今←昔

洪貫音 コウ カンネ

第1話 帰郷

なっっがい。


車窓にもたれかかり、真緑の景色をぼぅっと眺める。

こんな田舎には出来れば帰りたくなかった。


僕は僕じゃない。あいつらには口が裂けても言うものか。どうでもいいから手土産は自分の家を出入りしていた女に買って来させた。

女といっても恋愛感情は無い。家賃代を浮かせるために大学で知り合った女と合理的に契約を交わしただけだ。お互いに会話を交わすことはない。家ですれ違ったとしても無視をする。


会社では一部の人間にだけに彼女と同居している、とホラを吹いているが、これはもし同じ部屋に入っていくのを見られた際に問い詰められないようにするための保険だ。そして無駄な女性の話に乗らなくて良くなる。このような嘘をつくことで僕は手の届かない、そして恋愛に至るには及ばない高嶺の花の存在であることを演出することができるのだ。


貴重な僕の有給がこんな田舎に吸収されるのが気に食わなかった。




母親が死んだらしい。妹から連絡があった。





兄さん、もうこれで二人とも死んだんだからさ、時効だよ。いい加減に不貞腐れるのはやめようよ。





あの女は常に勝手なことを言う。お前は家族や村の中で良い思いをしてきただろうが。他人の気持ちを汲み取れない怪物になりやがって。


僕の味方はいつも祖父だけだった。

つい最近は今年が13回忌だからなのか夢に出ることが多くなっていた。

この用事はさっさと済ませて、久々に祖父の墓に行こうかと僕は電車に揺られながら考えていた。

スマホを見る。


うん、この電車はワンマン各駅だからあと6駅か。

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