第5話

 翌日の放課後、私は自室のベッドで丸くなっていた。


 ギリギリまで考えたけど結局、決められなかったんだ。つくづく自分が情けない。迷って、迷って、何もしない。いつもそうだ。今頃、みんな集まって顔合わせでもしてるのかな。それなのに、私は……。


 ――今日はもう、何もしたくない。


 私は布団を頭から被って、目を閉じた。




 遠くから、音が聞こえた気がした。気のせいかと思って寝返りを打つけど、また聞こえてくる。


 この音は、インターフォン?


 誰か、来た……?


 寝起きでろくに回らない頭を抱えながらリビングまで下りていく。入ってすぐの壁に取り付けたテレビドアフォンを確認すると、知らない男の子が映っていた。黒い艶のある髪と、穏やかそうな垂れ目が印象的。パッと見たところ、年は私と同じくらいだ。


「はい」


「突然ごめんね。小野寺翔真っていうんだけど、ルークとカレンが使い物にならないから、代わりに話をしに来たんだ。今、時間あるかな?」


 オノデラショウマ。聞いたことない名前。使い物にならないとか、いまいち状況はつかめないけど、取りあえず、ショウマさんには上がってもらうことにした。二人の知り合いみたいだし。リビングに通して、詳しく、事情を聞かせてもらおう。


「ちょっと待ってて」


 そこでマイクを切り、足早に玄関へと向かった。


「どうぞ。上がって」


「ありがとう。おじゃまします」


 ショウマさんはぺこりとお辞儀をして、家に上がった。脱いだ靴はしっかりと揃えられている。丁寧な子なんだ。


「ソファーに座ってて。……なにか飲む?」


「ううん。大丈夫だよ。お構いなく」


 本当に、話をしに来ただけなんだろう。それなら、と正面のソファーに腰を下ろした。


「それで、その、いろいろと説明してもらっていい?」


「うん。改めまして、小野寺翔真です。マリアスの件は知ってるんだよね。今日はチームメンバーで集まる予定で……。ここまでは聞いてる?」


「そこまでは。誰がメンバーなのかは、知らされてなかったけど」


 カレンさんがメンバーだなんて、これっぽっちも知らなかった。知ってたからといって、何かが変わってたわけじゃないだろうけどね。


「まったく、あいつは……。いつも説明が足りないんだよ」


 ショウマさんはあきれ顔でため息をついた。


「それで、その集まりを、ショウマさんは抜けてきたの?」


「そうだよ。だって全然、話が進まないし。ムダに時間が過ぎるくらいなら、もう直接、君から返事を聞いた方がいいと思って」


 なるほど……。なんとなく、状況はつかめた。

 ルークもカレンさんも、待っててくれたってことだよね。で、ぐだぐだになって、色々としびれを切らせたショウマさんが行動に移った、と。


 申し訳ないな。私が優柔不断なせいで、みんなに迷惑をかけてしまってる。こんなことになるなら、はじめから断っておけばよかった。うんん。こんなにも迷うならいっそ、入らないって言う選択を、潔くするべきだったんだ。


「ショウマさん、来てくれたのに悪いけど――」


「カレンもルークも、強いなって思わない?」


「え?」


 突然、何を言い出すんだろう?


「あいつらは、馬鹿みたいに素直で単純だよ。カレンがなんで、マリアス加入を決めたか分かる? 『面白そうだから』だよ」


 ショウマさんは呆れ気味に首を横に振った。私は、とても信じられなかった。


 だってこれは、言ってしまえば、人生がかかってるかもしれないわけで。いくらなんでも、ノリが軽すぎる。


「それはその……ずいぶんと豪快ね」


「そうだね。でも、そこが良いところなんだ。無防備に突っ込んでいく度胸っていうのかな。アイツらの、行動が先立つところ、結構好きだよ。一緒にバカやってみようって思うくらいにはね。それに、最終的にはそこじゃないかな。やりたいか、やりたくないか。難しく考える必要なんてない。……セーラちゃんは、どうしたい?」


 提示されたのは、シンプルな二択。


 難しく考えるな……か。

 私は、お母さんの事、知りたい。手を伸ばしてもつかめなかったものを、掴みたい。


 やりたくない、とは始めから思っていなかった。


「――今からでも、間に合う?」


 そう言うと、ショウマさんは安心したように笑った。


「もちろん。ルークとカレンも喜ぶよ」


 そう、だろうか。よく分からないけど、嫌がられるよりはずっと良い。でも、どうしてそんなに、私にこだわるんだろう?


 不思議に思ってると、ショウマさんがゆっくりと立ち上がった。


「じゃ、行こう」


「うん。――ありがとう、呼びに来てくれて」


「気にしないで。あの辛気くさい所にいたくなかっただけなんだ」


 なんて事ないような、けれどもどこか、おどけた調子で言うショウマさんが、何だかおかしかった。


「あ、それからもう一つ。あのメッセージカードは、カレンが用意したんだ。もうずっと前から、君に渡すためにね」


 えっ……。


 どういうことか聞く前に、ショウマさんはさっさと玄関へ向かったしまった。


 手早くカーディガンを羽織って、外に出る。雲の隙間から、柔らかい日差しが差し込んでいた。

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