1-5 巨頭オは食べれるらしい

 食卓机に案内されてから数時間が経った。

 その間、板前は解剖台とその向かいにある厨房にずっと向き合っている。

 待っている間、彼の家の中をうろちょろと歩いていた。人が住んでいるとは思えないほど簡素な作りの家だ。家具は最低限しかないし、家電も、調理器具以外は小さな洗濯機とパソコンくらいしかない。

 そのくせ、調味料は充実しているし、お菓子も大量に常備している。

 この家を見るだけで、誰もが板前には食しかないと察することが出来るだろう。


「出来たぞ」


 部屋を見られるのも抵抗感がないらしく、私がうろちょろしていても、こっちを見るだけで何も言ってこなかった。それどころか「何もない家では暇だろう」「好きにしろ」とすら言ってきた。家のことを住むための場所としか考えていないのかもしれない。


「席につけ」


 板前に言われた通り席につくと、茶碗に盛られた米が出てきた。これで終わりなわけがない。

 心を踊らせながら、彼の動きを目で追うとファミレスでしか見ないような木の皿に乗った鉄のプレートを持ってきた。


「巨頭オのステーキだ。味はつけていない。巨頭オの本来の味を味わえる」

「ソースと調味料をここに置いておく、お好みで食べてくれ」


 プレートの上には、焼かれた肉、ステーキが乗っていた。彼からフォークとナイフを受け取り、逸る気持ちに身を任せ、切り分けようとすると板前が私の体を抑えた。


「待て、まだある」


 彼の言うとおり待っていると、彼は巨大な白い皿を持ってきた。その白い皿を間近で見て、これが皿ではないことを察した。これは巨頭オの頭蓋骨の蓋だ。骨を加工して皿のようにしている。


「次は巨頭オのもつ煮込みだ。味噌で煮込んである」


 その骨の中には、もつ煮が盛り付けられていた。人参、こんにゃく、大根と一緒に煮込まれた黄色いモツ。早く食べたい。早く味が知りたい。


「次に、巨頭オの卵焼きだ。巨頭オは卵生の生き物で体内に卵を隠していることがある」

「メスが先頭を走ることは少ないが、今回はメス、しかも卵持ちを捕まえられた。運が良かった」


 次に持ってきたのは普通の卵焼きだった。巨頭オが卵生の生き物というのは驚きだ。

 生物の枠組みを詳しくは知らないが、巨頭オは人間に近いのではなく、鳥類に近いのかもしれない。

 よくわからないが、味が楽しみだ。血が黄色い鳥は見たことがない。


 次に彼はカップを持ってきた。カップの中にコンソメスープが入っている。ただのスープではない。脳みそのスープだ。

 台湾で豚の脳みそのスープを飲んだことがあるが、豚は豚であり人型ではない。卵生とは言うが人間に近しい形状をしている。もしかしたら、猿脳に近いのかもしれないが、猿脳はまだ食べたことがない。


「最後に巨頭オの脳みそコンソメスープだ。巨頭オからとったダシで味を足している」


 確かにコンソメに似ているが、細部が異なる香りをしている。


「本当に楽しみ。どんな味がするんだろ」

「楽しんで食べてくれ」


 目の前にいる巨頭オ、彼は生き物だった。動物は生態系の中にいて、巨頭オも例外ではない。とは言え、巨頭オは今日、板前に合わなければ死ななかっただろう。だが、食事はそう言うものだ。

 命を食べ、命を繋ぐ、それが独善的な行為だとしても、生きていくために食事は無視できない。

 だからこそ、祈りだけは、感謝だけは、欠いてはいけない。

 手を丁寧に合わせて、目を閉じる。巨頭オの生きていた姿を思い浮かべ、出来る限り大きな声を出して、敬意を込めた感謝を伝える。


「いただきます!」

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