私、妖精王の娘ですけど、捨てちゃって大丈夫ですか?
るあか
第1話 退屈からの解放
「わたくし、王族になりますの。邪魔なあなたはここへ捨てていきます」
7つになったばかりの私へ告げられたのは、叔母エメリーヌのそんな言葉だった。
「エメリーヌ叔母様……私、お利口さんにしてたよ?」
一応そう言って抵抗してみる。しかし、彼女は苦痛の表情を浮かべた。
「お利口さんですって……? そもそもあなたの存在自体がお利口さんではありませんの。いつもヘラヘラしててムカつくあの姉の、しかもどこの馬の骨とも分からない男との子ども。存在自体が罪ですのよ」
「でも……叔母様はお母様が亡くなる時、『ティニーの事はわたくしに任せて』って……」
「あぁ、あの時のあなたは確かに役に立ちましたわ。だって、そう一言告げただけで、あの女、全財産を譲って下さったのだもの。チョロいものですわ」
叔母様はそう言って高らかに嘲笑った。
「そっか……叔母様はお金が欲しくて……あの時嘘吐いてまで私を引き取ったんだね……」
そんな事はとっくに気付いていたけど、これも念の為、尋ねておく。
「当たり前でしょう? あなたの存在価値なんてそんなものよ。分かったらここからどこへなりとも行ってしまいなさい。まぁ、この森から独りで出られたらの話ですけど。おほほほほ!」
後ろにひっくり返ってしまいそうなほどふんぞり返って笑う叔母様。そんな彼女へ、私も別れの挨拶を告げた。
「分かりました。エメリーヌ叔母様。今までありがとうございました」
深々と頭を下げて、叔母様に背を向けて歩き出す。背後からは叔母様の愚痴が聞こえてきた。
「なんなのあの子。こんな森に捨てられたのに別に何でもないようなあの態度。ほんっとうに可愛くありませんわ。泣いて懇願してこれから奴隷になります、くらい言えば連れて帰って差し上げたものを。ふんっ。こんな町の外で魔除けも持たずに、しかも出口とは真反対の奥の方へ……さっさと魔物にでも悪魔にでも食べられてしまいなさいな!」
叔母様はプンプンに怒りながらそう|喚
《わめ》き散らし、馬に跨がって森の出口へと去っていった。
「もう……居なくなったかな……」
耳を澄まして馬の
そして、完全に音が聞こえなくなった瞬間、私は万歳をして飛び跳ねた。
「やったー、やったー! ようやくあのヤバいクソババアからも退屈な毎日からも解放されたー!」
嬉しくて
間違いない。この神聖な空気は、私の“お父様”が住んでいる森だ。私の中の魔力もこの澄んだ“マナ”に喜んでいる。
魔物に食べられろ? 何を馬鹿な。こんな澄んだマナの土地に棲む魔物はみんな、気の良い子ばかりだというのに。それに、こんな神聖な地に悪魔なんていない。あんな欲深いクソババアでも街のしょうもない噂を信じているのだと思うと、少し笑えた。
「あっ、ピクシーさんだ。こんにちは」
偶然通り掛かった、妖精の羽の生えた魔物へ声を掛ける。
『こんにちは……って、ニンゲン……!? あれ、妖精族の魔力も感じるわ……』
ピクシーはスイーッと目の前まで飛んでくると、自分の身体ほどもある私の顔を興味津々に嗅ぎまわっていた。
「私“世界樹の
『ユグドラシアね? そりゃもちろん知ってるけど……でも、どうして?』
「お父様がそこにいるから、会いたいの」
『ふーん、あなたお父さんが妖精族なのね?』
「そう。オベロンって言うの」
『へぇ……オベロン……って、あの妖精王オベロン!?』
ピクシーは目を真ん丸にして、その場に固まっていた。
「うん、そうだよ」
『はっ、そう言えば聞いたことがあるわ……。オベロン様はニンゲンの女と恋に落ちて子を授かったって……あぁっ、そう言われて見れば、その魔力の感じも、そのグリーンの瞳も、オベロン様そっくりじゃない!』
「やっぱりそうなんだ? お母さんもよくそうやって言ってた」
『ユグドラシアまで行きたいのね!? ウチにまっかせなさい! そ、その代わりと言っちゃなんだけど……その……』
ピクシーは空中でモジモジしている。
「あなたの事、ちゃんとお父様に報告する。すっごく親切にしてもらったって」
『いやだもう、分かってるじゃない~。んふ、ウチ一生あなたに付いていっちゃう。名前は?』
「ティニーだよ。お友達になってくれるの?」
『えっ、ティニー。ウチは従者じゃなくて……お友達でいいの……!?』
「うん……だめ、かな?」
『んもう、良いに決まってるじゃない~! ズッ友よ、ズッ友! これからよろしくね!』
「うん、よろしく」
さて、帰ろう。私の本当のお家へ。
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