【Web版】転生令嬢アリステリアは今度こそ自立して楽しく生きる。 〜平民街で、知識供与をはじめます〜
野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中
第1話 『前』の私の、最期の後悔
会社帰り。横断歩道の信号が青のになるのを律儀に待っていたすみれは、目の前の光景に目を見開いた。
「な、んで……」
思わずそんな声が漏れ出る。
せっかく昼食も抜いてまで、頑張って仕事を定時で終わらせた。
すべてはデートのためだって。
大変だけど、久しぶりに会えるからって。
なのに、仕事が終わって携帯を見た時に、来ていたメッセージは「あ、わりぃ。今日無理だわ」。
ドタキャンされ、それでも「そういう時もあるよね」と、じゃぁ帰りに夕ご飯の買い物でもと、スーパーに寄った帰りだった。
それなのに。
――何故その彼が今目の前で、別の女と仲睦まじく腕なんて組んで歩いているのか。
もう付き合って4年目だ。
大学生から社会人になり、そろそろ結婚を意識し始めた時期だった。
それなのに。
手酷い裏切りに、唇が震える。
なのに、声は掛けられなかった。
そんな勇気がすぐには持てないくらい、ショックだった。
そんな私に、彼が気がついた。
「お前ってさぁ、薄っぺらいんだよ。何でもかんでも俺任せ、『自分』ってのが全くなくて、全部俺の言いなりだろ? 俺が居ないと生きていけないとか言うけどさ、正直言ってそういうのって重いんだよなぁ。疲れるっつうか」
見るなり、謝るでもなく、唖然としている私に、彼はそう言ってヘラリと笑う。
「やっぱ、自分がない女ってつまんねぇわ」
そんな言葉で簡単に別れを告げた彼が、私の横を、女と腕組みしたまますり抜けていく。
まるで足の裏に根っこでも生えたかのように、私の足は動かなかった。
長時間立ち尽くしていた事を自覚したのは、雨が降り始め、ついに髪の先から水がしたたり落ちてきた頃だ。
涙が出たかどうかも分からない。
ただ、心にポッカリと穴が空き、酷い虚無感に苛まれていることは事実で。
ふいに足がふらついた事に、他意はなかった。
車のクラクション。
眩しいライト。
次の瞬間、私の体は跳ね飛ばされて。
――やっぱ、自分がない女ってつまんねぇわ。
あの男の言葉がリフレインした。
悔しい。
こうなって初めて、そう思えた。
もし来世なんていうものがあるのだとすれば、今度こそそんな事を言われない、ちゃんと自分のある人間に。
宙を舞う視界に最期に見えたのは、視界に反転している歩行者用信号の赤だった。
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