第2話 ないせい、ないせい
「それでずるずるここまで来ちゃったっていうのは…なんともね」
目の前で焼きそばパンを頬張っていた結衣が、私の方を可哀想なものを見る目をしながらぽつりと言った。
「仕方ないじゃない!男の子苦手だし、あんな風に楽しくお喋りしてたんじゃ無理だよ」
「でもそれがずっとってわけじゃないでしょ?」
結衣の指摘に、まぁそうだけどもと、口元でごにょごにょと同意した。
あの日。高校二年生が始まったあの日から、二ヶ月近くが経った。
教室の窓辺でこうしてご飯を食べているとよく分かる。窓の外の澄んだ群青色をした空には、爛々と滲み出すような輝きを放つ太陽がどっしりと構えていて、目にもお肌にも大変よろしくない。
何よりも暑くてしんどいだけのあの鬱陶しい夏が、また訪れようとしているのだということが、日に日にその勢いを増すにじり寄るような暑さから窺い知れて、それもまた堪えきれないぐらいに嫌なことだった。
「まだ一度も喋れてないの?」
「いや、一度だけなら‥。化学の授業は席自由だったから、あくまでも自然な感じで隣に座って」
ずいぶんびっくりされちゃったけど。
「それであくまでも自然に、ここ分からなくってって質問をして」
緊張して、舌が回らなくなって、壊れたおもちゃみたいにどもりまくっちゃったけども。
「あれ、結構進歩してるんじゃないの?」
にたりと頬をゆがめてみせて、結衣はくりくりとした大きな瞳に、好奇の色を灯して私を見つめる。
「また面白がって‥」
「いや、ちがうよ?友達の恋路の進展を純粋に喜んでるだけだからね」
私が文句を言うと、結衣はいつもと同じようにけたけたといささか大袈裟に思えるくらいに笑った。私の疑念の視線を振り払おうと必死なのだ。
「まぁいいけども。それに、進展なんてまったくだしね。むしろ距離を取られたような気すらする」
現実は非常だった。私の高校は二年生にあがると、文系理系で違う授業を受けるようになる。
一年生の頃から仲良くしていた結衣は、残念ながら文系を選択していた。でもクラスの方は文理混合だったおかげで、こうして結衣と一緒にお昼を食べることができている。もし、文系理系でクラスも分かれていたらと思うと、ぞっとしない。
逆に言えば、これまでの二ヶ月間、私には授業中に羽畑さんと友達になる機会はいくらでもあったのだ。でも結局、ろくな戦果を挙げられずにいる。自分は社交的な人間であると、胸を張って言うことができるほど、私は明るい人間じゃない。でも、友達を作るのにここまで苦心に苦心を重ねたことはなかった。きっと、羽畑さんは特別なんだ。いつしかそう思って、そしてそう思えば思うほど、羽畑さんはより近づき難く、近づかずには居れない存在になっていた。
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