第5話 鎮座
特にこれといって変わったことはなく日常を過ごし、翌日を迎えた。
放課後、俺と櫻場の姿は駅前にあった。
「あれ? 杏ちゃんは付いて来ないの?」
「先に席を取ってるらしい。ちなみに理由は知らない」
あいつなりに気を遣ってなのか、何かを企んでいるかは知らないが、そう学校終わりに連絡をしてきていた。
変なことしてなきゃいいんだけど。
「じゃ、二人で向かおっか」
「お、おう」
とりあえずは、現地に向かい始める俺たち。
櫻場とは何度か二人で会ったことがあるが、まだ慣れない。
No.2とは言ったものの、芸能界に居てもおかしくないくらいの美少女なことは確か。あと、胸もデカいし。
そんな櫻場の隣を歩くものなら、自然と注目の的になる。
すれ違いに「かわいい~」だの「あんな子と付き合いたい」だの「おっぱいおっき~」などと聞こえてくる俺の身にもなって欲しい。
ちなみに、杏と居るときにも同じようなことになるのだが、あいつの場合は華奢に振舞っているのではなく、俺に、
「ほらほら、美少女の隣を歩くと優越感に浸れるでしょ」
とドヤ顔で言ってくるのでマジで気にしていない。
あとはそうだな。櫻場とはまだ親しいと言えるほどの仲ではないからだな。
隣の席ということで仲良くなった友人。杏のように何も包み隠さず話せるような仲ではないから、自然と緊張してしまう。
あと、俺が単純に異性に耐性がないから。
ん? 杏は異性として見てないぞ?
いや実際少し見てしまっている部分はあるけど、あれはケダモノと自分に思い込ませている。
「今日も新作スイーツはね、スイカのタルトなんだよ! ドリンクもスイカが使われててさ、夏を感じるよねぇ」
「スイカ、いいな。中々スイーツとして出てこないから楽しみ」
目と鼻の先に看板が見えると、あれが新作だよと指を差しながらテンションが上がる櫻場。
こういうちょっと子供っぽいところ、ホントに可愛い。そりゃモテて当然だ。
お店の前に着くと、自動ドアをくぐって店内へと入る。
「杏ちゃん、どこに居るのかな?」
「さぁな。適当に座ってるんじゃないのか?」
どうせ動くな喋るななんて約束を忘れて、テーブルに突っ伏してコーヒー飲みながらスマホでもいじっているのだろう。
「あの~、お客様?」
宇田川の名前で席があるか確認しようと思ったが、店員はどうやら取り込み中らしい。
「最初の注文をしていただきたいのですが……」
……なんか嫌な予感がするな。ものすごく嫌な予感。
店員の問いに答えない人など、この世で存在するわけがない。
もし存在するなら、喋れない人しかいない。
となれば……。
チラリと、そのやり取りがされてる席を覗きに行く俺たち。
案の定、嫌な予感は的中。
「……もう恥ずかしくて言葉が出ない」
「まさかあそこまで徹底してるとは……ね」
四人掛けのテーブル席には、店員の問いかけをガン無視し、鎮座している杏の姿があった。
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