五冊

金子ふみよ

第1話 火葬

 あなたの好きな本、5冊は何ですか?

 こんな質問がある。「好きな」の部分が「大切な」とか「印象深い」とかに置き換わることもあるが、大意としては同じだ。

 では、私にとっての5冊は、と考えてみた。浮かんでこなかった。「好きな本て、どの程度の好きを指してんの?」とごねてみるのは、5冊を選びようもない裏返し以外にはない。


 ある時、又従弟が亡くなった。父が病床だったので、私が参列することになった。納棺に立ち会うのも初めてだった。葬儀社のスタッフが仕切って案内を告げる。アルコールで湿らせたコットンで亡骸の頬や手の甲を撫でる。花を顔や体の側に置く。老齢な親戚の動作を横目で見ながら習った。どうもぎこちなくてしかできなくて、背中や首回りが熱っぽくなった。脇あたりのシャツが濡れてしまってないか気になったが確認するわけにもいかない。「故人の愛用の品がありましたら」とスタッフが告げると、又従弟がよく被っていた帽子やお気に入りだったと言う衣類が収められた。サングラスはダメだった。出棺。外は雨になっていた。霊柩車に乗せられて移動。火葬場に着く頃には本降りになっていた。スタッフが案内する。親戚たちが従う。私は習うしかなかった。合掌。いよいよ棺が火葬される。焼き上がるまでには時間がかかると言う。三々五々となる親戚。私は身長よりもはるかに大きな窓に寄った。雨が降っていた。ちらと道路を見た。幹線道路にはこちらを視野に入っていないだろう色とりどりの自動車が滑って行く。今、又従弟は燃えている。

 ふと、そうかと納得してしまった。好きな5冊と言う言葉の意味を。私にとって好きなというのは、私の棺に入れてほしいと言う意味になると言うことを。

すると、何冊がすぐに浮かんだ。

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