第32話 カップル成立?
【……あの、
「うん、重ね重ね同じ返事をするけど、問題なんてないない。向こうだって、事実かどうかなんて気にしてないから」
それから、数日後の放課後。
道すがら、おずおずと尋ねる僕とは対照的にからっとした笑顔を浮かべ答える斎宮さん。そんな僕らが
『……ねえ、
空き教室にて数分ほど閑談を交わした後、何処か窺うように尋ねる斎宮さん。お話によると、ご友人から余ったチケットを二枚頂いたとのこと。ここ最近、ごく一部――本当にごく一部の映画ファンの中で話題の作品らしいのだけど……うん、そこまで念押します? どんだけごく一部なのだろう……むしろ、どんな作品なのか俄然興味が湧いてきちゃったよ。
……ただ、それ以上に気になったのは、当チケットに附随するサービス――当チケットを持って来館したカップルは、それぞれMサイズのポップコーンを一つずつ頂けるというサービスで。……まあ、そういったサービス自体は、人によっては非常に有り難いものなのかなとは思うのだけど――
【……しかしですね、斎宮さん。やはり、カップルでないのにそのように偽るのは、些か罪悪感が生じてしまうと言いますか……】
そう、再び躊躇いがちに告げてみる。当然のことながら、カップルは自己申告制。なので、実際にはそうでなくても、お客さん側がそう言い張ってしまえば真偽を確認する術などないわけで――
「……ふーん、そんなに嫌なんだ? あたしとカップルなんて思われるのが。まあ、だったら無理にとは言わないけど」
「……へっ? あっ、いえその……」【……その、そんなことは決してありません……】
そう、冷気の籠もった
そういうわけで(どういうわけで?)、数十分歩き映画館へと到着――そして、受け付けにて。
「――はい、学生2名さまですね。お客さま方はカップルで宜しいでしょうか?」
「はい!」
チケットを手渡すと、何とも素敵な笑顔で問い掛ける店員さん。うん、接客に携わる身としては僕も大いに見習わなければ。……まあ、接客自体ほとんどしないんだけども。
ところで、それにしても……随分と嬉しそうだなぁ、斎宮さん。返事の声が何とも弾んでいる。ひょっとして……そんなに食べたかったのかな、ポップコーン。それなら、僕の分もあげ……いや、あげるも何も元々斎宮さんからもらったんだけどね、このチケット。
「はい、ありがとうございます。それではこちらからお一つずつ、お好きなポップコーンを選んでくださいね」
「はい、ありがとうございます!」
「……あ、ありがとうございます」
ともあれ、
まあ、それはそれとして、どんなラインナップかと言いますと――タピオカ味、ナタデココ味、マリトッツォ味……うーむ、正直どれも味の予想が全くつかない。塩やキャラメルといった定番の選択肢はないようなので、こちらから選ぶ他ないのだけど――うん、無難にタピオカかな。
「……いや、何と言うか……凄いね新里。この選択肢を前に、何の抵抗もないどころか嬉々としてるとか……どんだけ好奇心旺盛なの?」
ふと、声を潜めて問い掛ける斎宮さん。……あれ、ワクワクしてるの僕だけでした?
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