幼馴染が殺し屋になっていた件

too*ri

序章

第1話幼馴染との再会、そして始まり

 20xx年、AIやらSDGsやらが主流となって間もない頃、ある日異能力者が誕生した。令和波乱の時代を乗り越え平和が訪れはや数年。能力者が年々増え続ける中、政府は危機を感じていた。そんな中、一国が人体危害を加えるとして異能力者対応の法の立法を行なった。それは、異能力者を圧迫し処分するという非人道的内容だった。それが皮切りになったかの様に各国の首脳が異能者対応の法を立法した。こうして国際的に異能力者を“悪”とする風潮が始まったのだ。

現代の世界スクールの教科書にはこう記してある。

20xx年__異能力者誕生。国際能力者対応法律の立法。

この世界の“悪”はいつだって異能力者である。


 20xx年、最初の異能力者誕生から24年が経ち、世界に平和が訪れた、、。と、馬鹿な奴らは信じきっているらしい。馬鹿くさいなぁと思うが、それが世界の常識らしいので自分はそれに従うが。でも実際、政府が酷い規制を掛けている為一般社会に異能者はいない。能力の開花に伴い中央部収容所に連れて行かれてしまうからだ。だからこそ、一般人は能力者をフィクションの様に感じてしまうのだが。汗が頬を伝う。今日の最高気温は確か30度越えだった気がする。道で陽炎がゆうらりと揺れていた。まっさらな空を見てかつての夏を思い出す。

記憶は過去へと導かれた。


チャイムの音が鳴って、皆んなでさようならをした。一緒に帰ろーなんて言って、小学生の放課後なんてそんなものだ。今日は鏡花に誘われて_まあ、小学生の悪戯な様なものだと思っていた。_一緒に空き教室へ潜り込んだ。夕焼けが世界を茜色に染めるなか、二人で固まって楽しくお話し。外では子供らの声が聞こえて、特別な事をしている気分に愉悦を感じる。焼けた本棚、誰もいない教室。黒板は綺麗で誰も使っていない。そんな空き教室。暫く話し込んで、ケラケラ二人で笑い合って、突然鏡花が言った。

「燐凛、大事な話していい?」

「なあに?」

劇でいう舞台に二人しかいない状況、光が鏡花を照らしてそれが美しい。いや、美しいという言葉じゃ表しきれないほど。

「あのね、」

「うん、」

「えっとね」

「うん、」

必死に言葉を口に出そうとする鏡花に、相槌を打つ続ける。烏の鳴き声がして、夕焼け小焼けもかすかに聞こえる。そろそろ帰らないとな、なんてそんな日。一生の思い出が生まれた。

「私、燐凛の事好きなの。」

突然の出来事で、目を見開いてしまったものの、私の口角は上がってニヤけていた。

「私も好きだよ。燐凛のこと。」

「ほんと、、?」

恐る恐る出された言葉に、嘘じゃないよ、本当だよって。あなたの事ずっと好きだったんだよって。

「いけない事だと分かってた。」

「なんで?」

「お母さんが言うんだもん。あなたのお婿さんはどんな人かしらって。」

「じゃあ、私が鏡花のお婿さんになるね。」

「え?」

困惑。鏡花の顔は酷く間抜けだった。泣きそうな声が、顔が見てくる。

「お婿さんって素敵なプロ、ポーズ?するらしいよ。」

見つめてくる鏡花が愛おしい。私の愛が溢れてしまいそう。器は限界を迎えていたみたいだ。

「鏡花、私と結婚してください。」

ぐっと奥歯を噛み締めて、目はうるうるとし、今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。そして鏡花はにっこりと笑っていった。

「いいよ。結婚しよ。」

頬を何かが流れ落ちた気がした。


八月の上旬。二人で遊んでいたこの日。とんでもない事を告げられた。

「私転校するんだって。」

鏡花の一言で、奈落に落とされた様に全身が硬直した。嘘でしょって言いたかったけど、苦しそう顔を見てやめてしまった。

「どうして、」

「お父さんが転勤するんだって。」

「そっか。」

何も言いたくない。考えたくない。ただその一心で動いていた。

「だから、これあげる。」

「指、輪、、?」

ポケットから取り出された指輪は、日の光でキラキラと光っていた。決して高くはない、玩具の様な指輪。

「あのね、婚約者は指輪を贈り合うの。だからね、」

言葉はここで切られた。それでももう、十分すぎた。

「忘れないで、私のこと。」

きっと一生忘れる事はない。お礼は言えなかった。そのまま鏡花は旅立った。


嫌な事を思い出した。これもきっと夏の暑さのせいだ。少しの頭痛に悩まされる。嫌だなあ、学校。7月後半、高校2年生ではじめて学校をサボった。馬鹿くさいじゃないか、真面目に学校に通うなんて。たまにはサボったって許される筈だ。夏は胸が苦しくなって、頭痛が酷くなる季節。トラウマなったこの季節。あの告白を私は今だに引きずり続けて。女々しい奴だなぁって思っても、消せないものはどうにもなんないんだからと言い訳して放置し続けている。ココロの穴を埋める物を探し続けている。


溶けたアイスにかぶりついて、汗を拭った。今日は偶々気分でサボって、偶々この道を通って。その後、なんとなくアイスが食べたくなってカスみたいな小銭を集めて棒アイスを一本買った。駄菓子屋もベンチは日差しで高温になっていて、お尻を火傷するかと思った。その後路地に入り込んで_制服を着ていた為、大人に見られると面倒だと思った_ボーッとしながら歩いた。だから、この出会いは本当に偶然だった。鉄臭さを嘘だと疑った。これは嘘でなければいけない。危険信号が鳴り響いた頭で、でも腰を抜かしてしゃがみ込んで。動け、動けよ、何度も言い聞かせてもどうにもならない。ズブズブと底無し沼に引きずり込まれてしまったみたいに、体はびくともしなかった。ハクハクと声すら出せない。嗚呼、私ここで死ぬんだ。そう感じた。高校2年生、初めてのサボりで命を失うなんて、笑えない。いくらなんでも笑えないさ。


____突風。


あまりに突然なモノだった。


刺激が強すぎた。


あまりに神は残酷だ。


助けては消えた。


「、、、きょうか。」

これがやっとだった。嗚呼、こんなの残酷すぎる。


そこには瞳に何も宿していない、無表情の鏡花がいた。


「死ぬのを望まれたんだよ、この人。要らないんだってさ。」

鏡花はそう言って人_スーツを着ている20代後半ほどの男_を刺していた影の様な物を引っ込めた。何が起こっているのか分からずに、私は「はあ」と言った。

「久しぶり、元気してた?」

「まあ、」

歯切れの悪い返答しかできなかったけど、気にしないで。

「私今、政府公認の殺し屋になってる。あなたは?」

「、、、えっと、女子高校生?」

「そう。」

無言の時間が続いた。長く間が開きすぎてしまったのかもしれない。それか、異能力というものを見たからかもしれない。兎にも角にも、私たちには大きな溝が埋まる事なく空いている。

「私、上司に報告があるの。もう帰るね。私に会ったことは内緒。絶対ね。」

鏡花がそう言ってそのまま影の中に潜っていく。

待って、、、!

言いたい言葉は喉の奥に引っかかって、そのまま消えてしまった。ボーッとしてても仕方がなく、私は歩き始めた。__内緒。私たちはもう、思い出を作る事が出来ないのかもしれない。


鏡花の様子がおかしかった。感情が落ちて消えてしまった、そんな表情だった。ねえ、嬉しく無いの?なんて女々しい言葉を口にする様なヘマはしないけど、異能者の彼女を私は心配していた。家に帰ってすぐに、ベッドに潜り込んで寝てしまった。辛い記憶を消したいのかもしれない。思い出したく無いんだ。ただその一心で、私は深い海の底に意識を投げ出した。


暗転。


政府の人間となった異能暗殺者の少女___鏡花と会ってから、早1ヶ月が過ぎようとしていた。最近は異能者の話をよく聞く様になった。朝にコーヒーを飲みながら、私は新聞をチラリと見た。『管理番号がない異能者発覚、政府の管理甘いか?』『関東と関西の仲が険悪に、日本の分断は近い?』『異能力対応国際法律見直しでSWDが会議』ハッとして、食いつく様に新聞を読んだ。クシャリと握り締めてしまったそれは、能力者であった鏡花を思い出す。嫌な気分になった。彼女の力が、彼女の意思関係無く振るわれている事に苛立ちを覚える。コーヒーを飲み切って、カチャリと食器をシンクに置く。

7時45分、いくら学校が近くったってもう出なきゃいけない。ローファーを履いて、足を3回とんとんとん。これが日課。詰まって痛かったらもう一回とんとんとん。

「いってきます」

世界がどんなに暑かろうとも、私は結構元気です。


午前3時、起きるにはずっと早い時間。携帯電話が鳴って、私は飛び起きた。誰かな、なんて思っていたら知らない電話番号。知らんフリして仕舞えばよかったのに、なんだか今日は絶対に出なきゃいけない気がした。なんと無くだもん、しょうがない。通話ボタンに勝手に手が伸びて、気付けば繋がっていた。誰?誰?誰なの?ガサガサと、ゴソゴソと、でもボソボソと。小さな音が不協和音を作っているのに、どこか心地よかった。


__やめ、。なん、私、こんな、おろ、て、そ、なもの。

ガソゴソガサゴソ

__おま、は、、いら、い事を知った。

ガサゴソガサゴソ


要らないんだってさ、私。どこか掠れて聞こえやしないが懐かしい声が頭に響いた。それが電話の音だって、気づかないほど私の心は崩れている。何だか不安で押しつぶされそうだ。


__かはっ、、


その苦しそうな声に、傷がついて呻き声をあげる鏡花が頭に浮かび上がる。

ねえ、貴方はだあれ?

コツコツと革靴を履いた足が遠ざかる。そんなイメージが湧いた。音が聞こえなくなる。また、ガサガサとなって、、、。

掠れた呼吸音が鳴っている。

息を呑んだ。その声は、私の知っている彼女の声に他ならなかった


__やっと、、、言えた、これは本当の気持ち、愛してる。


私は泣けなかった。届いてるよって、分かってるよって、言えなかった。男の声が耳に張り付いて離れない。その言葉もその声色も何もかも覚えていなければ。

__死んだか。、、お前も馬鹿だな。政府に逆らえば消されてしまう事だって考えられたはずだろう。同族を失うのは心苦しいよ。


彼女の死から2日経とうともそれから1週間経とうとも、ニュースになることも無く、新聞にすら載らなかった。彼女の死は揉み消された。深い深い苦い苦い所で。憎い。でも、何もできない。政府に揉み消された。ただそれだけが嫌だった。むしゃくしゃして、何となく外へ出た。歩いていれば、このむしゃくしゃが忘れられると思ったから。でも、外の突き刺す様な暑さにやられて、もっとむしゃくしゃした。気が遠くなりそうになった。どうして彼女だった!どうして?何故?可笑しい!おかしいよ、、。いくら言葉のナイフで傷をつけたって、彼女が死んだ事実は変わりはしないのに。

__彼女を殺した奴を殺してやりたい。


だから、この出会いは本当に有り難かった。


8月7日、午後8時24分。そこで止まった時計を私は眺めていた。

「やあ、君を見つけるのに手間がかかったよ。」

霞んで見える視界には、死んだ彼女が写っていた。

「鏡花、、?」

「いいや、違うよ。アタシはエス。エスって名前なんだよ。」

私の質問にかぶりを振って、目の前の女は言った。目の前の女__彼女は鏡花に途方もなく似ていた。それが余計に悲しくて、嬉しかった。


8月7日午後7時42分、エスに会うまで残り42分。そんな時間に私は家を出た。何となく甘いものを食べたくなったからだ。アイスでも買ってこようと思って近所のコンビニへ行ったが、偶々少しだけお金が足りなかった。仕方がないので帰ろうと思ったが、どうしてもアイスが食べたくてスーパーまで行ってしまった。公園で食べてしまおうと思って、アイスを開ける。口いっぱいに広がるストロベリー味に甘酸っぱい匂い。だから、甘い甘いアイスのせいで私は酔ってしまったのかもしれない。公園のベンチに座りながら、意識が落ちていく。甘酸っぱい匂いのもとが、女だったことは無視した。


目の前の女__エスは私をみていた。エスなのに、私は鏡花と重ねてしまった。辛い。ただ、そう感じた。

「君が燐凛?」

「まあ、そうですけど、」

「私は君を探してたんだ。」

エスはそう言って、一枚の写真を取り出した。エスに少し似ている、でも、違う。鏡花だ。

「彼女を知っているね?」

「うん」

「良かった。どうだい?私と取引しないかい?」

「何の?」

「彼女の最後についての話をするから、君には我々の組織に入ってほしい。どうだい?悪い話じゃないだろう?」

鏡花の話を聞きたかった私には、受け入れるしか選択肢がなかった。知りたい。ただ、その一心だった。

「入るから、鏡花について教えてよね。」

「わかってるさ。」

「まあ、彼女の話をするのに立つ話はないだろう?我々の基地で話をしようじゃないか。」

エスの言葉に私は頷くしかなかった。夏なのに何だか寒かった。


繁華街の外れにあるBARの地下。螺旋階段を降りた所、彼らの基地はあった。BARの地下にしては広過ぎる。みあっていない大きさのそれ。

「ひろ、、」

思わず声が出てしまうのは仕方がないだろう。エスはハハハと笑いながら、えらい広いだろ?と苦笑いした。

「おい、K助!嬢ちゃんと私に茶を淹れてくれ。長話になるよ。」

「ったく、俺はK助って名前じゃねぇっての。まあ、いいけど。」

呼ばれた男__見たところ20代前半で髪が貧乏金髪。が、カップを浮かせた。そして、小さな少女に何か頼むと少女はやれやれといった感じに人差し指を突き出し、ヤカンを指差す。ピッという音がしたと思ったら、ヤカンの中に入っていたのであろう水が沸騰している。コンロはついていないのに。K助はそのまま戸棚を触れずに開けて、茶を淹れるとトレーに乗せて運んできた。能力者である。ドキリと心臓がなった。もしかして、鏡花と共に働いていた時代があったのではないか?だからこそ、鏡花の話を持ち出したのではないか?憶測が頭の中で飛び交う。

「さあ、奥の部屋でゆっくり話そうじゃないか。」

エスの声で、意識を取り戻す。奥の部屋は応接間みたいになっていた。革製のソファにガラステーブル、大きな花瓶に生けられた花。小さな木にウォーターサーバー。何とも言えないチグハグな空間。その違和感が一体何なのか。

「まあ、座れ。立ち話は無しにしよう。」

エスにそう言われてソファに座ると、思った以上に腰が沈んだ。

「君にはまず最初、我々の目的について話しておかないとな。」

「目的、ですか?」

「ああ、我々の目的、それはすなわち、能力者の自由だ。」

彼女はニヤリと笑った。

「この世界は我々能力保持者にとって、なんとも生きづらいだろう?そんな事はあってはならない。我々も人間である以上、管理されるなど憲法に反していると思うのだ。まあ、権利の尊重だな。」

「はあ、」

よくもこんなにスラスラと言葉が出てくるものだ。

「そこでだ、我々の組織は能力保持者の自由がある社会を目指して、政府と戦っている。能力を使ってな。」

彼女はそう言うと、何処からか紙を引っ張り出してチェスの駒を並べる。

「わかりやすく説明しよう。政府をキング、我々をポーンとしよう。ポーン

1つでは、弱々しい。」

エスはそう言ってキングでポーンを倒す。ころんと転がった駒には、何故だか哀愁が漂っているように見えた。

「では、複数のポーンだったら?我々能力保持者が一つの組織としてまとまったら?」

彼女はそう言うと、ポーンを吹き飛ばしクイーンを置く。

「組織はクイーンになる。そして、キングを倒す。絶対にな。」

キングはクイーンに吹き飛ばされ、壁に当たる。可哀想なんて場違いな考えが、一瞬頭に浮かんだ。

「キングが崩れれば、ゲームは終わる。でも、クイーンが消えてもゲームは終わらない。それにポーンはまだいる。どういう事かわかるかい?」

「また、クイーン。それか、複数のポーンたちでキングに挑むんですか?」

「そういう事さ。賢いね、あんた。」

エスはクククと笑った。何だか気味が悪かった。

「ああっと、それから暗殺者の彼女の話もしないとね。彼女のコードネームは影。まあ、能力から取られているね。で、ここからが問題の話さ。彼女が所属している組織は、政府だ。つまり、政府の犬になっている能力保持者が多数いる。能力発現がみられると、連れて行かれるだろう?あそこから、使える能力保持者を犬にするのさ。残りは多分殺されてるね。胸糞悪いだろ。」

チッと舌打ちを打ったエス。

「私にどうしろと、、?」

「最初に交換条件に出しただろ?我々の組織に入れと。」

そうじゃない。そうじゃないんだ。

「組織に私を入れるメリットは?」

エスは感情が抜け落ちた目で私をみていた。鳥肌が立つほどの恐怖が身を包む。

「私ら能力保持者には、何となく皆共通するものがある。」

「それは、、?」

「気配だよ。体の中で能力が渦巻く気配。強い能力ほど黒く悍ましく、そして、身を滅ぼす。」

近くにあったポーンはナイトによって弾き飛ばされた。カツンと音を立てて駒は転がる。体が硬直して動けない。

「まあ、そんな事は殆どないけどね。」

ホッと息を吐く。無意識に強張った頬が緩むのを感じた。

「私らが知っている少女の話はここまでさ。あんたにも思うところはあるだろうけど、話をした以上は我々と共に戦って貰うよ。」

エスは立ち上がる。ギシリとソファが重みがなくなった事により、音を立てた。コツリとブーツがなる。エスはそのまま扉を開きかけている。声をかけるのは今しかない。ただそう感じた。

「待って、、!私は能力者じゃない!貴方たちのようには戦えない。どうしたらいい?」

エスはキョトンとしていたが、ハハハッと笑って言った。

「アンタは私らの仲間だ。その言葉が分からないほど、馬鹿じゃないだろう?」


「やっと出てきやがった。」

舌打ちと共に、青年が歩いてくる。エスを待っていた訳ではないのか。

「アンタの部屋にさ、俺案内しなきゃいけないんだ。この後シーのじいさんと将棋打つ予定があんだよ。だから早くしろ。」

「名前、K助さんでしたよね?」

「はぁ?K助じゃねぇし。あん人なに間違い教えてんだよ。」

K助はムッと口を尖らせる。ガキだ、この人。20歳ぐらいだけど、ガキなんだ。そう感じた。

「俺はケイだから!助要らないから!あれはエスが勝手につけてんの!」

ケイは酷い、、と嘆いている。思わずクフフと笑ってしまえば、笑うんじゃねぇって怒られた。そんな事してたら、直ぐに部屋についた。

「アンタの部屋、ここだよ。ここで寝てここで起きるんだよ。」

木製の扉が開かれており、中には数は少ないものの家具が置いてあった。

「ベッド、机、卓上電気はあるから勝手に使えよ。トイレは廊下の突き当たりにある緑の扉、飯は全員で食う。」

「分かりました。」

うんうんと一人で納得したように頷き、ケイは部屋から出て行こうとした。いや、出て行こうとしたように見えた。ケイはくるりと振り向くと、こう言ってニカっと笑った。

「敬語はいらない。ケイって呼び捨てでいい。だから、俺もお前をリンって呼ぶ。」

「名前、リンじゃないよ。」

「漢字が燐凛だろ?だからリン、それかアルって呼ぶ。どっちがいい?」

「リンがいい」

私がそう言えば、ケイはズカズカとよってきて、ベッドに座った。

「なんで座ったの?」

「まだ話足りねぇから。もっとリンのこと知りたいなぁ?」

ニヤニヤと笑いながら、ケイが隣に座れとばかりにベッドを叩く。この人私の事おもちゃ扱いしてる。でも、座ってあげた。私優しい。

「シーのお爺さんとの予定は?」

「そんなもんいつでも良いしな。あの人だって、俺が一日来なくったってへこたれる様な男じゃないしな。まあ、リンと話がしたくなった。今、俺の中じゃコレが最優先事項。」

ニカリと笑って、ケイは腕を組んだ。


「ここの組織のやつは例外なく能力者でさ、リンみたいな子いねぇんだよ。それに、リンがいっちゃん年下だろうし。」

ケイは私の目を見て笑った。

「あの、さっきケイが話してた女の子が1番下じゃないの?」

「ああ、アイツねぇ。俺よりも年上よ、アイって名前。」

「年上、、?」

「能力者にはたまにいるんだよ。能力の発現で身体に何かの異常をきたしてしまう奴が。つまり、アイは小さい頃に成長が止まってしまった能力者って事さ。」

「ケイは?何か異常が発現したりした?」

目の前の男が目をパチクリさせたのがおかしくって、私は笑った。何がおかしいんだよ。とか言いつつも何も言わない彼が、なんとなく好ましく思えたりした。

「内緒だなぁ、それは。てか、俺に異常ある様に見える?」

「、、、見えない。」

「ま、異常ねぇしなぁ。アイの辛さとか分かってやれないしな。」

ケイはそう言うと立ち上がった。そしてニッコリと笑って言った。

「リンと話せて良かった。また後でな。仲良くしてくれ。」


「君にはお願いしたい事があってね。」

エスが私に話を切り出したのはある朝の事だった。私がこの組織に加入してから、二週間の時が過ぎた事だった。

「なんですか?」

私がそう聞けば、エスはニヤリと笑って言った。

「新しい能力者の勧誘さ。どうだい?」

「新しい能力者、、。」

「ああ、そうだ。現在我々には多くの能力者がいるが、国家には勝てん。我々が国家に勝つなど夢のまた夢さ。夢を現実にする為に我々は戦っている。君にもこの組織に所属している以上、仕事をしてもらわんといけない。」

「仕事はやりますが、一人でですか?」

「そんなわけないだろう?良い奴に相棒を任せたよ。」

私は良いやつとは誰なのか、検討もつかなかった。


「で、ケイだったわけね。」

「なぁにが、ケイだったわけね。だよ。なんだよ、不服か?」

「いや、ケイで良かったって事。」

「は?はぁー?何だよそれぇ。」

ケイの耳が多少赤くなっている気がする。

「あ、コレから俺たち相棒だから。」

「はい?」

後に教えてもらったが、この組織では相棒を作るらしい。しかし、メンバーが奇数人だった為ケイは組むことができていなかった。それが私が入り偶数人になった為、私と相棒を組むという。

「で、コレ今回勧誘する奴の情報な。」

ケイはそう言うと黒いバインダーを投げてきた。私はそれを取る。

「急に投げないでよ!落としたらどうするの?」

「まあまあ、そう怒んなって!早く、資料を見ろ。」

「こんなの怒んなくてどうするのよ。まあ、見るけど。」

見るんかーい!ってノリのいいツッコミは無視をして、私は資料に目を通した。

「藍田花火、、、?能力は、、、絶対記憶、、?何それ。」

「こいつの能力は、一度見たもの、覚えたものを絶対に覚えている能力だ。本人の意思関係なくな。」

「それってとても強くない?」

私はケイを見て質問を投げた。ケイは呆れたような顔をしたあと、ポツリと言った。

「コイツも強いって言葉だけで表せたら良かったのにな。」

「え?」

「あ“ーなんでもねぇよ。さあ、行こうぜ!」

ニカリと笑うケイ。なんだか誤魔化された気がして気分が悪かった。

「え、教えてよ。気になるわ。」

「何の事ですかねぇ。」

はははは、なんて笑ってケイはそっぽを向いて歩き出した。私はそれがまた、気に障った。しかし、それを追求する勇気もなかったから、そのままケイの後を追いかけた。少しの胸騒ぎを無視して。


暗い廃屋。椅子に座り小さな机に頬杖を突きながら、僕は夕立が降る外を小さな窓から眺めていた。手元にある本は少しだけ開いて置いてある。嫌な天気だ。それでも、目を離せずにぐだぐだとそこにいる。偏頭痛のせいで頭が痛いし、眼鏡がずるりとずり落ちる度に直す。少し大きすぎる眼鏡。多少ぼやける視界。人間は五感のうち視覚に大きく頼った生活を送っている。それなのに。変なの。くっきり見えない視界が僕を安心させている。答えは知っているのに、僕は無視を続けている。

僕にはいまだに覚えている事がある。それが、自分にとって好ましいものでもそうじゃなくても。選り好みなど出来ない。

「はぁ。」

ため息をひとつ。最悪な気分だけど、通常運転だ。


「ここ?」

私は大きな廃屋を見ながら眉を顰めた。蔦で覆われたその屋敷は窓を覆い隠してしまっている。その昔はさぞ美しかったのであろう庭も、今では雑草が生い茂て荒れ果ててしまっている。

「そうそう、ここに藍田花火がいる。」

「じゃあ、その花火さんを勧誘すればお終いね。」

「簡単にいけばね。」

苦笑いするケイ。私は訝しげに彼を見た。

「簡単にいけばって、、、。」

「だってさ、知らん奴らが急に来て怪しい組織に加入してほしいとか言ってきたら、リンはどう答える?」

「そりゃあ、嫌ですって答える、、、!?」

「気づいたか。」

ケイは呆れたような声で言った。そして、さあ行くぞと言って屋敷に踏み込もうとした瞬間、悲鳴が聞こえた。この屋敷で何かが起こっている。そう感じた。


首にヒヤリと何かが当てられて、僕はびくりと体を硬直させた。ひくっと口の端が強張る。チラリと後ろを見ると髪をピンクに染めた男がいた。

「、、、なんですか、コレ。誰なんですか、あなた。」

声が自然と震えて、くそっと悪態をついた。

「お前は神を信じるか?」

突如として投げられた言葉に動揺する。

「神?なんでまた、そんな失われたものを、、、。」

「いいから早く言え。」

男のナイフの刃が首に少し食い込む。ツーッと首を垂れる血の感覚がする。

「神は信じてません。僕が信じるのは神ではなく、自分の記憶ですから。あなたはご存知でしょうが、僕は見たもの全てを覚えています。見たものだけじゃない。五感を使った全てのものを覚えています。だから、僕の頭の中には僕の生きた歴史が全てある。それは信じるのに値します。」

「お前が生きた時代なんてたかが10数年だろ。」

「でも、裏付けのないものより、よっぽど信用できる。」

男が油断している。僕は男を蹴り飛ばし、部屋のドアを蹴り開けて走り出した。後ろは振り向かない。振り向いたら負ける。記憶力以外、全て常人と同じなのだから。

「舐めるなよ、クソ野郎‼︎」

男の呻き声と共に怒号がした。

舐めてたのがいけなかったんだ。急所を蹴り飛ばしたから、多少は時間がかせげていると思っていたんだが。爆音と共に肌がチリっと音を立てる程の熱風が襲いかかる。

「ああああああ!」

喉が焼けるような痛みに襲われた。足は止めなかった。


突然屋敷の2階が爆発音と共に、真っ赤に燃え上がった。窓が一斉に割れ、赤い瓦が落ちてくる。

「な、何これ。どうなってるのよケイ!」

「は?俺もわかんねぇよ!」

ケイの顔には冷や汗が浮き出る。

「、、、藍田花火が死んじまう!」

ケイはそう叫ぶと、炎をあげて燃えている屋敷に飛び込んだ。私は焦った。飛び込んだら死んでしまうかもしれない。でも、見知らぬ場所でたった一人など嫌だ。タンッと心の中とは裏腹な軽い音を立てて屋敷に飛び込んだ。前方には螺旋階段が上の階へと伸びていた。手すりは上質な木で出来ており、廊下には赤いカーペットが敷かれていた。私は眉を顰めた。

「何これ、、、。」

赤いカーペットでもわかる赤黒い跡が点々と続いている。それは,引きずられた様な跡でもあった。跡は一階へと続いている。不審に思って、私は跡を辿ることにした。ケイの事だからきっと場数は踏んでいるはず。憶測で物事を決めるのは酷く危険だったが、大丈夫だと自分に言い聞かせた。ケイなら何故か無事な気がした。

後にこの判断はある意味で、間違いであったのだが。


「くっそ、、!」

煙が充満した2階廊下を走り抜ける。割れた窓の破片が飛び散り、光に当たってキラキラと輝いている様子は、まるで危険な場所ではないかの様であった。花瓶であった物が倒れて、飾られていたであろう生花が散らばっている。

「どこだ、、!藍田花火、、!」

叫んで少し煙を吸ってしまい,酷く咳き込んだ。それでも名前を呼んで俺は走る。場数は踏んだつもりだ。

でも,火事現場は経験した事なかった。ハンカチを口に押し当てても、やはり多少は煙を吸ってしまう。時間との勝負だ。


赤黒い血の跡を追いかけると、地下室へと続いていた。火事なので密室に入るのを避けたかったが、この先に花火さんがいるのなら。私は階段を降りていく。靴の音が響く。もし敵がいたらどうやって戦えば良いのだろうなんて,今更考えたってしょうがない。階段を降りた先には部屋が幾つかあった。覗いてみたりしたが、蜘蛛の巣と埃だらけで人がいそうにない。一つだけドアが閉まっている部屋があった。私はそっと耳を澄ました。


「、、、僕を,どう、、する,気だ。」

「おっ,敬語が外れた。」

「て,当てなんて、、して,,。」

「だって俺たちは、お前の能力が欲しいんだ。」

「ッそれって、どう、いう、、、。」

「今、世の中は最悪だ。俺たち能力者は日々虐げられている、、。だが、神父サマが言うには能力は神がくれたギフトで、俺たちはただの人間よりも神に愛されたサイコーな人間なんだとよ。」

「、、、そんな、バカ、な話。」

「まあ,話を聞けって藍田。お前の能力は非常に便利で、有効的だと神父サマは判断した。俺たちは大事な情報を機械,書類などで保存している。だがな、それらが政府の犬どもに持ってかれっちまえば、たちまち俺らの能力は知れ渡り、俺らの望む世界は作れない。」

「だか,ら、僕の、、能力をメモ、リとして使いたいと。」

「おー,正解だよ藍田。お前さえ手に入れっちまえば、全部お前自身に情報を記録させる事が出来る。情報戦なんか知ったこっちゃない。政府どもは俺たちの情報を手に入れられない。お前を手に入れない限りはな。」


花火さんが殺されないのはわかった。でも、藍田花火を手に入れるのはこちらだ。私はドアを開けた。開けた先には目を見開く藍田花火と舌打ちをした男。

「花火さんは渡さないわ!」

私は大きな声で叫んだ。

「誰だ?てめえ。」

男は眉間に皺を寄せながらも、奇妙にも笑っていた。

「私が誰だっていいでしょう?私たちは花火さんを勧誘しに来たの。」

私はそこまで言って、しまったと思った。花火さんは目を見開いて驚きを隠そうともしていなかったし、男に至っては笑顔が消えていた。

「藍田花火は俺たちのものだ。餓鬼はさっさとおうちでママに子守唄でも歌ってもらえ。」

男はそういうと、手を前に突き出した。そして、男は小さく「あばよ」と漏らした。大きな光が爛々と燃えている。私は恐怖で目を瞑った。大きな音がした。

しかし、身体が吹き飛ばされると思ったのにいくらか経っても全くその様子がなく、私は目を開いた。私は男に殺されそうだと思ったのに、目の前には黒い壁がゆらゆらと揺れていた。私は驚きで言葉を失った。一体誰が、、、。影のようなものに違和感を覚える。しかし同時に懐かしさを覚えた。

「、、、チッ、能力、者か、よ。」

驚愕した顔をみせながら男はそう言った。私は能力者では無かった。しかし、部屋には私と花火さん、そして目の前の男しかいない。私の動揺を誘ったのはそれだけでは無かった。

影の様な物が男の腹部と足に突き刺さっている。取り止めなく流れ続ける鮮血に、私は目眩を覚えた。男は苦痛に顔を染めている。服が赤黒く染まっている。

「ああ、、、。」

私はそう声を漏らした。何が起きたのかすっかりわからない。男はフラフラと後ろへ後退していき、窓枠に寄りかかった。そしてポツリと呟いた。

「ああ、神よ。我に、、、我に御慈悲を。」

そして男は影を引き抜き、笑った。何故男が笑ったのかはわからない。男は手をもう一度前へ突き出した。私は今度こそ、死を覚悟した。男の手にはまた光が集まっていた。その後、大きな爆発音はしなかったものの、部屋に光に溢れた。私は眩しくて目を咄嗟に抑えた。明るさが無くなった後、私はゆるゆると目を開けた。そこには男の姿はなく、揺れるカーテンがあった。私は腰が抜けてしまい、ヘナヘナと座り込んだ。花火さんは私に目を向けると言った。

「貴女は一体、、、。」

しかし、私は笑う事もできないほど疲弊していた。目の前に燃える炎の色と、男の腹から流れ出る血が目を瞑っても映し出される。最悪な気分だった。


ケイが私たちの元に来たのは、男が去ってから5分ほどした頃だった。玉のような汗をかいていて、私を一瞥した途端に顔を歪ませた。そして、私の側に立っていた花火さんを見た。

「こんにちは。」

花火さんはそう言った。ケイは眉間に皺を寄せて彼を睨みつけたが、花火さんは知らん顔をした。

「この屋敷は、もう時期崩れる。燃えてるんだ。だから、、」

ケイはそういうと、そのまま私を抱き抱えた。恥ずかしさに顔を赤らめさせる余裕は無かった。はぁ、と溜息をついたケイはドアを開けて走り出した。階段をひとつ登る。右,左,幾つかの角を曲がり、そして重厚なドアを開いた。あまりの眩しさに目を灼かれてしまいそうな感覚になる。外は気持ちの暗さと反対に、酷く明るかった。


「燃えてしまいましたね。」

藍田花火はそう言って、淋しそうに笑った。俺は青白い顔をしているリンを見た。何があったのだろうか。消防車の音が近く聞こえる。俺たちはここを去らなければならない。面倒ごとはごめんだ。

「あー、藍田花火。」

「はい。」

藍田花火は俺の方に顔を向けた。割れた眼鏡のレンズ。顔に残る切り傷に火傷痕。腕の傷は応急処置がなされていた。

「俺たちと共に来てほしい。それに、リンが何でこんな事になってるのか教えろ。」

「はい。」

藍田花火の返事を聞くや否や、俺は走り出した。藍田花火はその後をついてくる。

「、、、ごめんね。」

リンのその言葉に、俺は何も返せなかった。


「君の能力が開花したんだね。そりゃあ、、、良いことではないか。」

エスはそう言って満足げに頷いた。

こうなるに至ったのには理由があった。


私はケイに連れられ基地へと帰還した。エスが笑顔で迎え入れて、花火さんは困惑しながらもそれを傍受した。エスは私に早く寝るようにと言いつけ、花火さんを連れて奥に部屋へと入っていった。ケイは私に「早く寝ろよ。」と言うと、心配そうな顔をしてくれた。「うん。」と言った私の声は、彼に届いたのだろうか。その日はそうして終わった。終わると思っていた。

ベッドに潜り目を瞑れば、男の苦しそうな声が聞こえてくる。燃える屋敷に、流れ出る赤き血。服を切り裂く影。煙の匂いと鉄臭さ。揺れるカーテンに割れた花瓶。影の先には男の腹。影は私が放ったかのようにそこにあって、、、。

急に胃液が戻ってきた。気持ち悪さが押し寄せる。私は飛び起きると、そのままトイレに飛び込んだ。トイレにしがみつき、ゲエゲエと吐き続ける。

赤い色が離れない。鉄臭さが抜けない。何度も何度も吐いて胃液すら出なくなった頃、私はフラフラと歩いて部屋へ戻った。身体が重くて仕方がなかった。

いまだに耳元では男の苦しむ声が聞こえてくる。真っ赤な色がずっと消えない。布団に潜って、私は無理やり目を閉じた。そうして私は一夜を超えた。


翌日、私は最悪な目覚めの中にいた。胃痛に頭痛、気分の悪さは変わらずまとわりついている。私は汗で湿った服を脱いだ。身体を起こすのも苦痛だったが、花火さんがどうなっているのか気になったからだ。着替え終われば、私はドアを開けて階段を降りていった。下のテーブルにはエスとケイ、そして花火さんが座っていた。

「やあ、おはよう。」

エスは満面の笑みでそう言った。

「おはようございます。」

昨日吐いたせいで、喉が痛む。ケイは私を見て眉を下げた。そして、現在に至る。


「何が、良いことですか、、、。」

私はそう言った。エスは不思議そうな顔をして私を見つめた。

「藍田花火、、、彼に聞いたよ。謎の男を君が追い払ったんだってね。素晴らしい事ではないか。」

「全然良くないですよ。」

「何を言うんだ、君は。私はね、君の能力に感動しているんだ。」

「はあ、」

私はそう言うしか無かった。

「藍田花火に聞けば、君は影のようなもので男を退治したらしい。その影は男の大きな爆発を防ぎ、そして男の腹と足を貫いたんだろう?なんて素晴らしいんだ!君の能力は政府に対抗する事ができるほど素晴らしい!」

エスは私の能力を憎たらしいほど褒めちぎった。花火さんは私を見た後、少し考えて手を上げた。エスは彼の行動に気づくと、「なんだ?」と問うた。

「貴女の能力は素晴らしいものでした。しかし、貴女自身はひどく脆く見えました。僕は知っています。その能力をずっと前に一度見た事があるんです。」

エスは「ほお。」と声を漏らす。

「貴女の能力はまるで、、、」

「やめて!!!」

私は自分の大声にひどく驚いた。花火さんは困惑した顔で私を見る。

「やめて、下さい。」

私はもう一度呟いた。鮮明に昨日のことを覚えている。もう、どうにかなってしまいそうだった。

「貴女の能力はまるで、鏡花という政府の暗殺者の方にそっくりだ。」

藍田花火はやめなかった。ケイは「おい!?」と言ったが、エスは笑った。

「彼女の能力は影を操るものだった。僕は覚えています。」

花火さんはそう言うと、近くにあった本を読み始めた。最悪な気分だった。

「そうだな、君の能力は藍田くんが言うように鏡花の能力にそっくりだ。それはそれは素晴らしいほどに似ているね。君たちらしいよ。」

ケイは舌打ちした。そして言った。

「リンがやめろって言ったのに、お前らはやめなかった。そういうところが嫌いなんだよ!」

私は笑い声を漏らしてしまった。面白くもないし、楽しくもない。それなのに、おかしくって仕方が無かった。ケイが目を見開いて私を見ていた。花火さんは知らん顔をして、じっと本を読んでいる。

ケイは私の手を引いて、「クソっ」と言った。エスは笑いながらも、「また後で。」と言ってきて、ケイは眉間に深く皺を寄せた。椅子から立ち上がると、私を連れてケイは歩いた。その手が暖かくて、私は離したくないなぁなんて、呑気な事を考えた。


一週間も経てば色々落ち着いてきた。私は悪夢を少しずつ見なくなったし、花火さんは基地のでの生活に馴染んできた。それでも、やはり赤は消えず燻り残っているが。自分の中で色々と整理できたのだ。そんな感じだった。

土曜日、私は街に出ていた。賑やかな駅前を通り過ぎて、小さな書店に入った。本の匂いに囲まれて、私は小説を何冊か買った。そして、近くの公園で少し休憩しようかとしていた時だった。見知った顔を見つけて、私は迷わず話しかけた。

「花火さん。」

彼は顔を上げると、ああ、と笑って「こんにちは。」と言った。

「こんなところで何をしてるのかしら。」

私はそう問うた。

「本を読んでるんですよ。」

花火さんはそういうと、ほら、と手に持っていた本を見せてきた。「シャーロック・ホームズシリーズ」だ。

「そういうのが好きなの?」

私は彼の隣に座りながらそう聞いた。彼はかぶりを振って言った。

「いいえ、そういうわけじゃないんです。イギリスには友人がいてね。その人がコナン・ドイルを好きなんです。だから、少し読もうと思って。」

「イギリスの友人って?」

「僕は昔ヨーロッパの方で暮らしていた事がありました。えっと、フランスの

パリです。エッフェル塔のある。そこで、2、3年ほど過ごしました。」

彼は懐かしそうに目を細めた。

「そこで、イギリス人の方に会ったんです。僕は当時から本を読むのが好きでして、彼もまた、同じだったんです。僕は、彼と話した内容は全て覚えているんですが、彼がシャーロック・ホームズシリーズがお好きだったなぁと。ちょっと癖のある英語でね、僕は彼の英語をそのまま覚えたからやっぱり癖のある英語になってしまって。」

「そのイギリス人の方はどんな人だったのかしら。」

「彼はね、明るい人でした。少し皮肉屋でしたけど、好きな物には一生懸命でして。物書きになりたいと言ってました。勉強のためにフランスへ来たって。」

「じゃあ、その人の本って出版されてるのかしら?」

「いいえ。されてません。」

花火さんはそう言った。

「物書きさんにはならなかったのね。」

「ええ、そうですね。彼はなれなかったですね。」

「なれなかった、、、?」

私は不思議に思ってそう繰り返した。

「出版社に自身の小説を持っていこうとしていた時に、事故にあって亡くなったと聞いています。」

「亡くなった、、、。」

「僕は彼の死を知った時は驚きましたよ。でもね、涙は出なかったんです。不思議ですね。彼の事は好きだったのに、僕は悲しみの一つも得られなかったんですから。」

彼は私の目を覗いて言った。

「ですから、貴女の知らない人の死でそんな顔なさらないで。そういう優しさは毒ですよ。」

彼は困った顔をして笑った。私は笑う気にもなれなかった。イギリス人の方が不憫で仕方が無かった。

「彼の小説は彼の死後、友人が出版社へ持っていかれたそうです。しかし、何かがダメだったんでしょうね。彼の小説は表には出ませんでしたよ。」

「小説の内容ってどんなのだったのかしら、、?」

「彼がフランスで過ごした時のお話だそうですよ。」

あっけらかんに言い放った彼は、スッと立ち上がった。驚きと複雑な感情の私に彼は手を差し出して言った。

「さ、帰りましょう。今日の夕飯はパスタですよ。」

私は一瞬反応できなかったが、差し出された彼の手を握った。スッと立たされて、温かかった手が離れていく。それに少し物寂しさを感じた。彼は歩き始めた。私は花火さんを追って歩き始める。並んで歩く道中、私は彼に問うた。

「さっきの、イギリス人の方のお名前は何かしら。」

彼は少し驚いたような顔をしたが、私に苦笑いして言った。

「オリバー・テイラー。よくある名前ですよ。」



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面白い・続きを読みたいなどと思って頂けたら、嬉しいです。フォローやレビューを頂けると幸いです。作者が泣いて喜びます。更新頻度も上がると思います。

他にも小説をかいておりますので、是非そちらの方も読んで頂けると嬉しく思います。


以上too*riからでした。

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