っている東中学校に向かう。


「ひびきちゃん、怒られちゃうよっ!」

「かんちゃんに見付からなければ、大丈夫!」


 到着したら、ちょうど、生徒玄関から生徒達が出てくるところだった。姉の所属する陸上部は、陸上競技場で活動をするはず。つまり、放課後になれば、直ぐに生徒玄関から出てくるだろう。響希は、姉に見付からないように隠れながら知人を探す。


「いた!」


 近所に住んでいる一郎君だ。相変わらず、敦史君と一緒に居る。響希は半身を乗り出して、一郎君を手招きして呼び寄せた。一郎君は、わざとらしく5度見くらいしてから、敦史君と並んで寄って来る。学生服を着ているからチョット大人っぽく見えたけど、中身は相変わらず変なヤツだ。


「あれぇ?ひびきか?どうしたの?」

「おやおや?タムラちゃんの妹だよねぇ?」

「小学生は、寄り道をしちゃダメなんだぞ~。」

「タムラちゃんに用事?タムラちゃんは、委員会活動があるから、まだ来ないよ。」

「違う違う!かんちゃんには用事はないの!

 ちょっと、噂で聞いたんだけどさぁ~。ふく君て、どの人?」

「ん?なんで?」

「かんちゃんが‘ふく君’て人のことを話していたから、

 どんな人だろうって思って。」

「ふくちゃんの事か?

 確かに最近、タムラちゃんに頻繁に話しかけて、アピってるな。」

「ふくちゃんなら、俺等のダチだよ。一緒に帰るから待ち合わせてるところ。」

「あっ!来た来た!お~い、ふくちゃ~~~ん!!

 この子が、ふくちゃんに会いたいんだってさ~~!」


 灯台もと暗し。学業優秀でスポーツ万能で人気者のイケメンが、ザコキャラ1号2号(響希命名)と友達だとは思わなかった。響希は、興味津々に‘ふく君’を目で追う。

 そして・・・


「がび~~~~~~~~~~~~~~んっっっ!!!!」


 白目を剥いて、あんぐりと口を開けた変顔で固まる響希。立ったままKOされる。


「どうしたんだ?」

「この子、タムラちゃんの妹。

 何か知んないけど、ふくちゃんに会いに来たんだってさ。」

「あっ!そうなの?どうも、福島雄太っす!

 タムラちゃんに、よろしく言っといてね。」


 見た目だけで、人を判断してはいけない。彼は、学業優秀かもしれない。スポーツ万能かもしれない。人気者かもしれない。だけど、確実にイケメンではない!一郎君と同じ種類の老け顔の中学生だ!


「僕、今度、一郎君達と一緒に自作映画を撮ろうと思っているんだけどさ、

 キミ(響希)、出演しない?タムラちゃんにも出演するように頼んでおいてよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「キミ(清華)は、僕が構想している物語のヒロインのイメージにピッタリだね。」

「わ、私は、そ~ゆ~のはあんまり・・・ねぇ、ひびきちゃん。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ふくちゃんが、色々と話しかけてきたらしいけど、響希は脳内が真っ白になっていて、全く覚えていない。

 気が付いたら、鎮守の森公園のベンチに座っていて、会話の内容は清華ちゃんから教えてもらった。


「あの人、話し方とか、私達を見る感じが、チョット気持ち悪いよね?

 私、すっごく嫌がっていたのに、佐山君と室井君、ニヤニヤしてるだけで、

 全然助けてくれなかった。」


 姉が眼をキラキラと輝かせながら語った相手なんだから、「とても格好良いんだろう」と会うのを楽しみにしていたのに期待ハズレだった。清華ちゃんが、「あの人、気持ち悪い」と何度も軽蔑するので、響希は「姉は男子を見る目が無いのではないか?」と、だんだん心配になってきた。


「かんちゃんが、あんなのと付き合うの絶対イヤだ!私が友達に笑われちゃう!

 かんちゃん、何を考えてんの!?騙されてるの!?」


 姉の初恋の相手(?)に敵意を持ったあとの、響希の行動は早かった。

 夕方、環奈が部活動を終えて帰宅をするなり、響希は部屋の扉を閉めて2人きりになり、姉を睨み付けた。


「ふく君は絶対にダメ!やめた方がイイ!私、反対っ!!」

「はぁ?何のことよ?」

「今日、かんちゃんの学校に行って、ふく君に会ってきた!」

「・・・えっ?」

「性格悪そうだし、イケてないし、

 清華ちゃんのこと、変な目で見てた(清華談)し、絶対にヤダっ!」

「えっ!?ふく(冨久)君に会ったの!?」

「うんっ!

 かんちゃんがキラキラしながら話していたから、ふく(福島)君に会ってきた!

 かんちゃんのこと話したら、嫌いって言ってたよ!

 好きな人がいるって言ってたよ!だから、諦めちゃえ!」


 会ったのはホント(人違いだけど)。でも、会話の内容は嘘。響希は会った直後に気絶をしたので、上記のような会話は一切していない。大好きな姉の為にした行動と、自慢の姉の為に付いた嘘だった。だけど、その行動と嘘が「やってはいけない行為」と、まだ幼い響希は知らなかった。


「バカァァァァッッッッッッッッッッ!!!出てけぇぇっっっ!!!

 顔も見たくないっっっ!!!!」

「ちょっ・・・かんちゃん!」


 姉妹の相部屋なのに、問答無用で追い出されて、中からカギを閉められてしまった。響希は、しばらくは、開けろと扉を叩いて催促をしたが、環奈は一切取り合わずに無視を続けた。中に籠もった環奈が泣いていたことを、響希は知らない。

 その後、母親の仲裁で籠城は解かれたが、環奈は響希とは一切目を合わそうとはせず、一言も口を利かず、夕食は「食欲が無い」と言って食べなかった。

 響希は「嘘をついたのはマズかったかな?」と思ったけど、姉の為にやったことなので、訂正をする気も謝る気も無かった。むしろ、「なんで、かんちゃんは解ってくれない」腹が立った。


 これが、この先6年以上も続く‘環奈の初恋’の、最初の失恋になった。環奈は、冨久海跳と仲良くなりたかったが、「嫌われている」と誤情報を与えられ、憧れ続けながら、しばらくは距離を空けることになる。


「へっくしょん」×2


 その日、冨久海跳と福島雄太が、各自宅で同時にクシャミをしたとか何とか・・・。

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