第9話 限界突破
「ねぇ、そこのスイカどれよりもみずみずしくて美味しそう」
突然、俺の食べているパフェに目を向けた櫻場は、よだれをだらりと垂らす。
「スイカなんて、どれも変わらないだろ」
「いや違う。それは他のどれよりも私には輝いて見える」
「スピリチュアル発言はやめた方がいいぞ?」
目を落としてパフェを確認するが、俺の目にはどれも同じようにしか見えない。
「ちょうだい、それ」
「まぁいいけど」
「ほんと?」
「そんなに欲しいなら、別にあげるけど」
「やったぁ! このスイカは口に入った瞬間に甘すぎて私が昇天する。直感そう言ってる!」
その直感、絶対に外れると思うぞ? 知らんけど。
まぁ、俺にとってはどれも変わらないので、一つくらいあげても何も問題はない。
「ほら、取っていい――」
「あーん」
櫻場の前に俺のパフェを差し出す前に、櫻場はこちらに顔を向けて口を開ける。
「ほら、早く。私、待ちきれないの」
片目を開けて、櫻場はお目当てのスイカを指差す。
いきなりのあーん展開⁉
しかも、言葉だけを切り抜けば、俺はナニかをおねだりされている状況なんですけど⁉
すごい……妄想が膨らむ。
美少女が目の前で目をつぶって口を開けている。さて、どうしようか。
角切りのスイカよりも、もっと長細くて硬くて太……いや、なんでもない。
「何してるよ? 早く私の口にちょうだいよ」
その言葉が意味深なことを理解しているのだろうか。こんな言葉を美少女から言われてしまったら興奮しないわけない。
煩悩を取り払うべく、早くしてあげたいのは山々なのだが……。
――ガタっ……ガタガタガタガタっ
テーブルが怪奇現象のようにカタカタとずっと震えている。
杏はまた特技のように下半身だけ動かしているのかと思ったが、今は体も小刻みに震えている。
これは流石に我慢の限界のようだ。
自分の好きな人が、ライバルの女子にあーんされようとしているのを、黙って見ているわけにはいかないらしい。
そのまま襲ってこなきゃいいけど。
でも、この状況……あーんしないわけにはいかない。
杏にあとで殴られる覚悟をして、俺は櫻場に奉仕しようではないか。
櫻場が指差したスイカをスプーンの上に乗せると、そのまま櫻場の口元へ運ぶ。
スプーンの下側が振れた刹那、
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
絶叫と共に杏は椅子から立ち上がり、俺の手を掴んで自分の口に突っ込む。
「……」
「……」
俺と櫻場は、その杏の必死な姿を唖然として見ていた。
ここまでずっと動かないように耐えたが、その我慢も限界突破してしまったようだ。
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