オタクな精霊様と呪わ令嬢

夜缶

呪われた令嬢、オタクで転生者な精霊様に救われる

私の名はセリス・ランディス。



バルレアンという場所に令嬢として何一つ不自由ない生活をしていた今の私は、薄汚れた服を纏った見窄らしい奴隷。



この姿になった理由は、活性化した魔物達がバルレアンに侵攻し、私を含め大勢の人々が襲われたからです。



屋敷にいたお父様もお母様も私を慕ってくれた従者も、みんな殺されてしまいました。



なのに何故私だけが生き残っているのか。


その理由を私は、魔物達の会話から牢屋越しで偶然知ってしまいました。


私を生かした理由は、私の身体が目当てらしいのです。


吐き気がします。


魔力があるせいで魔族の繁栄のために生かされてしまうなんて、そんなのあんまりです。


私の心の声が漏れたのか、魔物達は私を見て嘲笑っています。


こんな力、欲しくなかったです。


いっそのこと誰か、私のことを殺して──。


「同人誌でやれや魔物どもおぉおおっ!!!!」


そう願った時、魔物達が壁へ吹っ飛びました。


魔物達はビクリとも動かなくなりました。

何事です。


混乱する私の目の前には、金髪碧眼の精悍な顔つきをした青年が牢屋の前に立っていました。


「神!!」


宗教家の方?

ですが、神父様のような服装ではないですよね……?

私に話しかけているのでしょうか。


「えぇっと──」

「オウフ!!」


私に話しかけているのか問いかけようとしたら、金髪の方が倒れてしまいました。

大量の涙を流しています。


「推しに……話しかけられた……!」


オシ、とは私のことでしょうか。

話しかけられた、ということは私に対してあの言葉を放ったのは間違いありません。


「あ、あの?」

「はっ!? 今助けます!」


私が閉じ込められているこの牢屋は、特殊な魔法が使われています。

そんな簡単に抜け出すことなんてできません。


「ふん!」


しかしそんな扉は、彼の手によって簡単にこじ開けられてしまいました。

えっえっ?

あら?

まさかこの人、人間じゃないのでしょうか。

混乱している間もなく、金髪の方が私を急に抱き上げました。


「きゃあっ!? 一体何を!?」

「掴まっててね!」


彼はそう言った直後、天井へ真っ直ぐ飛び上がりました。


「ぶつかってしまいます!!」

「大丈夫!!」


彼はそう言いましたが、私はそれでも恐怖心か

ら目を瞑ってしまいます。

しばらくしてから目を開けると、夕陽が私達を照らしているのを確認できました。

彼はゆっくりと地上に降り立ち、私を降ろしました。

久方ぶりの地面を踏みしめました。

余韻に浸りたい気持ちが強いですが、それよりも彼のことです。


「助けていただき感謝いたします。貴方は一体……?」


私が問いかけると彼はニカっと素敵な笑顔を浮かべてから、答えました。


「俺はルルーク!! オタクです! 多分転生者です! 一応精霊です!」


思っている以上に情報量が多かったです。

精霊?

転生者?

オタクって何でしょう?


「あ、ありがとうございますルルーク様。私はセリス・ランディスです」

「えぇ存じ上げてますぅ! まさかマジで会えるとは──」


ルルーク様が続けて何かを言おうとしてましたが、急に止まってしまいました。


「どうされました──ってきゃあ!?」


彼の頭が血塗れになっていました。

周囲が暗くなっていたせいか、すぐに気づけませんでした……。

まさか、天井をその頭で貫いたというの……!?


「か、回復魔法を!」

「ふふ──」


大変です。

ルルーク様が目の前でバタンと、前のめりに倒れてしまいました。


「ルルーク様ぁ!?」

「我が生涯に一片の、悔いなし」

「私が悔やみますっ!!」


私は回復魔法を彼に必死で唱えました。

この殿方は一体なんなのでしょう……。



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