【ヤキモチ編】
普段、ヤキモチ妬きのあたしをからかってくる社長は、
あたしが他の男の人と楽しく会話をしていても平然とした顔をしている。
社長曰く、「俺はヤキモチとか妬かない人だから」らしい。
それでも、彼女のあたしとしては少しは妬いてほしいんだよ、なんて。
そんなことは言わないけれど、今日はちょっと意地悪を仕掛けてみる。
「佐竹さんて、彼女とかいるんですか?」
「いえ、実はもう2年もいないんですよ~」
「え、佐竹さんモテそうなのに!」
あたしがいつもの部署でそう会話をしているのは、毎週月曜日と木曜日にこの会社に訪問してくる取引先のイケメン男性社員。
年齢はどうやら社長と同じ24歳らしく、彼はもちろん社長ではないし普通の平社員だけど、いつも素直に頑張る姿がかわいらしい、と同じ部署の女性社員たちにとってもモテている。
普段のあたしだったらこんな雑談はしないけれど、今日はたまたまこの部署に社長が別件で来ているのもあって、ちょっと遊んでみた。
だって本当に、たまには妬いてほしくて。
「え、石田さんはいらっしゃるんですか?そういう特別な人」
「いるんですけど、実は普段から困った男で」
「え、困ったって…浮気性とかですか?」
「うーん、浮気というか…」
そしてあたしは佐竹さんからのそんな問いかけに、チラリと社長がいる方を向く。
…社長はそんなあたしの様子に気づいているのかいないのか、今度会長が会社にやって来た時の為に漫画の隠し場所を部下たちに探して貰っている。
「だめ!ここじゃ見つかるよ、もっといい場所ないの?」
「いやぁ、そんなことを急に言われましても…」
「っ、じゃあ課長のデスクの引き出しの中に隠させてよ!」
「そ、それは困ります!」
「…」
あたしはそんな社長から佐竹さんの方に視線を戻すと、声のトーンを少し落として言った。
「…仕事をよくサボるというか、いや、そもそも仕事をしないというか」
「え、そんな男と付き合ってんですか!?」
「うん。悪い人ではないんだけどねぇ」
「…、」
あたしはそう言うと、手元のお茶を口に含む。
「佐竹さんも遠慮なくどうぞ」なんて言って。
…社長には少しでも妬いてほしいけど、今はたくさんの漫画を隠すのに一生懸命みたいでこっちには意識は全く向いていないみたいだ。
あたしがそう思いつつ、話題を佐竹さんの好きな女性のタイプに移そうとしたら、お茶を飲んでいた佐竹さんがその前に口を開いた。
「…あの、石田さんはそんな男の何が良くて付き合ったんですか?」
「…」
不思議そうにそう問いかけると、あたしの顔を覗き込む。
その瞬間に少し近づいたお互いの顔。
あたしはそんな佐竹さんからさりげなく目を逸らすと、佐竹さんの問いに答える。
「な…なんでだろうね?まぁ、仕事はしないけどプライベートは意外とマメだし、一応優しくはあるんだよ。そう言うところが、まぁ…好きっていうか」
「うーん、でも将来性なくないですか?仕事しないなんて」
「確かに、そこが欠点なんだよね~」
あたしはそう言うと、不意に佐竹くんに出したコップのお茶がもう無くなっていることに気が付く。
「お茶のおかわり持ってきますね」とそのコップを手に取ると、また佐竹くんが口を開いて言った。
「っ…俺、自分で言うのも何ですけど、結構真面目ですよ!」
「…え?」
「彼女にはそんな不安な思いさせないし、与えられた仕事はきっちりこなします!あの、だからっ…!」
「…佐竹さん…?」
佐竹さんは何故か必死な様子であたしにそう言いながら、お茶を持ってこようとするあたしを引き留める。
…何だかいつもの佐竹さんと違う。
そう思っていたら、
「俺と、一緒になり」
「ねぇちょっと佐竹くんさー」
「!?」
佐竹さんが真っ赤な顔をして何かを言いかけたその瞬間、この空気に割り込んで入るように社長が佐竹さんに話しかけてきた。
漫画の隠し場所を探すのに必死だったはずの社長がいきなり話しかけてくるから、あたしも佐竹さんもビックリしていると、その間に社長が言葉を続ける。
「次もまた来るでしょ?それまでしばらくの間この漫画預かっててくんない?」
「えっ、ま、漫画ですか!?なんでまた、」
「お願い!この存在が見つかったら俺マジでぶっ×されるから、今日は何も聞かずにこのままコレ全部持って帰って。ね?」
社長はそう言うと、半ば強引に30冊はあるであろう漫画を佐竹さんに押し付ける。
…何だ。珍しく割って入ってきたと思ったらまだそんなこと言ってたのか。
佐竹さんがあたしに何を言おうとしていたのか、結局あまりよくわからないままそのうちに社長が佐竹さんを「じゃーねー」と見送る。
いや、じゃーねーじゃないよ。友達じゃないんだから。
「漫画、大事に預かっててねー」
そしてその後無事に佐竹さんを見送ったあと、社長が何を思ったのかあたしの方を振り向く。
「…?」
慌ただしい部署の隅っこ。
社長が珍しく真剣な顔をするから、何か言われるのかと思っていたら…
「…!」
その時いきなり社長がぐっとあたしに顔を近づけてきて、キスの手前でピタッと止めた。
「っ、ちょっと何するんですか!」
2人きりの時ならまだしも、仕事中に!この場所で顔を近づけてくるなんて!
しかしあたしの言葉を聞いた社長が、去り際に声のトーンを落としてあたしに言った。
「…だってさっき何かこうやってたでしょ?」
「!!」
そう言うと、あたしになかなか強めなデコピンをしてその場を後にした…。
【ヤンキー社長の求愛/ヤキモチ編】
「っ、痛ぁ!?」
「後で社長室で待ってるよ、りー子」
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