第17話 めちゃくちゃな

 宴もたけなわになり、そろそろ退館者が現れる頃に、俺とアレインは退館した。


「もっとここにいても良かったのでは?」

「別にここにいても人が集まってくるだけだ。それはアレインもあまり好きではないだろう?」

「確かにそうですね。ですが、ソノス達の腹の内が私にはよくわかりません。一体どういうことでしょうか…」


 ラザルが馬車の扉を開け、俺はアレインを馬車に乗せたあと、俺も馬車に乗る。馬車が屋敷に向けて発車した後に俺は言う。


「単純に友人になりたいのと、別の意図があったのは否めないな」


 まず単純に、大勢の前でいきなり自己紹介などは一般的だが、やつの声音には牽制の意図があったと思われる。


「牽制、ですか?」

「ああ。まあおおかた予想はつくな」


 スタッガードの戦力はこの地上で生きるものなら誰でも欲しがるだろう。一般人でも、魔王でも、大国の皇帝でも、とある山の守護竜でも。有望なスタッガードの卵は社交場に落ちると割れるくらいには奪い合いが起こる。それほど、スタッガードという名が歴史に与えた影響は大きい。


「ですが、友人としてお付き合いを続けたいというのはなんででしょう」

「それはもっと簡単だな。アレイン」


 俺はアレインに問いかける。


「仮に俺をどこぞの貴族の嫡子としよう。俺はその貴族の中で群を抜いて強い。それも、騎士隊や魔法師隊をも上回り、手も足も出させないくらいには。そんな中で、自分と匹敵する強さを持つ人がいると聞いたら、俺はどうすると思う?」

「…!」


 簡単なことだ。


「酷く単純ですね」

「人間は、こう単純でいいんだよ」


 ソノス、タレス、レネア。3人の強さがいかほどなのか、今からでもとても楽しみになってきた。



 スタッガード帝都別邸。


 俺とアレインは開いた口が閉じなかった。


「あ、ああ、アルス殿」

「おっせーぞ!!いつまで待たせんだ!」

「タレス様、煩わしいですわよ。お口に槍をぶち込んで差し上げますわよ」

「やってみろよコノヤロー!!」


 例の3人とミラスが別邸の居室にいたのだ。


「ラザル…俺はどうやら幻を見ているらしい。頬を思い切りつねってくれ」

「え、ええ!?」

「頼む。今は無用だ」

「は、はい…」


 ラザルはアルスの頬を思い切りつねる。それはもう、皮膚がちぎれるくらいにはつねった。だが、それでも、その4人は目の前に存在していた。


「…なんでお前らがいるんだ」

「それはミラス皇女殿下に聞いてくれ」


 とソノスに言われたので、ミラスに言う。


「なぜこの場にいるのですか?」

「それは、挨拶に伺いに来たのですよ」

「先日唐突に来ていたでは無いですか…」

「あら!!あれは勧誘ですよ。挨拶はまだしてないのですよ」


 ミラスにとっては、先日の訪問は挨拶にならなかったらしい。俺は深くため息をつく。

 ミラスが椅子から立ち、上品なカーテシーをする。


「改めまして、私はドメリア大帝国第3皇女のミラス・レグ・ドメリアと申します。学院でもよろしくお願いしたしますね」


 言うまでもないが、この部屋にいる子供は全員同年代。なので、学院でもクラスが違えど最も長い付き合いになることは間違いなかった。


「ラザル…ココ最近のお前の気持ちが分かる気がするぞ」

「光栄に存じます…ははは…」


 ラザルの顔からは生気が失われ、青白くなっていた。




 ラザルが突然襲いかかった貧血に苛まれながらお茶やつまみの用意をして下がった後に、ミラスが口を開く。


「今回私たちが訪れた目的としては、あなたたちと親交を深めたいと思ったからです」

「それならば、後日お茶会にお誘いいただければよろしかったのでは?」


 ミラス以外の全員が俺の正論に頷く。だが、ミラスはとんでもないことを口にする。


「それでは遅いでは無いですか!!何より、将来の殿方と親交を深めるのは大事なことだとお父様も仰っておりま…す…よ?」


 最初の方は自信満々に言ったが、後半にかけて段々と顔から汗がにじみ出てくる。それは、隣のアレインの雰囲気から来る自衛的な本能が働いたからだろう。


「殿方…ですか?殿下」

「ヒィッ」


 アレイン、皇女殿下まで怯えさせるとは。さすがは俺の婚約者だ。俺がいない間に何があったんだ。あの純粋無垢で可愛らしかったアレインはどこへ行ったんだ。


(今も充分に可愛いけどな。さえなければ)


 それは、隣の三人衆をも戦慄させている。凄いなアレイン。本当に何があった。


「私はアルの婚約者なのですが…その席をお取りになる、と?」


 にこりとアレインは笑っているが、目が笑っていない。視線で人を殺せるレベルには笑っていなかった。


「い、いえ…なんでもありませんよ…」


 しまいにはミラスがへたり込み、完全に戦意を喪失してしまった。


「なんでもないならいいんです。私もはしたない真似をいたしましたことを謝罪いたします」


 アレインはそう一礼して、俺の隣に戻る。本当に頼もしい限りなのだが、本当に何があったのかが気になる。


「おっほん…趣旨から外れてしまいましたが、顔合わせの方は上手く行きましたね。このメンバーで仲良くしませんか?」


 ミラスは話を急に変えて、仲良しこよししようと言い出す。


「仲良くするメリットがあると?」

「そんなのは要りません!!とは一概にはいえませんね…そうですね、互いの家同士の繋がりを強める、というのと、スタッガードの戦力、ですかね?」

「…確かにそうですね」


 ソノスが首肯する。確かにそうだ。スタッガードとはいえ、貴族は貴族。伯爵位を持っているが、武力や権謀術数で上位貴族からの手を避けていたが、今後そうと行かない場合がある。その場合に頼りになる貴族がいるといないとでは違うが。


「だが、俺たちにはメリットがありませんよ?」


 それすらも、スタッガードには必要ない。単独で貴族社会を切り抜けられるほどには、スタッガードの力は小さくない。


「そ、それは…」


 ミラスが口を詰まらせ、回答に困っている。が、予想外の人物が口を開く。


「別にメリットデメリットはよろしいでは無いですか!!スタッガード令息殿はメリットデメリットを見て人と付き合うかを決めるのですの?」

「…それは一概にとは言えないな」

「ならば問題ないではありませんの!この瞬間から私たちは友人!!そうですわね!!」


 そうレネアが喧伝し、空気と化していたソノス達に反応を求める。いきなり反応を求められ、「「あ、ああ!」」と情けないながらの返事をしていた。


「では、私たちはこれで。次は入学試験にてお会いしましょう」


 レネアがそう言うと、カーテシーをした後に去る。ソノス達も「またね」と言った後に退室していった。ミラスも、「私もこれにて失礼しますね」と言い、帰って行った。


 その後、何故か宰相と3人のお付人が家の前にいたのは俺にもアレインにも分からなかった。

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