第19話 入学式前

 前回のあらすじ。


 稽古場に行ったら、イカれた兄姉が居た。



「アルスじゃないか!!久しぶり!!」

「久しぶりと言ってもまだ数ヶ月しか経ってませんよ、カーザス兄上」

「そんな釣れないことを言うんじゃないよ。まあ、これからはアルスと戦えるのが楽しみでならないよ!!」

「…?どういうことですか?」

「私が説明する」


 隣からミシャが口を開く。


「学院では、完全なる実力主義。成績が悪ければ退学になるし、成績が良ければ上位の学科の授業に混ざれる。それに、学院には模擬戦が出来る訓練場があって、そこは歴代のスタッガードですら壊せない結界が張られてる」


 そこまで言われて理解した。ようはこの兄はそこに俺を連れて死合いをしようと言っているのだ。


「俺はまだ入学してすらいませんし、仮に入学したとしても、兄上と戦えるのは当分先になりますよ」

「そこは僕たちの勝手だ」


 うわぁ、と引いてしまう。ようは自分たちで勝手にやるから学院は関係ない、というのだ。


「さて、じゃあ僕たちは僕たちの義務を果たそうじゃないか」

「義務?」


 俺は首を傾げる。


「そりゃ決まってるだろう。兄姉として、弟の実力はちゃんと把握しておかないとね」


 そう言うと、突然襲いかかってくるカーザスとミシャ。俺は腕と腰から抜いた刀でカーザスとミシャの一撃を受け止める。


「凄いな!!よく2人の攻撃を同時に止めたものだ!!」

「試練で色々学べたんです…よっ!!」


 俺は2人の攻撃を跳ね返し、カーザスに斬りかかる。


「いきなり攻撃するのは公平フェアでは無いのでは?」

「じゃあアルスは敵に対して今から攻撃するとでも高らかに言うのかい?」

「納得しました」


 後ろからミシャの短刀が放たれてくる。俺はそれをオーラで弾く。


「…すごい、オーラの使い方を未熟ながらも使いこなしてる」

「だから言ったんですよ、試練で色々あったと…」


 本当に色々あった。死にかけもした。今でもカーザスとミシャには勝てる気はしないが、それでも一矢報いる程度には行けるはずだ。


「フッ」


 俺は距離を取りながら牽制として短剣を投げる。それはいとも容易くカーザスとミシャに弾かれる。


「この程度?」

「まだですよ」


『火焔』


 ミシャが結界を展開する。結界内に存在する魔力が灼かれる。


「…灼けるな」


 体内には影響が及ばないとはいえ、灼熱の空間にいる以上、体温が上昇する。短時間で勝負を決めるという姉の意思だろう。


『収束』

『灼熱』

『統合』


 俺は、オーラを統合し、ひとつの大きな火焔球を作る。


「はは…まじか」

「危ない…」

『放出』








「流石に危なかったね。さすがは僕の弟だ。期待以上の成長だよ!!」

「将来に期待。本当に私を倒せそうだね?」

「ははは、まだまだ兄上と姉上には及びませんよ」


 俺はボロボロになって座り込みながらそういう。結局あの火焔球は兄たちにあっさりと避けられ、魔法を直に食らって負けてしまった。防御を疎かにしてしまったから負けたのだ。これを次の教訓に活かそう。そう考えていると、


「カーザス様、ミシャ様、アルス様。お茶とお菓子のご用意ができております」

「ああ、行こう。な、ミシャ」

「うん、行く」


 ラザルがそう言ったので、カーザスとミシャが稽古場から去っていく。俺も、しばらく考えた後、立ち上がりカーザスとミシャを追いかけた。 





「あっ、アル!!」


 アレインが俺を見つけると顔に喜びを浮かべる。カーザスはそれを見ながら呟く。


「やはりアレイン嬢にとってはアルスは大切な存在なんだね。僕たちと話す時とは違う」

「そ、そんな…カーザス様とミシャ様も、大切な存在…ですよ?」


 首を傾げながら怪しげにアレインは答える。


「無理しなくてもいいさ。それよりも、僕たちにも様付けは不要だよ。名前で呼んで欲しいんだよ。なんだがむず痒くてね」

「それは…さすがにご遠慮させていただきます。それでは、義兄上、義姉上、とお呼びしてもよろしいでしょうか」


 アレインのその言葉を聞いた後に、カーザスとミシャからなにか吹き飛んだ。その後、2人は涙を流す。


「え、ええ?!どどどどうなされたのですか?!」

「なぁ、ミシャ。こんな良い娘がアルスに来てよかったな…」

「ん…これは完全に同意…」


 カーザスとミシャは婚約者がいたが、いずれも婚約解消している。カーザスは相手の傍若無人な振舞いにうんざりして、ミシャは無理やり婚約者に押し倒されたからそうだ。


(よく兄上と姉上にそんな態度をとって死ななかったな)


 と俺は思う。何しろこちらはスタッガードの一族だ。手痛いしっぺ返しを食らうとも思わなかったのだろうか。


(むしろ自分が強大な力を持ったと勘違いして溺れたか)


 とは思わない。カーザスとミシャは相手に恵まれず、俺は恵まれた。これが全て。


「アレイン、兄上達にも優しくしてやってくれ」

「アルまでどうしたんですか?!」


 アレインだけが1人あわあわしていた。その様子をラザルは青白い笑顔で見ていた。





「馬車の用意はできております」

「ああ、今行く」


 今日は、べレース総合初等学院の入学式。アルスにおける、人生で最も濃い20年の始まりである。


 

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