第6話 桃犬大決戦③

 桃太郎農園は現在の北海道ほどの大きさの領土を支配しており、人口約十万人ほど暮らしていました。その桃太郎農園の西には犬帝国があり、あらゆる種類の犬が約一万匹ほど暮らしていました。犬は社会性が高く、桃太郎農園と同じく、犬の帝王が頂点に君臨し、他の犬たちにもそれぞれ階級があるといった支配体制にありました。

 犬たちは集団での狩りの能力が非常に高く、狩りによって手に入れた他の動物たちの肉を他の国々と貿易することによって利益を得ていました。そして、ここ近年、桃太郎農園が大きくなり、かつ、食生活の体系を菜食主義にした影響により、動物たちの個体数が増え、狩りがしやすくなっていました。狩りがしやすくなり、肉を大量に得ることができるという状態から、犬帝国は利益を莫大に増やし、大きく成長していきました。


 桃太郎農園は菜食主義をとっていたので、肉の輸入は禁止されていました。しかし、いつの時代も、禁止されたものに人々は魅惑されるもので、桃太郎農園の人々は犬帝国と肉の密輸入を行っていました。この密貿易は菜食主義が始まった直後から行われていましたが、犬側の見た目が変わらない一方で、桃太郎農園の人々は見る見る筋肉量が減少し、やせ細っていきました。

 その状態を見た犬たちはあることを悟りました。

「人間って野菜だけじゃしっかり生きていけないんだ…」


 この話は桃太郎農園との密輸入を取り仕切っていた団体から、犬の帝王へと報告されました。犬の帝王はまさに桃太郎農園を攻め入る時であると考え、犬帝国民を集め、演説をしました。

「桃太郎農園の人間はやせ細り、弱くなっている!全員食い殺し、やつらの土地を得れば、我々は五倍の家を得ることができるだろう!我々はさらに有利に狩りを進め、国は肥えるだろう!いまこの時、桃太郎農園に攻め入り、すべてを滅ぼそうではないか!」

 犬帝国民はこの演説に呼応し、一致団結しました。犬たちは人間たちが夜寝るという習性があること、数的不利を考え、夜に奇襲をかけることにしました。


 月の見えぬ静かな真夜中、奇襲は決行されました。桃太郎大農園の人々の家に血気盛んな犬たちが襲い掛かりました。家の大黒柱である男たちは、桃太郎の意思教育のもと、家族を守る強い男としての心持ちで犬に殴り掛かりますが、弱くなった筋力では狩りを主とする犬にはかなわず、無残に腹から食い殺されました。それを目の前で見た女子供たちの悲痛な叫びが響き渡りました。

 桃太郎農園にも、桃太郎を長とする防衛軍が存在しました。防衛軍はその悲痛な叫びを聞き、奇襲にあったことを悟りました。最初に襲われた場所は犬帝国と隣接する西部であったため、桃太郎はその場にはいませんでしたが、西部軍は急遽集結し、犬帝国軍と戦いました。しかし、結果は軍になっても同じことでした。貧弱な筋力に勝利なし。死体のみが増えるばかりでした。

 桃太郎西部軍長 柿万太郎はこの戦況を見て、敗北を悟り、一刻も早く桃太郎に伝え、多くの国民を守らなければならないと考えました。そして、桃太郎農園西部地域全体に伝えました。

「我が西部軍は、この場を離脱し、桃太郎へこの奇襲を伝える!多くの民が、力を合わせ、できる限り、犬どもと善戦しろ!一刻のときであろうとも稼げ!その一刻が桃太郎農園の国民の命を救うことになる!」

 桃太郎西部軍は、多くの同胞や家族を残し、くやしさに歯を食いしばりながら、桃太郎のもとへと馬を進めました。

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