"午前のオレ"と"午後のワタシ"〜TS(性転換)体質の俺を巡って超絶美少女のクラスメートと学園の王子様が修羅場すぎる〜

片野丙郎

プロローグ


 ……どうしてこうなったんだっけ。


「だ〜か〜ら〜、御堂は私とこれから用事があるって言ってるでしょ!」


 用事? そんな事言ってましたっけ。


「君こそ何を言っているんだい? 御堂君はこれから僕と生徒会室でしっぽり・・・・と親交を深める予定なんだが?」


 そんな予定はないし、しっぽりの部分だけ妙に色気を出して強調しないでください。


 眼前では2人の女子が言い争う。

 一人は天蘭てんらん高校、男子の間で絶対不可侵の高嶺の花。日本人離れした金髪碧眼のクォーター美少女、神崎乃亜かんざきのあ


 もう一人は全女子の憧れの的、男子よりもカッコいい女子。ショートカット黒髪を携えた彼女は、抱かれたい人物ナンバーワン、天蘭高校の王子様と噂される劔朝日つるぎあさひ先輩である。


 二人とも周囲の視線などお構いなしに睨み合う。

 


 場所は2-A組の教室。さっきまで談笑していた同級生たちも今では静まり返り、端っこで事の成り行きを見守っている。何より最悪なのは、睨み合う二人に挟まれた俺、御堂涼太みどうりょうたが当事者の一人である事だろう。


「……いいからサッサと消えなさいよ」


「君こそ、年上の先輩を尊重して消えたらどうだい?」


 視線が交差し、二人の間で火花が散る。いや、実際には散っていないが。しかし、教室中の誰もが二人の間に飛び散る火花を幻視しているだろう。


 龍虎相打つ。学園の二台巨頭である二人がぶつかり合うという珍事を聞きつけ、教室の外には大勢のやじ馬が集まる。

 おい、俺とその場所変われ。


 いや、これは夢に違いない。目を覚ませば、温かい布団と我が家の愛猫、ミャオが出迎えてくれるはずだ。アー、ハヤクユメカラサメナイカナー(棒読み)。


 俺が現実逃避している間にも、二人の距離は額がくっつきそうな程に縮まっている。二人を起点に漏れ出た黒いオーラが教室を包む。


「ヒィッ…………!」


 オーラに当てられ、女子生徒が悲鳴を漏らす。最早、教室の空気は最悪だ。昨日までの少し騒がしくも平和な2-A組の教室が恋しい……。


「「…………ウフフフフフフフフフ(睨み合い)!」」


 二人とも口元は笑みを浮かべているが、誰一人、その表情が本心と一致しているとは信じていないだろう。二人の頭上では龍と虎が激しい戦いを繰り広げている。


 龍虎の戦い(幻覚)が激しさを増すに連れて教室の温度が下がっていく。


 あっ……二人とも喧嘩しないで……! ほら、あまりの迫力に女子が隅っこで震えているよ。あっ、山田君が気絶しちゃった!?


 2-A組一番の人畜無害、山田君がプレッシャーに当てられて気絶してしまった。 山田君、君のことは今日一日ぐらいは忘れない……!


 なぜ、こんな事になってしまったのか……。俺は神崎乃亜と初めて接触した日まで記憶を思い起こすのだった。






ーーーーーーーーーー






 俺、御堂涼太はTS(性転換)体質である。午前中は男性、午後は女性。二つの性別を持って暮らしている。この厄介な体質を俺は、中学2年生の時に発症した。


この体質の正式名称は、【昼夜間性別逆転症候群】。英名だと【Boston transsexual syndrome《ボストン・トランスセクシャル・シンドローム》】と呼ばれている。世界でも十数例しか確認されていない奇病だそうだ。


 この奇病が初めて確認されたのは20年前、アメリカのマサチューセッツ州、ボストン。とある病院で生まれた男の子の赤ちゃんがいたベッド。

 目を離した隙に、男児がいたはずのベビーベッドに女児がいたのだ。


 当初は赤子の取り違いも疑われたが、女児から男児への変貌を目撃したナースによって、その赤子が2つの性別を持つ一人の個人である事が判明した。


 この驚愕の現象は、すぐに世界中に拡散した。当時、このおかしな病気は世界中の話題を席巻したらしい。


 日本でもネット上で【TS病】だとかなんとか、盛り上がったとか。これがホントの男の娘とか、一度で2度美味しいだとか何とか。……やかましいわ!


 そんな経緯もあって、日本ではTS病という名前でよく知られている。実際、俺もそう呼んでいるしね。この奇病は日本では現在、俺を含めて2名しか罹っていない。


 こんな面倒な病気に罹っている人間が日本にもう一人いるなんてね。もう一人には是非会ってみたいもんだ。


 幸い、こんな体質でも今のところは何不自由のない日常を送れている。初めて発症した中学時代には色々・・あったが、今が問題ないから結果オーライだ。


「涼太〜、もうすぐ6時半よ〜。早く起きて学校行きなさい!」


「……アーイ」


「……ミャーオ(かわいい)」


 そんな俺も今では高校2年生になった。現在、天蘭市にある天蘭高校に通っている。この体質はまだ、高校ではバレていない。


 天蘭高校でこの体質を知る人間はクラスの担任と校長だけだ。特に校長には、入学するにあたって色々と融通してもらった経緯もあり、頭が上がらない。


 天蘭市は遠いが、中学時代の色々の所為で、知り合いのいる高校には行きたくなかった。おかげで、毎日1時間半近く電車に揺られて通学しないといけないが……。


「……それじゃ、いってきまーす」


「いってらっしゃーい」


「ミャウミャ〜ウ(かわいい)」


 友人こそいないが、俺は自分の高校生活にそれなりに満足している。面倒事に巻き込まれるぐらいなら、誰とも関わらん方がマシだ。

 何気ない日常こそ最大の至福だ。


 この時の俺は、今日、この日を境に自分の日常が崩れていくなど考えもしていなかった……。






ーーーーーーーーーー






 場所は変わって、天蘭高校。天蘭市随一の進学校であり、入学するだけでも難関といわれる高校である。但し、俺の場合は事情を鑑みて校長が便宜を図り、1年前に入学が許された。


 校舎は学年ごとに用意され、その校舎一つ一つが無駄に広い。正直、入学して以来、一番困ったのは授業のレベルの高さではなく、移動教室の大変さである。新入生なら絶対迷うし、事実一度、俺は迷った。


 しかし、そんな校舎の広さも俺にとっては大きなメリットがある。


 そう例えば、【男から女に変わる】時である。


 今、俺がいる場所は第6用具室。毎回、俺はココでひっそりとTS(性転換)している。というかそもそも、この用具室は俺がTSする為だけに校長が新たに用意してくれた部屋である。


 だから、もちろん用具なんて置いておらず、あるのはロッカーにソファ、机ぐらいである。鍵も俺以外には誰も持っておらず、完全なプライベートが保たれている。


 現在、時間は17時過ぎ。男でいられる・・・・・・のも限界の時間である。


 えっ、午前と午後で性別が変わるんじゃないのかだって? もちろん、変わるよ。何もしなければ・・・・・・・だけどね。


 実を言うと俺は、後のこと・・・・を考えなければ、最大で2週間までなら男でいられる。それを可能にしているのが、毎月、配布される【性ホルモン抑制剤】である。


 性ホルモン抑制剤を飲むことによって、俺は一時的ではあるが、TS化を抑える事ができる。ちなみにこの抑制剤、男→女の場合と女→男の場合の2種類あり、普段、俺はこれを使い分けている。


 効果時間は1錠につき、その日の体調にも左右されるが、だいたい5〜6時間である。


 今は17時。つまり、今の俺は昼に飲んだ薬の効果が切れかけ、絶賛、TS(性転換)しそうなのである。


 ーーガチャ。


 用具室の鍵を掛け、ソファに横たわる。よし、これで、誰も入室はできない。ソファに横たわっていると、ついにTSの兆候・・がハッキリと俺を襲う。


「うっ………くっ………………!」


 身体中に蟻が這い回るような感覚が広がる。こそばゆいようなザワザワとした感覚は段々と強度を増し、一瞬、強い感覚が流れた後にやがて治まる。


 いつまで経っても、TSの時のコレは慣れそうにない。慣れたいとも思わないけど……。


「まぁ、でも……」


 しっかり女子の体に変わったな。今、俺の胸にはさっきまで無かった女性特有の脂肪が付き、下腹部からは男の特徴がすっかり消え去っている。おお、マイサンよ……。


 しかし、体は女子になったが服装はまだ男子のままだ。このまま用具室を出れば、男装した女子という目立つ事この上ない人物として、一般生徒に認識されてしまう。

 俺は目立ちたいわけでは無いのだ。


 着替えの為、ロッカーに掛けておいた女子用の制服を取る。ちなみに、ウチの高校は男女ともにブレザーで統一されている。


「しかし……」


 女子はよくスカートなんてものを履けるな。脚はスースーするし、ちょっと強めの風が吹けば簡単に捲れてしまう。ハッキリ言って、防御力ゼロである。


 薄着になって防御力が上がるのなんて、ド○ゴンク○ストの世界だけである。


「ハァ…………」


 男であった時の抵抗感に耐え、女子の制服に腕を通す。更に、女性らしさを出す為にロングヘアーのカツラをかぶり、薄くだが顔に化粧を施す。


 これで一通りの変装が終わった。女になったとは言っても、顔が急激に変わった訳ではない。間違っても、男子の時の俺と、女子の時の俺が結び付いては困る。

 もちろん、喋るときは口調を女子っぽくするのも忘れない。


 完璧に女子へと変貌を遂げた俺は、そそくさと帰路へ着く。






ーーーーーーーーーー






「今日も何もない良い一日だったな〜」


 何もない一日。これに勝るものはない。中学時代、散々面倒事に巻き込まれた俺が言うのだから間違いない。


 そういう意味では今日は最高の一日と言える……はずだった。


「ちょっとだけでいいからさ〜。顔を出してみない。気に入らなければ途中で帰ってもいいからさ〜」


 天蘭高校から最寄り駅までの目立たない裏路地。普段、俺が好んで使う道では2人組の男と1人の女子生徒が立ち塞がる。


「ねぇ、少しだからさ! ぜひ寄ってみてよ〜」


「興味ないですから!」


 どうやら、男の方が女子生徒に迫り、女子生徒がそれを断っている様である。ここで無視して通り過ぎるのは簡単なんだが……。


「すごく見覚えがある子なんだよなぁ……」


 絶賛、男から迫られている女子生徒、神崎乃亜は天蘭高校でも屈指の人気を誇る美少女である。入学してから現在まで、200人以上の男性からのアプローチをすげなく断ったクールビューティー。


 校内外を問わず、その存在を知られ、部外者を招いた文化祭では驚異の告白、30人斬りを達成したとの噂だ。まさに、天蘭高校のメインキャラクター。


「…………うーむ」


 見捨てると後味が悪いしなぁ。


「いや〜、いい経験になると思うよ〜。だからさ〜」


 ーーガシッ。


「ちょっとアンタッ!」


 少し様子を見ている間に、神崎は男の一人に腕を掴まれる。

 ちょっと、それは強引過ぎやしないかい?


 ……仕方ない。


「……あの〜、すみませ〜ん」






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↓現在連載中の作品


女川君は女性運が悪い〜俺は普通の高校生なのにいつも女性に絡まれている。もう放っといてくれないかな〜

https://kakuyomu.jp/works/16818093090314533540


彼女に裏切られて自暴自棄になってたら、超絶美少女でお嬢様なむかしの幼馴染に拾われた〜復縁してくれ?今の環境が最高なのでお断りします〜

https://kakuyomu.jp/works/16816927859737023671



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