第25話 桃犬会談⑧
「是非これから同盟相手としてよろしく頼む。」
桃太郎は静かにそう言い、犬の帝王を城門まで見送りました。城門では、農園の従者たちがすでに出発の準備を整えており、桃太郎は彼らに命じました。
「犬帝国様一行を犬帝国まで無事に送り届けよ。」
犬の帝王一行を送り出した後、桃太郎は再び城へと戻りました。いつもならば堂々とした姿で玉座に腰掛ける彼でしたが、このときばかりはその身体が限界を迎えたように、重く玉座に身を崩しました。
それを見た側近の柿万次郎と栗鳥栖は驚き、すぐさま駆け寄りました。
「桃太郎殿! ご無事ですか!」
万次郎の問いに、桃太郎はかすかな微笑みを浮かべて応えました。
「心配するな。犬の帝王との交渉中は気力で持ちこたえただけだ。」
こう強気で言ってみたはいいものの、すこし手を膝に置き、浅い呼吸を何度かした後
「実を言うと…この身体は深手を負っていて、今にも倒れそうだ。」
と桃太郎は弱音をもらした。その姿を見て、側近たちは息を呑み、また、桃太郎の傷を目にしてその深刻さを悟りました。桃太郎は続けて言いました。
「これから一週間ほど眠らねばならぬが、その前に、伝えておかねばならぬことがある。」
そう言うと、彼はまず柿万次郎に語りかけました。
「万次郎よ、わしが国を守るために行方不明となっていた五ヶ月間、その間に起きた出来事を教えてくれ。」
万次郎は少し躊躇しましたが、主君の命令とあれば逆らうことはできません。彼は声を落とし、桃太郎が不在の五ヵ月間のことを丁寧に報告しました。
報告を聞き、桃太郎は深く頷き、重々しい声で言いました。
「理由はわからないが、阿片を悪用した人間を許してはならないこと、そして、阿片を利用したものに対して鬼たちが怒りをもって、裁きを下したこと、まだ阿片を悪用した人間の一部が生き残っていることを伝えるものが俺の心の中に存在している。そんな気がする。」
と言い、さらに続けて
「そして、万次郎の報告を聞く限り、その阿片を悪用した人間の残党は俺のおばあさんだろうな。」
その衝撃的な告白に、栗鳥栖は目を見開きました。
「なぜ、そんなものが心に存在するのですか?」
桃太郎は微笑みながら、冗談めかして答えました。
「もしかすると、俺も鬼の血を引いているのかもしれんな。」
そう言って笑う桃太郎。しかし、側近の二人はその言葉を笑うことができず、ただ苦い表情を浮かべるばかりでした。
桃太郎は続けました。
「一週間後、目覚めたら巨大樹へ向かう。そのときは二人も同行してくれ。そして、青梨亜成を呼び寄せておいてほしい。もっとも、あいつのことだから、すでに巨大樹に向かっているかもしれないがな。」
最後に、
「頼むぞ」
と静かに告げると、桃太郎は目を閉じ、長い眠りに入りました。
一方その頃、桃太郎農園東、地下の隠し通路から這い出た老婆がいました。その顔には邪悪な笑みが浮かび、手に握る杖を大地に叩きつけて言いました。
「覚えておけ。この世界は、いずれわしが支配するのじゃ!」
その声は夜風に乗り、遠く桃太郎城の方角へと消えていきました。おばあさんの悪意はまだ終わりを迎えておらず、新たな波乱が静かに幕を上げようとしていたのです。
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