第6話 死線をくぐり抜けて ─2
魔法の基礎を固めた後、剣を振るおうとしたが、ちょうどいい的がない。俺がいい的を探していると、カーザス達が話しかけてくる。
「相手なら僕たちがしよう」
「…カーザス兄上」
「大丈夫、手加減はしよう」
悔しいが、手加減でもしてもらわないとカーザス達には及ばない。だが、いつか追いついてみせる。
「分かりました」
「稽古用の剣はそこに置いてある。それを使うといい」
「ありがとうございます」
俺は稽古用の剣を手にとり、感触を確かめる。
──スタッガード家の稽古用の剣は特別だ。どんなに力を振るおうと、壊れはしない。その秘密を探ろうとしたものは全員、行方をくらましている。
「全力で来ていいよ」
「胸を借りさせてもらいます」
俺は構えた後、カーザスに剣を払う。その剣は易々と彼に止められる。
「これ程のものかい?」
「いえ、まだまだこれからですよ」
そのまま俺は身を捻り、カーザスに夥しい数の剣戟を与える。だが、彼の顔には余裕が消えない。
「筋はいいけど、それまでだよ」
「…」
本当は、使いたくなかったけど。これ程ぶつかって、剣を合わせ続けられる相手はそう現れない。だから、俺は。
「すみません、少し時間をいただきます」
「なんだい?秘密兵器でも見せてくれるかい?」
「そんな簡単には見せませんよ…まあ、秘密兵器といえばそうですが」
俺は剣に魔力を流し、身体強化の要領で剣を強化する。
「…剣を強化するのは斬新だが、試そうと思えば繊細な魔力操作を要求される。兄として誇らしいよ。でも、それだけかい?」
「ひとまず今日のところはそうですね」
「それじゃあ、出し惜しみできないように僕も少し激しめで行こう。アルスの全てを引き出してあげよう」
そういうと、カーザスの雰囲気が変わった。先程の守りの型とは違い、苛烈にアルスに攻めかかる。アルスは防御に手一杯で攻撃の隙もない。ミシャは2人の対戦の様子をただ眺めている。
「くっ…」
「早く君の秘密兵器とやらを見たいんだ。出し惜しみなしで来て欲しいな」
「しかしッ…僕にメリットがありません…ッ」
そういうと、カーザスはピタリと動きを止め、笑いを上げる。
「確かにそうだな!アルスにメリットがなかった。これは不公平だね。それじゃあ詫びとして、アルスの条件1つで手を打とう。それで見せてくれるかい?」
「…」
アルスは考え込む。ここは、自分の安全を保障してもらうべきだ。誰がどう考えても、それが正解だと思う。だが。
(そんなのでは、兄上と姉上に舐められるだろう)
必ずと言っていいほど、俺に興味を失い、見もしないだろう。それは俺の本望じゃない。強くなれる機会を棒に振るようなものだ。
結論は最初から決まっていた。
「では、兄上と姉上の秘密兵器とやらを見せていただきたく」
「わ、私も?」
「はい。図々しい願いというのは承知しております」
「ははは!!!それでこそスタッガードだ!貪欲に強さを追い求めるその意気やよし!その条件を飲もうではないか!」
「カーザス…あなた一人でいいじゃない」
「なんだミシャ、不満でもあるのか?」
2人の殺気がぶつかり合う。俺はその中で、何とかたっていられた。
「あの、兄上、姉上?」
「…ああ、済まない、少し熱くなってしまったね」
「私こそ。いらないことを言ってしまった」
「じゃあ丸く収まろう。ミシャも、アルスのいう秘密兵器を見せるんだ」
「…仕方がない」
こうして、3人はお互いの奥の手を見せ合うことにした。
「じゃあ、誰と誰がぶつかろうか?とは言っても、僕とミシャはお互いで見せ合おう。技の解説は?」
「大丈夫です。目はいいので」
「生意気だが、それこそスタッガードだ。いいだろう。アルスから見せるか?」
「はい。私から見せましょう」
そして、俺は構えて魔力を剣に通し────さらに『オーラ』を纏わせる。
オーラとは、ごく稀に現れる、魔力の副産物のようなものである。魔力から物体の改変の力を除いた後に残った滓が、まれにオーラとして体内に蓄積する。オーラの使い方としては、一般的には身体に纏わせ、鎧として扱う。また、ごく稀にオーラを無属性の魔法として扱う者もいる。だが、アルスはこの2年剣と魔法を扱う傍らで、とある用途に使うべく稽古外で修行を重ねてきた。
「…アルス、オーラも使えたのか」
「それだけで終わらせるつもりはありませんよ」
「ああ。それだけで終わらせないでくれ。一体どんな芸当を見せてくれるんだ?」
(集中──)
魔法は、無から有を生み出す力がある。物体を改変する力がある。その作用を促す力が魔力である。
魔法は魔力を核とし、物体に作用する力を制御した結果である。当然、核を失えば魔法は意味を失い、発散する。そこで、アルスは考えた。
「アルス、まさかオーラで魔法を包み込んだのか?」
「はい」
──魔力とは関係ないオーラで魔法を包みこめば、外部からの影響を受けないのでは?
ふと考えたその日から、アルスはオーラの修練を積み重ねた。そして、ある日。とうとう魔法をオーラで包み込むことに成功したのだ。
「だが、それではオーラの中でしか魔法は干渉できないはずだ」
カーザスの言う通りだ。オーラはその性質上、全てを遮断する。普通ならば。
「兄上、それは早計すぎますよ」
そう言い、アルスはオーラで包み込んだ魔法を放つ。さしずめ、強化魔法と言ったところか。
「…?!」
カーザスは一瞬の隙にその場から離脱する。そこでは、大きな爆発が起こり、爆風が3人を襲った。
「…まさかお前がそこまで成長したとは思わなかったぞ!これは魔法士にとっては厄介だなぁ!!」
カーザスは嗤いながら、アルスを褒め称える。俺は礼を言った。
「ありがとうございます」
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