覚醒

しばらく、焚き火を眺める時間があって三人は物思いに耽った。


落ち着いたオリオンが再び口を開いた。


「イエスタデイさん。そういえば魔法を使って火事の火を消していたよね。あれって俺にもできるかな」


「あれは御呪いだ。御呪いは誰でも使えるよ。ただし、精霊からの人望がないと雨を降らす程の御呪いは難しいね」


「たしか、この村にも古くから伝わる御呪いがあったな」


「御呪いはその土地に住む精霊に助けを求める言葉だから、オリオン君がこの村にある自然に対してどう向き合って来たかが大切だよ。もしそれが精霊を引きつけるものならば、御呪いは大きな効力を持つだろうね」






        ◇◇◇






翌日、オリオンと祖父、イエスタデイはアフノスの森にある丘に来ていた。


オリオンがアカラスと修行をしていた場所。


その丘の村をよく見渡せる場所にアカラスとサキのお墓を建てた。


ここから村を見守っていて欲しい。そんな思いが込められていた。


オリオンは墓の前に花を置いて、祈りを捧げた。


いつまでも墓の前から動かないオリオンに祖父は声をかける。


「さあ、行こう」


そう言って祖父は踵を返して森の中へ向かうがイエスタデイまでもそこを動こうとしていないことに気がついた。


不可解に思い、祖父は再び声をかける。


「・・・オリオン」








祖父はイエスタデイの様子も伺った。


祖父はイエスタデイの表情に困惑した。


イエスタデイは目を見開いてオリオンを凝視していた。


祖父は異常を察知し「どうしたんです!? 大賢者様!?」と問うた。


イエスタデイは祖父からの問いに答えなかった。


それは無視をしたわけではない。


ただ、今、オリオンから意識を逸らしてはいけないと考えていたのだ。


何も起きなければいいが、何かが起きるかもしれない。


その不安を取り除くことができない状況だった。








オリオンの体から『引力』が溢れでていた。








(凄まじい。これが因果か)


イエスタデイは意を決して、オリオンに近づいてオリオンの肩に手を置いた。


「オリオン君・・・行こう」


おぞましい後ろ姿の少年。


オリオンは振り返った。


その表情は、両親を亡くした一人の少年のものだった。


イエスタデイは少年を抱きしめた。


イエスタデイは言う。


「森の奥に」








三人は森の中を奥へ向かって歩いた。


「昨日森を散策していた時にこんなものを見つけました」


イエスタデイが案内する先には、開けた場所があった。


そこの地面に大きな深い穴があった。


深いと言っても覗けば底は見えた。


「これはなんですか?」


「見ての通り深い穴です」


「こんなもの誰が掘ったんだ?」


「わかりません。ただこれは私の推測ですが、アカラスさんがオリオン君に見せたかったものはこれかもしれません」






         ◇◇◇






昨晩、オリオンは祖父とイエスタデイにアカラスが言っていたことを打ち明けていた。


「父さんが俺に見せたいものがあるって言っていたんだ」


「どんなものだ?」


オリオンは首を振る。


「ううん。わからない。どこにあるのかも。ただ、森の奥にあるとしか」






         ◇◇◇






祖父は不思議そうに穴を眺める。


「なぜこんな穴を?」


「それはこれがオリオン君に魔法使いとしての才能があるという証拠になりうるからでしょう」


「この穴が?」


「まさかオリオンがこの穴を?」


「私の推測ですが」


「オリオン。いつこんな穴を掘ったんだ?」


「そんなの知らないよ。今初めて俺も見たんだから」


「おそらく魔法を使ったのでしょう」


「俺が? 魔法で?」


「その真偽は定かではないですが、一つ言えることがあります」


「なんでしょう」


「オリオン君。君には魔法使いとしての才能がある」


「・・・信じられないよ。俺一回も魔法使えたことないのに」


「人は誰でも覚醒の時がある。君は昨日それを身をもって感じたはずです」


「覚醒・・・」


オリオンは昨日の自分の身に起きた異変を思い出した。強烈な腹痛。


「あれが・・・?」


イエスタデイは祖父に離れるように言う。


「オリオン君。私に両手を伸ばしなさい」


両手を伸ばす。それは幾度も行ってきた行為。


オリオンはイエスタデイの真意を理解した。


(・・・大賢者に向かって魔法を使えと言うのか)


確かに大賢者レベルであれば初心者のオリオンが魔法を使っても安心かもしれない。










オリオンはイエスタデイに向かって両手を出した。


イエスタデイはオリオンから十メートル離れた位置に立った。


「さぁ、私をオリオン君のもとへ引っ張ってみなさい」


オリオンは体に力を入れてイエスタデイを引っ張ろうとした。


その時とんでもなく強大な力がオリオンの体に溢れだし、突き出した両手を起点に体中を走り出した。


「こ、これは!!」


オリオンは正面に目を向けた。木が頭をこっちへ向けている。砂や石がオリオンのもとへ集まってきていた。


しかし、唯一この「引っ張る力」に影響を受けていない者がいた。イエスタデイだ。


(凄い。これだけのパワーに引っ張られていてもびくともしないなんて)


祖父の叫ぶ声が聞こえる。


「オリオン!!!!」


オリオンは視線を木々に戻すと引っこ抜けた木がこちらへ向かっていた。


それも一本だけではなく、何本も。


自分のもとへ来るように引っ張っているのだ、木は全てオリオンのもとへ集まってくる。


思わず祖父は叫ぶ。


「止めるんだ!!!!」


しかし、オリオンは止め方を知らないどころか力の制御ができない。


するとイエスタデイが指をパチッと鳴らした。


それと同時にオリオンの引力は止み、その場に落ちた木々は巻き戻すように元の場所へ戻っていく。


砂や石ころまで引っ張られる前の状態になっている。


「イエスタデイさん・・・俺」


「ああ、使えたね。魔法」


「これが魔法・・・」


祖父がオリオンに駆け寄り、安否を確認する。


オリオンを労うイエスタデイだか表情に厳しいものがあった。


「しかし、オリオン君。君の引力は強大すぎる。この力は、制御されなければならない。さもなくば、さっきみたいに被害がでる」


「たしかに・・・」


「いいかい。制御できるようになるまで人のいるところで使ってはいけないよ」


「はい・・・」

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