異世界配達便 ~迷宮の奥にも届けます~

花咲るん

第1話「はじめての配達」

雨の降る深夜。翔太はハンドルを握りしめながら、狭い路地をトラックで進んでいた。

「あと3件で終わりだ。頑張れ、俺……」


宅配便会社で働く彼の日常は、まさに時間との戦いだった。食事もまともに取らず、休憩する暇もない。疲労が限界に達していた。


信号が青に変わる。ふと前方を見ると、不思議な光の渦が道路の真ん中に現れた。

「なんだこれ……?」


避ける間もなく、トラックごと飲み込まれる。目がくらむような眩しさと浮遊感。そして――。


翔太が目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。青い空に浮かぶ二つの月。辺り一面に広がる巨大な花畑。

「ここ、どこだよ……」


混乱する彼の前に、猫耳の少女が現れた。ふわふわの尻尾が揺れ、笑顔で挨拶する。

「ようこそ、異世界配達便へ! あなたは新しい配達員に選ばれました!」


「は?」翔太は目をしばたたく。「俺、そんなこと頼んだ覚えないけど?」


「選ばれるものは選ばれるんです!」少女は自信満々だ。

「私はミーリス、ギルドの使者です。さあ、これがあなたの配達セットです!」


彼女が差し出したのは、奇妙なトランクケースと古びた地図だった。地図には見たこともない地形や名前が記されている。

「配達を完了しないと、元の世界には帰れませんよ!」


最初の配達依頼は、「迷宮の奥深くに住む錬金術師への特別配送」。

配達内容は、虹色に輝く小瓶だ。


翔太は「魔法カート」と呼ばれる一輪車を引き、迷宮の入口へと向かう。だが、そこはモンスターが徘徊する危険な場所だった。

「俺、宅配便で鍛えられた脚力以外、何のスキルもないんだけど……」


迷宮の中で、さっそくゴブリンに襲われる。必死で逃げる翔太。しかし、魔法カートが突然自動で動き出し、ゴブリンをかわしながら進んでいく。

「おいおい、これ便利すぎるだろ!」


魔法カートの先導で迷宮の奥へ進むと、古びた工房にたどり着いた。そこで出会ったのは、錬金術師の女性・ルミナス。

「ご苦労様。これが届かないと困っていたの。」


翔太は息を切らしながら小瓶を差し出す。

「こんな危険な場所に住んでるなんて、もっと安全な場所に引っ越せばいいだろ。」


ルミナスは微笑みながら答える。

「ここでしか手に入らない材料があるの。それに、危険だからこそ平和を感じられるのよ。」


翔太は納得がいかない顔をしながらも、小瓶が彼女の手に渡ったことに安心感を覚えた。


ギルドに戻ると、ミーリスが新たな依頼書を手に待っていた。

「お疲れ様です! 次は、火山のふもとに住む鍛冶師への配達です!」


翔太は思わず頭を抱える。

「俺の平凡な人生は、どこへ向かってるんだ……?」


だが、少しだけ口元が緩む。配達の先に何が待っているのか、興味が湧き始めていたのかもしれない。

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