第23話 岡田の協力
部屋の中は山下の一言で静まり返った。
家路が静寂な空気の中、口を開いた。
少し前に君は、「史郎は俺達の事は無意識に知らないことにしている」と言ったね。
ああ。
そこで気になったのは、「俺達」という言葉なんだ。君は別人格を「俺達」と複数形を使っているんだよ。どうにも引っ掛かってね。もしかしたら君も史郎と同じように、別人格を知っていても無意識に知らないことにしている、ということはないかな?
...ないとは言えない。分かりやすく言えば俺は史郎の陰みたいな存在だ。その史郎が居ないのに俺が居るということは、史郎の陰という根本的な部分から考えなきゃならない。つまり、俺は史郎の陰ではない。そして、史郎もまた誰かの別人格なんだ。
それはつまり、今俺達がここの場所で出会った2人は多重人格者の中に居る別人格2人ということか?
山下もだいぶ理解が追い付いて来たようだなと家路は胸を撫で下ろした。さっきのように宥めるのは一苦労だ。出来ればしたくない。
そういうことになるな。
岡田。君は別人格を呼び出せるか?史郎とはどうやって切り替えしてたんだ?
寝る、起きる、ただそれだけさ。言っただろ?夢遊病の症状時の人格が俺なんだよ。そして、基本的に俺は史郎と同じさ。別人格は呼べない。
...そうか。ではせめて、別人格に関して本当に覚えはないか?史郎以外の声を聞いた時は本当にないか?
ない。それだけははっきりしている。史郎以外の声を聞いた覚えはない...ただ...
ただ?なんだ!?
ただ、これはどう出るか分からんが、例えば俺が一時的に居なくなれば、別人格が現れるんじゃないか?史郎と俺が居なくなれば、次に現れる奴が何か知っているかもしれない。
なんだ?いきなり協力的になったな。その方が俺達にとっては助かるが。しかし、ややこしい身体だなお前達。
山下はイライラが言葉に現れる。悪い癖だ。
...俺が、史郎が、殺人を行ったなんて聞かされたら嫌でもそうなるだろ。俺はやってないとはいえ、同じ肉体の住人が起こした問題だ。法で裁かれるのはこの肉体。この肉体がもし刑務所送りにでもされたら、毎日のように不味い飯を食べることになるだろう。それは我慢できん。
飯の為かよ
この身体の為だ
まぁ何れにしろ岡田が協力的になってくれたのは嬉しい事だ。な、山下。
タバコを吸いに行く山下の背に言葉を掛け、家路は岡田と向き合う。
早速だが岡田。岡田という人格を引っ込めることは可能か?今すぐに。
それは無理な問題だ。自由自在に操れたらそもそも殺人などしない。
すまん。愚問だったよ。
では、史郎と入れ替わる時のように、お前が寝れば別人格が現れると思うか?
保証は出来ないが、恐らくな。
今からお前をここに残す。ここでは眠れないのなら仮眠室でも用意しよう。見張りはつけるが、お前を一度眠らせる。どうだ?やってくれるか?
見返りはあるのか?
善処しよう。
...約束ではないのか...まぁ、あの山下とか言う奴よりはあんたの方が信用できそうだ。ただ、見張りはつけて欲しくない。誰かに見られてると思うと寝付けなくてな。定点カメラかなんかで代用できないのか?
部屋に鍵は閉めるぞ。
ああ。それなら問題ない。逆にゆっくり寝れそうだ。
よし。では、定点カメラを用意する。その上で仮眠室に移動しお前を定点カメラで監視する。いいか?
断ってもあんたなら次の手を考えている気がする。どうせやらせるんだろ?さっさとやってしまおう。
じゃあ、山下にも話をしてこよう。少しの間待っていろ。色々と準備をしてくる。
その間に寝ちまう可能性があるから、まずここにカメラと見張りをつけておいた方がいいぞ。
ああ。分かった。待ってる間にこれを見ておけ。
そう言って家路はビデオを点けた。
史郎にも見せた、あのビデオテープだった。
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