神崎乃亜は自覚する


 時は御堂涼太が天蘭高校に登校後。

 神崎乃亜は御堂家の空き部屋のベッドで唸っていた。


「御堂は鈴ちゃんになって、鈴ちゃんは御堂になって、御堂が鈴ちゃんで、鈴ちゃんが御堂でぇぇぇえ!!! あー、もうっ! 訳がわからないわ!!!」


 ダメだ。何度、思い返してみても鈴ちゃんが突然、御堂になったという事実は覆しようがない。


 ということは、やっぱり御堂涼太と御堂鈴は同一人物であるという事になる。でも、そんなことあり得るの?


 女性と男性、両方の姿を持つ人間が存在するなんて。


「ハッハッハッ! ずいぶん、思い悩んでるようね!」


「ハッ! すっ、すみません……。大きい声出しちゃって……」


 声を掛けられて、部屋の中に自分以外の人物がいる事に気付く。声を掛けた人物は、御堂の母だという人だ。


「ハッハッハッ! その様子だとアンタ、涼太がTS体質だって知らなかったんだろう? 動揺するのも無理ないさ!」


「TS体質……?」


「ああ、そうだよ。TS体質。正式名称はたしか昼夜間なんちゃら症候群って言ってね。午前と午後で性別が入れ替わるっていう奇病さ!」


「午前と午後で性別が入れ替わるって、そんな病気が存在するんですか!?」


 今まで一度も聞いたこともない奇病に、私は狼狽える。


「そうかい……。昔は世にも奇妙な病気ってことで話題になったんだけど、アンタらぐらいの世代じゃもう知らないか。これがジェネレーションギャップて奴かね?」


 私は知らないが、もう少し上の年代の人なら有名な病気なのだろうか? いやいや、今はそんなことを考えている場合ではない。


 御堂のことをまず、聞かないと。


「えーっと、そのなんちゃら症候群って病気に御堂くんが罹っているんですか?」


「そうだよ。涼太は中学2年生の時にTS体質になったんだ。それから、ずっとTS体質と付き合いながら生活してる」


「中学2年生から……」


「神崎さんが初めて涼太と会ったのはどっちの時なんだい?」


 どっち? あっ、性別のことか!

 まだ、2つの性別があるという事に馴染んでいなくて理解するのが遅くなってしまった。


「えっと……存在自体は男子の時から知ってたんですけど、深く関わるようになったのは女の子の時に助けられてからです」


「涼太が助けた? アンタみたいな別嬪さんを?」


「はい。ナンパされて困ってる時にすずちゃ……じゃなくて御堂くんが助けてくれたんです」


「ふーん……。そうかい、あの子がねぇ……」


 御堂のお母さんは意味深に悩んでいる。私、なにか変なことを言ったかな?


 少しの間悩んでいたが、御堂のお母さんは自分なりに納得したようでうんうんと頷いている。その様子に私もホッとする。


 しかし、お母さんの次の言葉にすぐに動揺する事になる。


「それで、アンタは涼太に惚れたのかい?」


「えっ……! ほっ、惚れっ……!!!」


「なんだい? 惚れてるわけじゃないのかい?」


「〜〜〜ッ!」


 たっ、たしかに鈴ちゃんのことを私は、友情を超えて恋愛的な意味で意識していた。でも、鈴ちゃんの正体は御堂が女の子の時の姿だったわけで……。


 あれ、ということは最初に私を助けたのは……御堂?


 ーーボッ!


 自覚して、途端に顔が熱くなる。顔だけじゃない。体まで火照って仕方ない。


 そっ、そうだよね。御堂と鈴ちゃんが同一人物ってことはあの時、助けてくれたのも当然御堂ということになる。


 改めて、自覚してしまう。


 さっきまでは御堂のことなんて考えていても、こんなに体が熱くなったりしなかったのに。御堂が助けてくれた事を理解した途端、御堂のことを考えるだけで頭が茹ってしまう。


 この感情は覚えがある。

 以前は鈴ちゃんに抱いていた感情。



 私……御堂のことを好きになっちゃってる!?



「ハッハッハッハッハ! その様子じゃ、今になって涼太のことが好きになったのかい? 面白い子だね!」


 ううぅぅ。

 他人に改めて自身の恋心を指摘されると、恥ずかしくて仕方ない。


 今すぐここから逃げ出したくてしょうがない。


「ハッハッハッ! まあ、アタシは若いもんがどんな恋愛をしようが口を出さないさ!」


「ううぅぅ……!」


「でも、神崎さん……!」


 お母さんが急に真剣な表情に変わる。さっきまでの豪快だけど包容力もある姿からは想像できない表情だ。


「涼太は……アレでもTS体質のことで悩んでるんだ。中学の時にはイヤな事件もあったしね……。だから……」


「…………」


「……涼太を絶対に裏切るんじゃないよ。もし、裏切ったらアタシがぶっ殺してやるわ」


 嘘じゃない……! お母さんは本気で言っている!


 本当に私が御堂を傷付けたら、殺す覚悟を持っている。母としての矜持というものを私は深く感じていた。


 でも、恋心を自覚してしまった以上、私も引くわけにはいかない。


「大丈夫です。御堂涼太くんは私が絶対に幸せにしてみます……!」


「……!」


 私とお母さんの視線がぶつかる。視線を外したら、二度と御堂に近付けないという予感がある。


 それだけはイヤだ!


 私は御堂と恋人になりたいんだから……!


 数分の視線の激突。互いに譲れないものの為に絶対に外せない。


「フッフッフ……」


 均衡はお母さんの笑みによって破られる。


 お母さんの笑みを確認すると、私も安心してホッと息を吐く。


「私と睨み合っても、視線を外さないなんて。アンタはとっても意思の強い子のようね。よし! アンタになら涼太を任せられるよ!」


 よかった……。とりあえずお母さんには認めてもらったみたいだ。


 でも、安心するには早い。まだ御堂と付き合うところまで行けたわけではない。


 御堂と付き合って初めて今日、お母さんに認めてもらったことが生きる。


「アンタもすっかり元気になったみたいだね? ほら、まだ今から出発すれば昼には着く。学校へ行きな」


「はっ、はい! あの、色々とありがとうございました!」


「気にしなくていいよ。未来の嫁の為なら、これぐらい幾らでも世話してあげるよ」


「よっ、よよよよ嫁ッ!?」


「ハッハッハッ! 早く学校へ行きなさいな! またウチに来るのを楽しみにしておくよ!」


 最後まで豪快なお母さんだなぁ。

 でも…….将来、私のお義母さんになる人はああいう人が良いな。


「いってきます!」


「いってらっしゃい!」


 背中でお母さんの言葉を受けながら、私は学校へと向かう。






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