第0.5話

 男が奴隷となって1ヶ月半が、祖国が滅び名前を変え――男は奴隷商人に自分が祖国の出身であれば、また元貴族だと買い手にバレれば祖国と交流があったと痛くない腹を探られる・・・・・・・・・・だろうと奴隷商人を脅し・・、名前と出生地を偽った――、自分が異世界転生者だと知って1ヶ月が経とうとしていた。男は領地は小さいが鉱山が多く、その発掘で結構な利益を得ている子爵位のご主人様の元――実質的には貴族の奴隷だが、奴隷を使役していること大っぴらにすると彼の領地を羨む他の貴族より難癖をつけられる・・・・・・・・ので書類上では彼に仕える騎士の奴隷――、セコセコ働いていた。男はもちろん貴族として今までの人生を過ごしてきたため、しっかりとした栄養を摂取してきた、そのため同年代の少年と比べ、がっしりとした体つきをしていて、だが体の大きさ自体は少年のもので狭い坑道での作業に向いていたのだ。また、まるで貴族のような・・・・・・・・・金髪碧眼、特に碧眼、青い瞳と言うのは夜目が利く、それもまた坑道での作業に適していたのだろう、そのような理由で男は奴隷として買われた。男は他の奴隷――奴隷の人種の割合は約4割が我々の世界で言う白色人種、またその中でもラテン系と言われるのか肌が男よりも健康的な小麦色であったり、そして我々の世界と違うのは奴隷は血が混ざりやすい・・・・・・・・ので形質遺伝では顕性である黒髪の者も多かった、次の2割は我々の世界で言うアフリカ系、2割にアジア系と中東系、ラテンアメリカ系、残りの2割はエルフやドワーフ、男のような金髪碧眼のゲルマン系、ノルマン系、他の人種、亜人が含まれる――から新人イビリ・・・・・をされていたのだ。優しい・・・先輩方は場所の特性上ドワーフが10人、アフリカ系が5人、ラテン系の白人が4人で、イビリ・・・が酷くなるのも当然なのかも知れない、実際男の身体が痣だらけになり、先輩方の性欲を処理する愛玩動物となるのに時間はかからなかった。だが酷い新人イビリの一番の原因であり、一方で男が新人イビリに屈しなかった原因であったのは、書類上の主人たる騎士デュースだった。男は騎士デュースに好かれていたのだ。というのも騎士は我々の世界で言う所の白人至上主義――もっと言えば“金髪碧眼の”――とでもいうような性格であり、騎士デュース自身中々に美麗なブロンドを持つ人間であった。男は奴隷として買われた1週間後に“騎士デュースが見ている場”で出された食事を本物の貴族の子供のような・・・・・・・・・、行儀が良く、見る者に気を引き締めさせるような食べ方を“見せた”、それを見た騎士デュースから「何故そのような食べ方が奴隷のお前にできるのか」と聞かれ、自分の出自を祖国の高級娼婦と男が今いる王国――A王国――の高名な貴族との間に生まれた子供であり、母からマナーや礼儀作法を学んだと淀みなく答えた。当然、騎士デュースはお前の生まれの父であるその高名な貴族とやらは誰だと聞いた。男はこう答えた。「あまりにも高名であるため、騎士様に言えばその身や地位が危うくなるやもしれません、ですがもし、あなたが“騎士”でなくなったら教えても問題ないかも知れません」。これは暗に騎士デュースが上昇志向が強く、貴族に成り上がりたいという野望があることを私は知っています、といったも同然であった。また、騎士デュースが仕える子爵位の貴族は元々この地に根ざしていたドワーフ王国の王女とA王国の金持ち貴族との間に生まれた子の子孫であり、純粋な白人ではなく、彼に仕える事に嫌気がさしている事を男は感じ取ったのだ。男はその後、一週間に2、3回騎士の家に訪れることを命令され、帰った後に優しい先輩方から“教育”を受ける、この生活が3ヶ月程続いた。そんなある夜、騎士の家にて男と騎士デュースが彼らの主たる子爵の話をしていた。そこで男はこう言った、「では私の真の主・・・たる貴族様はドワーフの子孫ということですか?」

 騎士は「そうなのだ、だからあの気持ちの悪いヒゲを剃らず、体型も醜い」と主に対しての罵倒を悪びれもなく言った。男はこう言った。「いえ、そうでなく、ここで働く奴隷の半数がドワーフです。彼らに対して褒美を取らせたら、我らの主は機嫌を良くするのではないでしょうか」建前はどうするのか騎士が問うと、男は「やはりドワーフは鉱山での作業に慣れていますし、一番仕事をして、かつ効率も一番良いのはドワーフです。その事を主に印象付け、主の民族愛を煽るのです」と言った。続いて騎士はこう尋ねた、「褒美の内容はどうする」男は質問に対して質問で返す。「ドワーフが何を好むのか、騎士様は知っておいででしょうか」騎士が答える間もなく――騎士もこれが答えを聞くための質問ではない事は分かっていたため咎めなかった――男は答えた。“酒”であると。騎士は驚いていた。主が大酒家であることは知っていたがドワーフという種全体で酒が好きである事は知らなかったのだ――これは彼が民族主義者であり、他の人種に対しての興味が全く無かったことが伺える――。騎士は最後に尋ねた、「このようなことをしてお前に何の得がある、お前に褒美を取らそうぞ」と。一見この言葉は先の一文と後の一文とに整合性が取れず、意味が分からないかもしれないが、これもまた“尋ねた”と言うより最後の一文が大事なのであり、この話に男に得がある、またはこの話を条件に何か頼み事があるのだろうというのは確定していた。質問の体を被った確信だったのだ。

 男は言った。「ではありがたく。この話を考えたのは私だとドワーフたちに知らせてください」

 一週間後、思いも寄らない事が起きた。鉱山で働くドワーフ宛に酒、我々の世界でいう所のビールが届いたのだ。一人に対してビールジョッキ3杯分のビールが10個、2杯分のビールが1つあった。男とドワーフを除く他の奴隷は数を間違えたのだろうと思っていた。一人のドワーフが男にビールジョッキを2つ渡した。だが男はこう言った。

 私は下戸なので飲めない、そう言って男はその2杯をアフリカ系奴隷のリーダーとラテン系白人奴隷のリーダーに渡したのだ。……その日から男が他の奴隷から不当な扱いを受けることは無くなった。

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