第0.5話
男が奴隷となって1ヶ月半が、祖国が滅び名前を変え――男は奴隷商人に自分が祖国の出身であれば、また元貴族だと買い手にバレれば祖国と交流があったと
騎士は「そうなのだ、だからあの気持ちの悪いヒゲを剃らず、体型も醜い」と主に対しての罵倒を悪びれもなく言った。男はこう言った。「いえ、そうでなく、ここで働く奴隷の半数がドワーフです。彼らに対して褒美を取らせたら、我らの主は機嫌を良くするのではないでしょうか」建前はどうするのか騎士が問うと、男は「やはりドワーフは鉱山での作業に慣れていますし、一番仕事をして、かつ効率も一番良いのはドワーフです。その事を主に印象付け、主の民族愛を煽るのです」と言った。続いて騎士はこう尋ねた、「褒美の内容はどうする」男は質問に対して質問で返す。「ドワーフが何を好むのか、騎士様は知っておいででしょうか」騎士が答える間もなく――騎士もこれが答えを聞くための質問ではない事は分かっていたため咎めなかった――男は答えた。“酒”であると。騎士は驚いていた。主が大酒家であることは知っていたがドワーフという種全体で酒が好きである事は知らなかったのだ――これは彼が民族主義者であり、他の人種に対しての興味が全く無かったことが伺える――。騎士は最後に尋ねた、「このようなことをしてお前に何の得がある、お前に褒美を取らそうぞ」と。一見この言葉は先の一文と後の一文とに整合性が取れず、意味が分からないかもしれないが、これもまた“尋ねた”と言うより最後の一文が大事なのであり、この話に男に得がある、またはこの話を条件に何か頼み事があるのだろうというのは確定していた。質問の体を被った確信だったのだ。
男は言った。「ではありがたく。この話を考えたのは私だとドワーフたちに知らせてください」
一週間後、思いも寄らない事が起きた。鉱山で働くドワーフ宛に酒、我々の世界でいう所のビールが届いたのだ。一人に対してビールジョッキ3杯分のビールが10個、2杯分のビールが1つあった。男とドワーフを除く他の奴隷は数を間違えたのだろうと思っていた。一人のドワーフが男にビールジョッキを2つ渡した。だが男はこう言った。
私は下戸なので飲めない、そう言って男はその2杯をアフリカ系奴隷のリーダーとラテン系白人奴隷のリーダーに渡したのだ。……その日から男が他の奴隷から不当な扱いを受けることは無くなった。
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