## 第7話「侵入」

# 境界系譜 -Cross Scene- モニタの向こう側で


## 第7話「侵入」


研究室の闇を、モニタの青白い光が不規則に照らしている。御堂は、暗がりの中で佇む研究室の様子を見渡す。非常灯さえ点灯しない完全な停電。しかし、バックアップ電源で駆動する端末だけが、かすかな明かりを放っている。その光は、まるで深海に浮かぶ奇妙な生物のようだった。


```

$ tail -f /var/log/talbot/monitor.log

2024-12-20 21:24:35.231 [critical] research_lab_breach location=primary_system

2024-12-20 21:24:35.456 [alert] unauthorized_data_access detected

2024-12-20 21:24:35.892 [warn] pattern_recognition_db access_attempt=unauthorized

```


「研究データへのアクセスを」佐々木真希が画面を見つめたまま声を上げる。彼女の指がキーボードを叩く音が、静寂を切り裂いていく。しかし、入力に対してシステムは何の応答も返さない。画面の片隅で、データアクセスを示すインジケータだけが、執拗に点滅を続けていた。


工藤は別のターミナルで必死にコマンドを打ち込んでいる。大学4年生とは思えない速度で次々と対策を試みるが、どれも功を奏さない。「遮断プロトコルが全く機能していません。何者かが研究室の基幹システムに直接アクセスを確立しています。しかも、その方法が...」


彼は言葉を詰まらせる。表示されているアクセスログは、まるで研究室の正規ユーザーによるものと見分けがつかない。いや、むしろそれ以上に、システムと完璧に共鳴しているかのようだった。


御堂はモニタに映る侵入の痕跡を、冷静に、しかし鋭い眼差しで追っていく。パターン認識データベース、過去の実験記録、そして最も警戒すべき――封印されたはずの制御プロトコル。それらが次々とアクセスされ、コピーされ、解析されていく様子が、まるで生き物のように有機的な動きを示していた。


「先生」佐々木が声を潜める。彼女の声には、明らかな動揺が混じっている。「アクセスされているデータ、これは...まさか」


御堂の表情が、わずかに、しかし確実に歪む。老練な研究者の仮面に、一瞬の亀裂が走る。「3年前の実験データか」


その言葉が、研究室の闇に沈んでいく。佐々木と工藤は、思わず息を呑む。彼らは、その実験の詳細を知らない。ただ、御堂研究室の禁忌として、誰もが暗黙の了解で触れてはいけない領域だと理解していた。研究室のシステムの最深部に封印され、暗号化され、そして忘れ去られるはずだった研究データ。


`ようやく、気付きましたか`

`あの日の実験データ`

`人々の意識を、完璧にコントロールすることに成功した、あの日の...`


画面の向こうから、見覚えのあるパターンが浮かび上がる。それは幾何学的でありながら、どこか有機的。機械的でありながら、人間の意識の深層に直接働きかけるような不思議な律動を持っていた。御堂の瞳が、強い光を帯びる。


[続く...]

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