2-4 くねくねを捕獲する!

『そこ、真っ直ぐ歩いて、面舐ちゃん、右に曲がってるよ』


 歯朶さんと電話を繋ぎながら、目隠しをした男女が田んぼの畦道を歩いている。

 都会でこんなことやっていたら通報される。今でも、何も知らない地元の人がいたら通報されるかもしれない。


「歯朶さんの指示って大丈夫なんですか?」

「目測において、歯朶ほど信頼出来るやつは居ない」

「あいつの目測はびた一文ずれない」

『面舐ちゃん、もっと左、あと一歩で落ちるよ!』

「ひっ!」


 悲鳴をあげて咄嗟に足を引っ込めると、電話越しに歯朶さんがケラケラと笑い出した。やっぱり、この人、苦手だ。根本的に肌に合わない。


『そこから、面舐ちゃんは四歩、喰村は三歩で止まって。曲がり道だから』

『止まったら、その場で90°左に回って』


 言われた通りに四歩で歩み、足を止める。言われた通りに左に回った。

 視覚情報がないから想像の何倍も体を動かすのが難しい。自分が正しく動かせているのかも心配だし、普通に歩くよりも何倍にも疲れてしまう。


『喰村、一歩出て』

『よし、そこから十五歩歩いて。音が聞こえると思う』


 十五歩か。一歩一歩確かめながら歩いていくと段々と音が聞こえてきた。

 ぶんぶん、ぶんぶんと何かが風を切る音、私の近くでくねくねが蠢いている。

 こんなに近くにくねくねが居る。もしも、くねくねが私たちに襲いかかってきて、それを見てしまったら、私たちは終わりなんだ。

 命の終わりが隣にある。とても怖い。


「襲いかかることはないから心配するな」

「知能がかなり低い。くねくねと踊ることしか出来ない」

「人が発狂するのも人間の脳の問題だ。くねくね自体に害はない。安心しろ」


 喰村さんの言葉を信じるしかない。不安は残るが、彼はくねくねの生態を知っている。何も知らない私が不安に押し潰されて動けなくなるべきではない。


『面舐さん、そこで止まってて、喰村はそこから三歩』

『面舐さんは、オレが1って言ったら、目の前のくねくねに抱きついて』

『喰村は45°回転して、2のタイミングでナイフを自分の首の高さに打ち込んで』

『じゃ行くよ。1……2』


 歯朶さんのタイミングでくねくねに抱きつく。くねくねと動こうとするのを必死に抑え込む。

 数秒立って2と言われ、恐らく喰村さんはナイフを刺した。それでもくねくねと動いている。


『急所外しましたね。刺したナイフで横に切り裂いてください』


 歯朶さんの指示と共に、くねくねが左に強く揺れると共に力を失い、だらんと地面に落ちた。


「もう大丈夫ですかね?」

「大丈夫だ。まだ、視界は塞いでおけ」

「死んでもくねくねの見た目は変わらない。死体でも発狂する」

「動きが原因じゃないんですね」

「見た目と動きが相乗して人が狂う。動きがない分、幾分かマシだが、それでも人が狂うレベルだ」

「見ないに越したことはない」


 喰村さんの方からボストンバッグを開く音が聞こえた。手筈通りに地面に落ちたくねくねを抱き上げ、ボストンバッグの中に詰め込んでいく。

 くねくねはイカのようにヌルヌルしているし、柔らかい。巨大なイカとかミミズを抱えているようだ。匂いは強くはないが、どことなく海産物のような生臭さがあって気持ちが悪い。

 服も着替えなきゃいけない。だいぶ汚れてしまった。


「全部入りました」

『お疲れ様でーす。クーラーボックス開けておきますね』


 何か凄く疲れてしまった。

 ファスナーが締まる音を確認してから、目隠しを取る。空っぽだったカバンがパンパンに詰まっている。

 この中にくねくねが入っている。もしも、何かのきっかけで開いたら私も喰村さんもダメになる。空っぽのボストンバッグが爆弾になってしまった。


「どうだった?」

「疲れました」

「だろうな。だが、疲れは食事を彩る。それが食材なら尚更だ」

「……確かに自分で作った料理は美味しいですもんね」


 そう言われると今日の料理が楽しみだ。

 くねくねはどんな味なんだろうか、どんな食べ方をするんだろうか。楽しみで楽しみで仕方ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る